雑誌『金属』最新号(Vol.86,No.2,pp.61-72)に、高橋禮二郎氏らの論説『井上明久氏の日本金属学会論文賞(2000年度)受賞論文の研究不正疑惑―東北大学対応委員会「回答」の論理破綻―』が掲載されました

最新情報(105)(2016年1月25日)

雑誌『金属』最新号(Vol.86,No.2,pp.61-72)に、高橋禮二郎氏らの論説「井上明久氏の日本金属学会論文賞(2000年度)受賞論文の研究不正疑惑―東北大学対応委員会『回答』の論理破綻―」が掲載されました。
わが国の金属材料分野の専門誌で、(株)アグネ技術センターが発行し、創刊以来86巻の歴史をもつ雑誌『金属』2016年2月号に高橋禮二郎氏(フォーラム世話人・東北大学元教授・工博)を筆頭著者とする標記の論説が掲載されました。

論説要旨は以下の通りです。
「日本金属学会欧文誌に掲載された井上氏らの97年論文と99年論文は,同一組成のZr基バルクアモルファス(BA)合金を熱処理すると,前者では金属間化合物が,後者では準結晶が析出し,これら析出物の体積率(Vf)に応じて引張破断強度などの機械的性質が変化することを報告している。ところが,99年論文には97年論文に掲載されている試料外観写真やX線回折曲線が出典を明記せずに代用されている。さらに両論文を比較すると99年論文では97年論文と同一の合金組成で同一の状態(アモルファス単相)でありながら、引張破断強度が通常の実験誤差を大きく上回る43%もの違いがある。しかし全く合理的な説明がない。そこで我々が99年論文に研究不正の疑いがあると告発したところ,東北大学の対応委員会は、99年論文は機械的強度に関する「再実験の結果」をまとめたものであり、試料外観写真やX線回折データの代用は、99年論文は97年論文の『再解析』(=再解釈)だから問題はなく、告発には『科学的根拠がない』と切り捨てた。しかしこの認定には重大な誤りがある。『再実験』なら新たな試料を作製しているはずだから、その外観写真や、その試料がアモルファス相であることを示すX線回折曲線、および熱処理するとアモルファス相中に準結晶が生成するとことを示すX線回折曲線のデータを新たに作製すべきであったし、できたはずである。これらのデータを97年論文のデータで代用することは研究倫理違反以外のなにものでもなく、『再解析』という言葉を使えば許されるものではない、等々。本稿ではこうした諸点をその後の新たな知見も加えて詳論する。」(『金属』Vol.86,No.2,p.61)

なお、高橋氏らは、この論説の「補足」で、新たに明らかになった事実として、99年論文で井上氏らは、97年論文の製作試料外観写真を無断流用していただけではなく、96年論文のNd基BMG試料外観写真を、97年および99年論文で、Zr基BMG試料外観写真であると銘打って、さらに試料直径なども変更して無断流用していたことも明らかにされています。
高橋世話人らは、2013年春以後、この新たに明らかになった研究不正疑惑も含め東北大学、JST、文部科学省に研究不正告発をしたが、約3年を経た現在も未だ3機関から何の音沙汰もないとのことです。また、高橋氏らは、2010年6月27日付けで、日本金属学会理事会に対して、井上氏への「論文賞」授賞取り消しの申し入れもされていますが、同学会は自らの責任を棚上げする態度に終始しているとのことです。

『金属』誌編集部は、今回の高橋氏らの論説掲載に当たり、「元東北大学総長の研究不正疑惑-第三者機関の調査を」という記事を、高橋氏らの論説直前に配置し、英国科学誌『ネイチャー』の記事紹介を兼ねて、この問題に対する編集部の立場を明らかにしています。『金属』誌編集部は、今後とも関連する論説・記事を掲載するとのことです。

 

金属201602 01金属201602 02金属201602 03

 初出:「井上総長の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム)第2」より許可を得て転載:https://sites.google.com/site/httpwwwforumtohoku2nd/
2009年3月の第1回から第104回までは:http://sites.google.com/site/httpwwwforumtohoku/をご覧ください。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5873:160127〕