青山森人の東チモールだより 第219号(2012年8月7日)

“家族思い”の第五次立憲政府

青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

小さな国の大所帯、高額な第二期目のシャナナ連立内閣

 続投となったシャナナ=グズマン首相による組閣、つまり東チモール民主共和国史上の第五次立憲政府の概観が明らかになりました。新政府の顔ぶれは8月6日に発表、8月8日にタウル=マタン=ルアク大統領によって内閣は宣誓をうける段取りになっています。

 新内閣発足がまた新たな暴動の引き金ならないことを祈るのみです。7月15日、シャナナ=グズマンの政党CNRTがフレテリンと連立を組まないと発表するや、暴動が発生しましたが、16日に政党指導者と会合をもったタウル=マタン=ルアク大統領は、この暴動が選挙に勝てなかった者たちから発生したというより、むしろ勝った者たちから発生した、と述べました。そして、このことは予想外のことであり、したがって懸念されることだ、と述べました。つまりフレテリン支持者が怒って起こった単純な暴動ではなく、もっと複雑な政治背景があるようです。それゆえに心配です。

週間新聞『テンポ=セマナル』の速報によれば第五次立憲政府の閣僚は以下のとおり。

1、首相:シャナナ=グズマン

2、内閣官房長:アジオ=ペレイラ

3、副首相・社会福祉スポーツ大臣:フェルナンド=“ラサマ”=デ=アラジョ

4、財務大臣:エミリア=ピレス

5、外務大臣:ジョゼ=ルイス=グテレス

6、国務大臣:ジョルジュ=テメ

7、農水大臣:マリアノ=アサナミ=サビノ

8、法務大臣:デオニジオ=バボ

9、保健大臣:セルジオ=ロボ

10、教育大臣:ベンディト=フレイタス

11、通商産業環境大臣:アントニオ=ダ=コンセイサウン

12、社会連帯大臣:イザベル=グテレス

13、公共事業大臣:ガスタン=ソウザ

14、交通通信大臣:ペドロ=レイ

15、防衛治安大臣:フェルナンデス=アルベス

16、天然資源大臣:アルフレド=ピレス

17、観光大臣:カルブアディ=レイ

前回のシャナナ連立政権、つまり第四次立憲政府では、閣僚の人数は首相・副首相・外相・観光通産相・基盤整備・教育相・経済開発相・国務相・財務相・社会連帯相・農水相・保健相・法相の13人でしたが、今回は17人です。前政府ではなかった省や名前が変化した省があります。

名簿を見てわかるように同じ家族名があります。エミリア=ピレス財務大臣とアルフレド=ピレス天然資源大臣、ジョゼ=ルイス=グテレス外務大臣とイザベル=グテレス社会連帯大臣、ペドロ=レイ交通通信大臣とカルブアディ=レイ観光大臣。これら六名の三組はそれぞれ兄弟姉妹であり、その他にも親族絡みの人員配置があると報じられています。

また『テンポ=セマナル』によれば、副大臣が11人、長官が25人、政府要人は総勢53名の大所帯となり、副大臣や長官の月給は2500ドル(つい数年前は大臣級の月給は数百ドルだったのに)、単純計算をして53人分として一年に159万ドル、次の選挙までの5年間、かれらに支払われる金額が総額で795万ドルとなります。実際は大臣の月給は2500ドル以上なので金額はこれ以上となり、さらに、かれらには交通・年金・公用車・日当・電話代、インドネシアとシンガポールでの健康管理などのVIP特権が施されるとのことです。東チモールの現状に反映した国家運営とはとても思えません。

「寡頭政治をもたらす深刻な縁故主義」と新政府を批判する民間調査団体「ともに歩む」代表による批判を『テンポ=セマナル』は紹介しています~これは連立政権を保つための人員配置であり政治的だ、国民に奉仕するための効率的・効果的な人員配置ではない、この政府を維持するにはあまりにも高額となる、そのような国家予算は開発に注がれるべきだ、タウル=マタン=ルアク大統領は選挙運動のさい、民主主義・説明責任・縁故主義・腐敗にかんして多くの約束をした、いまそれを実行するときだ~。

首都デリ(ディリ、Dili)ではゴミをあさる子どもたちやお年寄りの姿の数が、季節・時期にもよるのでよくわかりませんが、一向に減っていないようにおもわれ、もしかして増えているかもしれません。肩に担いだ棒に物をぶらさげて売る子どもたちも同じです。本当ならば子どもたちは学校で勉強したり、遊んだりしなくてはならないのに……。新聞『インデペンデンテ』紙はよく、ゴミ捨て場を物色して生活費のたしにする母と娘の姿を“開発の影”として報じます。

チモール海の天然資源開発から得られる国家予算で潤うのは政府関係者ばかり、貧しい一般市民は顧みられないという痛々しい現実が、この前のシャナナ連立政権で明らかになりつつあったのが、第二期目のシャナナ連立政権では当たり前の風景になるイヤな予感がします。

基本は、第五次政府は第四次の継続

 さて、閣僚名簿でまず目を引いたのはアジオ=ペレイラが官房長官として二期目に入ることです。シャナナ=グズマンの懐刀、シャナナ連立政権にはなくてはならない要の人物といってよいでしょう。そしてエミリア=ピレス財務大臣もやはり継続となります。アジオ=ペレイラとエミリア=ピレス、この二人とかれらと近しい者たちは前のシャナナ連立政権では、タウル=マタン=ルアク国防軍司令官(当時)や元解放軍兵士を挑発するような奇異な動きをしていたことがありました。それが政府と大統領府の潜在的な対立要素に発展しないように願いたいものです。

次に注目すべきは、新たに設置された天然資源省の大臣に、前内閣では天然資源担当長官だったアルフレド=ピレスがそのままおさまっていることです。シャナナ首相、アジオ=ペレイラ官房長官、ピレス天然資源相、この三人が引き続いてチモール海に眠る天然資源の開発にかんして交渉人を務めることになります(核となる人物はアジオ=ペレイラ官房長官であろう)。つまり、少なくともこれまで通り、あるいはこれまで以上に、チモール海の天然資源開発にかんして外国企業は、妥協しない頑固者を相手にしなくてはならないことを意味します。

 「グレーターサンライズ」ガス田の開発交渉が暗礁に乗り上げたままになっているオーストラリアのウッドサイド社に残された時間はあまりありません。交渉期限は来年で切れるはずです。

では、日本はどうか。7月31日、「東ティモールガス田開発 各国企業と政府 権益めぐり攻防」という共同通信によるタイトル記事が新聞に載りました。「現在、東ティモール近海でガスを産出しているのは、南岸から250キロ沖合のバユ・ウンダンのみ。東京電力、東京ガスなどの出費で06年に生産を開始、……」とあり、「日本へのLNG安定供給の一翼を担う存在」と指摘する日系石油会社や、「エネルギー供給元の多角化は国家的課題だ。東ティモール沖の資源の重要性は高まっている」と強調する日本外交筋のコメントを紹介しています(『東奥日報』2012年7月31日)。

 原子力発電所がエネルギー供給に寄与しえないことは周知されつつあるなかでLNG(液化天然ガス)の需要は今後高まっていくことでしょう。チモール海のガス田はこれから日本そして世界の注目を浴びる存在となっていくはずです。

相手国から資源を買って、自分の国でその資源を利用する国の市民とすれば、相手国へちゃんとお金を払えばそれでよし、その金がその国の政府によってどう使われようが知ったこっちゃない、という過去の教訓から学ばない考え方だけはわたしたちは避けなければなりません。ガス田の開発、そこから得た金によって東チモールの一般市民の生活がどのように変わるのかに気を配る道徳を実践すべきです。もしチモール海の天然資源開発が逆に東チモール人を圧迫させるとしたら、“都会”の豊かな生活のために、貧しい“田舎”が犠牲になる構造がまた築かれることになるからです。

~次号へ続く~

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2018:120807〕