青山森人の東チモールだより 第378号(2018年8月19日)
「ゼロ プラスチック」というけれど…
硬まってしまった政府と大統領府の睨み合い
8月13日、2018年度国家予算案の性格について審議され、「緊急性あり」との性格に賛成多数で可決されました。これにより、審議日程が“緊急性なし”と比べ短縮されることになり、9月7~10日ごろには予算案が国会を通過し、大統領へ送られる見通しとなりました。まずは8月15日、予算案は国会内に設置されている分課会の一つ、財政を扱うC委員会に諮られはじめました。
かくのような国会場面を迎えてもまだ、9人の閣僚候補者が宙ぶらりんになっています。フランシスコ=グテレス=“ル=オロ”大統領(以下、ルオロ大統領)が、三党連合勢力AMP(進歩改革連盟)のなかの最大勢力であるCNRT(東チモール再建国民会議)幹部9名が汚職事件にかかわっているとして閣僚に入ることに難色を示しつづけているのです。これにたいし政府側は政府側で、閣僚名簿を書き換えるつもりはないと言い張り、両者は一歩も譲らず、睨み合いは硬まってしまいました。
タウル=マタン=ルアクPLP(大衆解放党)党首が首相に就任して第8次立憲政府が立ち上がったのは6月22日ですから、新政権は発足以来およそ二ヶ月たっても政府を完成できないでいる、あるいは大統領が政府を完成させないでいる、という状態は異常といってもよいでしょう。
前号の「東チモールだより」でも書きましたが、ルオロ大統領がCNRT9名の閣僚候補者に難色を示しているのは、候補者たちの“身体検査”が本当の理由ではないと考えた方がよさそうです。下衆の勘ぐりをしてみますと、去年せっかく発足したフレテリン(東チモール独立革命戦線)連立政権がAMP(このときのAMPとは国会多数派連合)の抵抗にあってあえなく国会解散となってしまったその仕返しとしてフレテリンがAMP政権(いまのAMPは進歩改革連盟)に意地悪してやれっというわけか、あるいはフレテリンにも閣僚の席を分け与えて仲良く政府を動かしていこうではないかという要求か…? いずれにしても政府と大統領府の睨み合いは醜い政治ショーの様相を帯びてきました。
34議席を擁するAMP政権のうちCNRTは21議席であるのにたいし、8議席しかもたないPLP党首のタウル=マタン=ルアク首相は、CNRTとルオロ大統領(フレテリン)との板ばさみとなって窮屈そうです。ちなみに5月に実施された「前倒し選挙」で3議席を獲得した三党連合勢力「民主開発戦線」は与党寄りか野党寄りか進路をめぐってあえなく分裂してしまい、3政党のうち2政党が2議席を引きつれ、8月4日、AMPと正式に合流しました。これにより与党側は36議席を擁する勢力になりました。
制度はいいが人がよくないのか
政府がたとえ国会で安定多数をもっていても大統領が野党側であることが、本来ならば政府の暴走を許さない歯止めとして機能すればよいのですが、実際は新政権の船出の妨げになり政局を不安定にしてしまっています。このことは政治制度に何か改善の余地があることを意味するのでしょうか…、わたしはソモツォ前防衛大臣に会ってきいてみました。「政治制度はいいのだが…」と前防衛大臣が言い淀むので、わたしが「人がよくない…」といってみると、「抵抗運動時代われわれは助け合っていたが、いまは対立し合っている」と顔をしかめます。なおソモツォ前防衛大臣はフレテリンの比例名簿で第20番目に名前が載り、フレテリンは23議席を獲得したことからソモツォ前防衛大臣は国会議員になれたのですが、他の党員に議員の席を譲り、いまは一般市民にもどっています。なぜ譲ったのかときくと、「休むため」といい、大臣職のたいへんさを話してくれました。ご苦労様でした。フレテリンの飛躍のためにしばらく休んで充電してください。
海を殺すな
第8次立憲政府であるAMP新政権が発足するやいなや、「ゼロ プラスチック政策」を旗揚げしました。ゴミが大量に散乱する浜辺を学生たち・若者たちが掃除するニュースがよく流れます。
プラスチックごみの問題は数ヶ月前から深刻な環境問題としてBBCで本格的に報道され始め(わたしの印象だが)、日本でも民放のテレビニュース番組が「海を殺すな」というテーマで、海を汚染するプラスチックごみの問題点を伝えていました。世界が新たに取り組むべき環境問題としてプラスチックごみを減らすため、プラスチック製のストローを紙製に変えるなどの試みが大手のコーヒー会社によってされようとしているのはけっこうなことです。東チモールの新政権がその流れにすばやく乗って「ゼロ プラスチック政策」を掲げるのもそれはそれでたいへんけっこうなことです。
青森県の核政策に反対する市民が守る「海を殺すな」の看板。
「海を殺すな」……う~ん、どっかで聞いたことのあるセリフだなと思ってテレビニュース番組を見ていたが、これは原子力船「むつ」に反対する人たちが昔から使っていた文言なのだ。
青森県むつ市にて、2018年7月15日。ⒸAoyama Morito
しかし東チモールの場合、プラスチックに限定されない「ごみ問題」が問題なのです。プラスチックを含むさまざまなゴミの散乱が東チモールを不衛生にしています。2007年以降、つまりシャナナ連立政権になってからゴミ箱や大型ゴミ捨て容器などが広場や路肩などあちらこちらに設置され、ゴミ収集作業員も多数動員され、一時的に町並みがきれいになるときもあるのですが、揺れ戻りが激しく、すぐまた元の木阿弥になってしまいます。いまの首都デリ市内のゴミの散乱ぶりは近年まれにみる劣悪な状態ではないかとわたしには思われます。AMP政権は「ゼロ プラスチック」とケチくさいことをいわないで、「ごみゼロ」と世界最先端をゆく大志を抱いてほしいものです。
『チモールポスト』(2018年8月7日)は、「タウル=マタン=ルアク首相、環境に貢献するゼロ プラスチックにゴーサインを出すが、国民を代表する国会議員が何をするでもない」と、国会議員たちの机の上にペットボトルがずらりと並んでいる写真を掲載して皮肉っていました。わたしはジャーナリストたちのとある勉強会に顔を出し、この記事はなかなか面白かったというと、かれらは「われわれはゼロ プラスチックはゼロ プラティカ(実践)というんですよ」と嗤いました。
大型ゴミ捨て容器の前で散乱するゴミ。
学校の前であろうが、教会の近くであろうが、きれいでなければならない場所でもゴミの散乱が目立ちすぎる。せっかく目の前に大型ゴミ捨て容器があるのだから、ちゃんとそこにゴミを入れるだけでも違ってくるはずだ。政治空白や経済低迷にめげないで、蚊の発生を防ぎ、マラリアやデング熱から子どもたちを守るために地域社会の大人たちに奮起してもらいたい。
ベコラにて、2018年8月15日。ⒸAoyama Morito
~次号へ続く~
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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