広島に原爆が投下されてから69年にあたる8月6日を中心に、広島市内でこれを記念する多彩な行事や集会が開かれた。主催したのは平和団体、労働団体、市民団体、自治体とさまざまで、全国から多くの人々が集まった。可能な限りそれらを見て回ったが、総じて安倍政権による集団的自衛権行使容認の閣議決定と、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に反対する声が高かったように思われた。昨年の「8・6広島」では、改憲を目指す安倍政権に対する警戒心と、「脱原発」を求める声が目立ったが、今年はそれがいっそう勢いを増し、緊迫感を漂わせていたという印象だ。
6日午前8時から、広島市の平和記念公園で行われた、恒例の広島市主催の平和記念式典。開会前から、暗い空から豪雨が降り注ぎ、会場は傘をさしたり、雨合羽をまとった人々で埋まった。雨天下の式典は43年ぶり。それでも4万5000人(市発表)がつめかけた。前年は約5万人(同)だったから、激しい雨も世界中からやってきた人々の「核兵器廃絶」への決意をくじくことはできなかったと見ていいだろう。
松井一実市長が平和宣言を読み上げたが、そこには、安倍政権による集団的自衛権行使容認の閣議決定への言及はなかった。元厚生労働省官僚で、自民党・公明党の推薦で市長に当選した松井氏としては当然といえようが、宣言には「日本政府は、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している今こそ、日本国憲法の崇高な平和主義のもとで69年間戦争をしなかった事実を重く受け止める必要があります」との語句があった。松井市長としては、閣議決定を間接的に批判したとも受け取れるのではないか。
式典後、広島市主催の「被爆者代表から要望を聞く会」があった。毎年開かれている首相と被爆者代表との懇談の場で、今年も安倍首相と被爆者7団体の代表が出席した。
席上、広島被爆者団体連絡会議の吉岡幸雄事務局長は、原爆慰霊碑の「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」の碑文を引用しながら、「集団的自衛権行使容認の閣議決定は碑文の誓いを破り、過ちを繰り返すものだ」と閣議決定の撤回を首相に迫った。例年、被爆者団体側がこの「聞く会」で持ち出すのは被爆者援護施策の改善・充実だったから、今年の聞く会は異例の展開だったと言ってよい。それだけ、最近の政治に対する被爆者たちの危機感が強いということだろう。
4日から6日にかけて開かれた日本原水協の原水爆禁止2014年世界大会広島には7000人(主催者発表)が参加し、「広島からのよびかけ」と題する決議を採択したが、そこには「日本政府に、非核三原則の厳守、『核の傘』からの離脱を要求し、核兵器禁止条約締結の先頭に立つことを強く求めましょう。集団的自衛権行使容認の閣議決定の撤回を求め、憲法9条を守り、活(い)かすため、広範な人びととの共同を発展させましょう」と書き込まれた。
やはり4日から6日にかけて開かれた原水禁国民会議の被爆69周年原水爆禁止世界大会・広島大会には3300人(同)が参加したが、ヒロシマアピールの他に、「集団的自衛権行使容認に反対する特別決議」が採択された。そこには「(閣議決定後の)7月14、15日、衆参両院で審議が行われましたが、首相は質問に真摯に答えることなく、審議と呼べる内容ではありませんでした。そして、消費税の増税をしりめに防衛予算を強化し、危険なオスプレイや強襲揚陸艦の導入を図り、自衛隊の質的転換を狙っています。今、沖縄では辺野古に新基地建設を強引にすすめ、『戦争をする国』をめざしています。数の力に頼り、『国益』を優先し、その事に個人を従わせようとする数々の施策を許すことはできません。戦後70年を目前にして、戦争に向かう動きを認めることはできません。憲法9条の空文化を認めず、集団的自衛権の行使容認に反対しよう」とある。
6日夜には、市民を中心とする実行委員会の主催で毎年、「8・6ヒロシマ平和のつどい」が開かれている。つどいは毎年、会場にメインスローガンを掲げており、昨年は「原爆と原発、アメリカの支配に抗して 真の文明は生き物を殺さず」だった。今年のそれは、ずばり「安倍を倒せ! 戦争をさせない! 9条活かせ!」。ここにも、集団的自衛権行使容認の閣議決定が濃い影を落としていた。
日本生活協同組合連合会(傘下の組合員数は2732万人)は、今年も5日に「ヒロシマ虹のひろば」を開いた。参加者は全国の生協組合員とその子どもら1200人(主催者発表)。主催者あいさつ、被爆者の証言、各界代表によるリレーメッセージ、被爆をテーマとした創作劇の上演などがあったが、主催者あいさつをした和田寿昭専務理事は「2015年に予定されている核不拡散条約(NPT)再検討会議で核廃絶問題を一歩でも前進させるよう努力しよう」と訴えたあと、「集団的自衛権行使を容認して海外の戦いに参加できるようにしたいなんて、核保有国の主張と同じだ」と述べた。明らかに先の閣議決定を意識した発言とみていいだろう。
日本生協連の幹部が個々の政治的課題に意見を述べることは極めてまれだ。生協内にはさまざまな政治的立場の組合員をかかえているからである。それだけに、和田専務の発言は印象に残った。
また、リレーメッセージで発言した女性の生協理事は「閣議決定の直後、息子に自衛官募集案内が届いた。戦前の赤紙(召集令状)を思い出した」と話した。
「川内原発再稼働反対」の声は、とくに原水禁国民会議の被爆69周年原水爆禁止世界大会・広島大会で目立った。
日本では、現在、原発は稼働していない。しかし、安倍政権は原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、原発の再稼働を推進中だ。まず、九州電力の川内原発1、2号機を再稼働させる方針で、先ごろ、原子力規制委員会が「新規制基準に適合している」と発表、現在、これに対するパブリックコメントを募集中だ。この後、地元自治体の鹿児島県の同意が得られれば、この10月にも再稼働になるのでは、と予想されている。それだけに、この問題を取り上げた分科会には緊迫感が感じられた。
被爆69周年原水爆禁止世界大会・広島大会で上がった声は次のようなものだった。
「東京電力福島第1原発の事故から3年5カ月たつが、いまなお事故は収束していない。高濃度の汚染水はコントロールできず、汚染水は海に放出されている。避難生活を強いられている住民はいまなお13万人にのぼり、この人たちは、いつ故郷に帰れるのか、これからどう生活したらいいのか見通しも立たない。子どもの教育についての不安、放射能に対する不安も増すばかり。政府が今、全力を注ぐべきことは事故の収束、事故原因の究明、被災住民の救済であって、原発の再稼働や原発の輸出ではない」
「日本は今、原発ゼロだが、電力は足りている。なぜ、そんなに再稼働を急ぐのか」
「日本はこれまでの原発運転により大量のプルトニウムを保有するに至った。これは原爆の材料にもなるところから、日本は核武装をねらっているのでは、という声が海外で出始めてといる。そうした疑念を解くためにも、もう原発の稼働はやめるべきだ」
鹿児島県からきた活動家は「薩摩川内市では、原発関連企業で働いてきた人が多いので、原発再稼働に反対でもなかなかそれを口にできない。県外の方々が反対の声を上げてほしい」と訴えた。
9日は長崎原爆の日。長崎市で市主催の平和祈念式典が予定されているほか、平和団体、市民団体などの集会が開かれる。
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