青山森人の東チモールだより 第353号(2017年8月16日)
お二人さん、ついに再会か
PLP、連立参加の動きを見せたが…?
フレテリン(東チモール独立革命戦線)は連立政権の枠組みを決めるために8月9日(水)からCNRT(東チモール再建国民会議)を皮切りに、PLP(大衆解放党)・民主党、そしてKHUNTO(チモール国民統一強化)と、一日一党の割合で話し合いの場を設けました。最終日となった12日(土)はKHUNTOと会合をもちました。一連の会合の結果、その土曜日、フレテリンのマリ=アルカテリ書記長は連立を組む相手にPLPとKHUNTOを選んだと発表しました。
KHUNTOは前々から声がかかれば連立政権に参加する立場を表明していたので、KHUNTOが連立の誘いにのるは何も問題はありません。しかし、野党になるという立場を表明してきたタウル=マタン=ルアクPLP党首がフレテリンの誘いにのるような姿勢を示すとなると、言動不一致の問題ある行動となります。
8月14日(月)の日刊各紙(『インデペンデンテ』『東チモールの声』『チモールポスト』『ディアリオ』)は第一面で、フレテリンがPLPとKHUNTOと連立政権のための話し合いをこれからもつこと、PLPが連立政権に参加する可能性があること、タウル=マタン=ルアクPLP党首がフレテリンに感謝していることを報じ、各新聞の見出しからするとPLPの連立政権参加はほぼ決まったかのようでした。
「第7次立憲政府、 PLP、用意あり、KHUNTO、前向き」。
『東チモールの声』(2017年8月14日)より。
それにしても、8月10日(水)フレテリンとの会合のあと、野党の立場に変わりがなく、政府内で仕事を探すつもりはないと明言したタウル=マタン=ルアクPLP党首に何が起こったのでしょうか。政治とは、わたしのような素人には理解不能な、まさに摩訶不思議な世界としかいいようがありません。PLPは連立政権に参加しないとわたしは予想しましたが、あぁ、またしても大きくはずれることになりそうです(シャナナ=グズマンCNRT党首は野党にまわらないという予想につづき)。しかしながら、タウルPLP党首はまだ正式な書簡での要請を受けたわけではないという “含み”は残しました。
12日(土)、連立参加の招きにたいしタウル=マタン=ルアク党首が応じる姿勢を示したことは、PLP創設に尽力し選挙応援をしてきたPLP支持者にとって、寝耳に水、青天の霹靂、の衝撃でした。土曜日の夜からタウル党首に連立参加を思いとどまらせるための相当に強い言葉による説得・圧力が党内で集中したことは想像に難くありません。PLP党員は、PLPは野党でいくとタウル党首が発言するたびに盛り上がったとわたしはきいています。もし党員の思いに反してPLPが政権参加すれば、タウル党首は党内で支持を失い、面倒なことになるでしょう。
するとどうでしょう、週が明けると、タウル=マタン=ルアクPLP党首は、PLPが第一党から声を掛けてもらったことは名誉なことでうれしいが書簡で正式な要請を受けていないのでPLPが連立に参加することは決定ではない、連立政権の形成について話し合いだけにはいつでも応じる用意がある、PLPの連立参加は憶測だ、PLPの野党である立場は表明したとおり、憶測はいけない、などと週末とはかなり口調が変化しました。多くの党員が政権参加に猛反対したことが反映していると憶測されます(憶測はいけないとタウルさんに叱られそうですが)。
昔とった杵柄、解放闘争の指導者たちの秘密会合
8月14日(月)の午後、別の大きな動きがありました。PLPとKHUNTOをフレテリン連立政権の相手として選んだと発表したマリ=アルカテリ書記長ですが、シャナナCNRT党首の選択肢を捨て切ってはいませんでした。大統領府にフレテリンのマリ=アルカテリ書記長とシャナナCNRT党首が集まり、ル=オロ大統領を介して、選挙後ようやくフレテリンとCNRTの指導者二人が初顔合わせをしたようです。
「ようです」というのは、あくまでも憶測だからです。大統領府のなかでマリ=アルカテリ書記長とシャナナCNRT党首が顔を付き合わせたかどうかは憶測に頼るしかありません。この二人がこの日、大統領府にやって来ることは記者たちも知らなかったことで、会合が非公開であることはもちろん、内容も明かされず、二人が大統領府に出入りする場面さえも記者たちはまかれてしまい捉えることはできませんでした。したがってこのとき大統領府内で起こったことは現場に居合わせた者しかわかりません。
『インデペンデンテ』(2017年8月15日)はこの秘密会合を「“地下組織”のモデル」と感心とも皮肉とも受けとれる表現をしました。さすが抵抗運動の経験豊かな指導者たち、秘密行動は若い記者たちよりも一枚も二枚も上手だというわけです。一方、要人が秘密会談を開くことが民主主義社会としてどうなのかという疑問もあります。
同『インデペンデンテ』はシャナナCNRT党首について、「シャナナ、“シェルター”から出る」と見出しをつけ、選挙後、ル=オロ大統領に二度招待されたにもかかわらず大統領と会見してこなかったシャナナCNRT党首が殻から出てきたと報じました。CNRT会議には姿を現したシャナナ党首ですが、それを除けばシャナナ党首は殻に閉じこもっていると誰しもが思っていることでしょう。
「シャナナ、“シェルター”から出る」。
『インデペンデンテ』(2017年8月15日)より。
選挙後、シャナナCNRT党首がいかに公の場に姿を現していないかがわかる見出しである。
フレテリンのマリ=アルカテリ書記長がさかんにシャナナCNRT党首に、連立政権で協力していきましょう、と“ラブコール”を選挙運動中も選挙後も送りつづけているのに、シャナナCNRT党首はつれないそぶりをするだけです。この二年間蜜月状態にあったこのお二人さんが大統領府内でどうなったかは知るよしもありませんが、もし顔を合わせたならば、話し合いの内容はともかく、めでたいことです。タウル=マタン=ルアクPLP党首は、二人のあいだに合意があってもなくても話し合いがようやく実現した(であろう)ことにたいして「拍手をしましょう」と記者たちに語りました。
新モデルの政府とはどういうこと?
先述の「“地下組織”のモデル」という表現はもう一つ、マリ=アルカテリ書記長が14日(土)に、近日中に「新しいモデルの政府」(意訳すれば“新型政府”か)を発表すると語ったことに引っ掛けていると思われます。アルカテリ書記長は新政権について、「これまでにないモデル」と発言しています。ただしそれが具体的に何を意味するのかは言及していません。他政党からは首相は出さない、第一党から首相を出す、かといって自分は首相にはならないであろう……というごくありきたりのことがいまのところアルカテリ書記長による新政権にかんする具体的な発言です。
いずれにしても8月22日が新政府の発足宣誓式ですから、新政権は21日までに樹立されなければなりません。ギリギリの折衝もあと数日を残すのみです。時間がありません。連立の枠組みを決めるのにこれほど手間取り難航しているのは、要人が描いたシナリオどおりに選挙結果を含めて事態がうまく流れてくれないので指導者たちがまごついているというのが実情ではないでしょうか。そうだとしたら、東チモール経済の実情にそぐわない高額な給料を得るプチブルジワ政治家たちに一泡ふかせた有権者に「拍手をしましょう」
「フレテリン―PLP-KHUNTO、第7次立憲政府プラットフォームについての話し合い」。
『チモールポスト』(2017年8月16日)より。
タウルPLP党首は話し合うだけで野党の立場に変わりはないといっている。野党という立場ながらも何らかの形で“新型政府”に参加する可能性はある。シャナナCNRT党首も然り。シャナナCNRT党首は、オーストラリアを相手にするチモール海の境界画定交渉に欠かせない人物だ。
~次号へ続く~
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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