青山森人の東チモールだより…とんだ年明け

ルオロ前大統領宅に銃弾が

大晦日から元旦へ年がかわるときは誰でもなんとなく幸福な気分を味わえるめでたい時ではないでしょうか。しかし東チモールでは物騒な年明けになりました。

新年ほやほやの2025年1月1日午前1時半ごろ、フラシスコ=グテレス=ルオロ前大統領(任期は2017~2022年)の自宅に何者かによって銃弾が撃ち込まれました。空に向かって撃たれた9mmの口径の銃弾が、ルオロ前大統領がいつも座っている座席の近くにあるテーブルに当たったのです。

何者かが意図的にそこをめがけて発砲したのか、それとも年明けを打ち上げ花火や爆竹で祝う悪童たちに便乗して無邪気にピストルを空に向けて発砲したのか、空に向けて実弾を発砲することの意味を知る者の仕業か、たんなる悪ふざけで空に発砲したらたまたま前大統領宅に着弾したのか、故意か過失か、報道によればこれらのことはまだわかっていないようです。わかっているのは、銃弾は拳銃のものであるということぐらいです。

PNTL(東チモール国家警察)は弾道検査などの科学捜査をする機器を持っていないのでオーストラリア連邦警察に支援を要請し、これをうけて近日中にオーストラリア連邦警察が東チモールを訪問する予定であると報じられています。前大統領で国民的指導者の一人である人物の自宅に銃弾が撃ち込まれた由々しき事態の全容解明を警察は一刻も早くしなければなりません。

話はちょっとずれますが、1月12日、西チモールから東チモールへ陸路の国境で銃弾を持ち込んで入国しようとした東チモール人が捕まりました。その人物が警察官の子どもであると伝えられています。

また、ロンギニョス=モンテイロがPNTL長官だった時代に所持していた武器の一部などをその後も自宅に不法所持をした件で(東チモールだより第481号・第516号)、去年2024年7月、ロンギニョス=モンテイロ被告に無罪が言い渡されました。所持していた武器は危険ではないというのが判決理由でした。ロンギニョス=モンテイロが現シャナナ政権で国家諜報機関の長官に就任したことがこの判決に影響していないことは決してないと考えられます。

ルオロ前大統領宅へ銃弾が撃ち込まれた件はまだ何一つ解明されていませんが、拳銃と銃弾が不法で危険な使い方をされたことは確かです。

1月13日、シャナナ=グズマン首相は警察本部を訪れ、治安対策に万全を期すように要請しました。しかし、武器を不法所持していた元警察長官に何のおとがめもない環境では治安対策に万全を期すことはできないのではないでしょうか。

あぁ無情、年明け早々に立ち退きとは

東チモールの国家機関である地名都市計画庁(SEATOU)が去年、本格的に徹底的にそして強制的に、公共の場に不法居住している住民の追い立て作業に着手しました(東チモールだより第514号・第519号・第520号)。そのSEATOUはこの年明け早々、1月3日から、去年に引き続き住民の追い立て作業を開始しました。新年の気分に誰もが浸っているなかで情け容赦のない強制立ち退き作業です。

まず対象となったのはコモロ川に架かる橋のふもとに不法居住する住民で、その場所はフォメントⅡと呼ばれる地区です。その場所に家を建て居住するのは不法であるとはいえ、正月早々に民家が重機で破壊され住民が追い出され家財道具が外に乱雑に放置される光景は謹賀新年の雰囲気を台無しにする残酷な光景です。

強制立ち退きに賛成・反対

SEATOUによる住民立ち退き作業について国会で1月7日、議論されました。以下、『インデペンデンテ』(2025年1月8日)から国会議員の意見を紹介します。

野党フレテリン(東チモール独立革命戦線)のジョゼ=ダ=クルス議員は、苦労して建てた家を失い強制的に追い立てられた住民は幸福をもたらすはずの新しい年の始まりを涙で迎えることになった、とSEATOUを非難しました。

ジョゼ=ダ=クルス議員はさらにSEATOUがいま住民におこなっていることはかつて独裁者の支配下で住民が経験したことであり、いまそれが自由の独立した民主主義の国でおこなわれていると述べ、民衆の独立闘争とは子どもとそのまた子どもたちの輝かしい未来と生活のため人権を敬い人権を守るという国家を建設するためのものであったのに、血と汗を流し自らを犠牲にして獲得した国家から得られたことは、不幸なことに希求と夢に反することである。この国家は警察と軍の力を借りて、家を持つという住民の権利、国内の移動の自由という権利、そして経済活動の自由という権利を踏みにじっている、と政府を強く非難し、SEATOUの行動について人権擁護機関と検察庁に調査するように求めました。

SEATOU非難にたいし、与党CNRT(東チモール再建国民会議)のセデリジア=ファリア=ドス=サントス議員は、危険な場所である川沿いの住民を立ち退かせたとしてSEATOUを擁護し、政府が住民に補償を与えることになっているから立ち退きをさせたのであり、政府は困難な状況にある住民を見捨てはしないと信じると述べました。

野党KHUNTO(チモール人国民団結美しき豊穣)のルイス=ロベルト議員は、SEATOUは法に基づいた行動をしている、SEATOUの任務には敬意をもつと前置きをしたうえで、住民がそれまで住んでいた場所からで出なければならないならば政府はそのための条件をつくってやるべきだ、SEATOUは法の遂行に心が伴っていない、と批判します。さらに同議員はSEATOのゲルマノ=サンタ=ブリテス=ディアス長官による乱暴な行動と言葉遣いは評価に値しないといい、この長官を「ごろつき的な人物」と強く非難したのです。

以上、賛否両論の意見をきいたうえでわたしが思うのは次のとおりです。たしかに大雨によって川が氾濫すれば川沿いの住民の命は危険にさらされることになります。1月1日、ヘラという村にある国防軍の海軍部署が大雨の被害を受けました。歴代政権は再三にわたり川沿いに家を建てないようにと警告してきました。しかし貧しい住民にとっては、そんなことをいわれても他にどうしようもないので……と禁止されている危険な場所に不法に家を建て住み込んできました。いま雨季の真っ只中です。住民の家を壊して高温多湿の雨空に放り出すとは何事かという意見と、川が氾濫する前に強制的にでも住民を危険な場所から移動させて命を救った方がよいという意見は対立をみます。しかも政府は立ち退かされた住民に補償を与えるというのだから、上記のドス=サントス議員のようにSEATOUを擁護する意見が出てもおかしくはないでしょう。しかしながら、法的根拠があり大義があるとしても、問題はそのやり方ではないでしょうか。是非とも立ち退いてもらわねばならないとしたら、暴力を行使せず話し合いでそうしてもらうべきです。あらかじめ仮住まいを用意して、補償を与え、それから移動してもらうという手順を踏めばよいのではないかと誰しもが思うところでしょう。ところが政府が踏んでいる手順とは、最後通告はしたのだからとまずは家をぶっ壊して住民を外に放り出してから補償を与えるというのでは、住民の人権を侵害しているという批判は免れません。

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『インデペンデンテ』(2025年1月8日)より。

「フレテリン、フォメントⅡの家を破壊するSEATOUの行動を非難」(見出し)。

「フレテリンの国会議員は、フォメントⅡの川沿いの住民を条件づくりをしないで強制的に立ち退かせる地名都市計画庁(SEATOU)の行動を強く非難した」(一段落目)。

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まず立ち退きありき、補償は後回し

1月7日、立ち退きさせられたフォメントⅡ地区の住民は複数の市民団体が参加する集会をもちました。その場での住民の訴えは深刻です。例えばセバスチャン=ティロさんは、子どもたちの椅子や筆記用具が壊されてしまい心に傷を負ってしまったといい、アリアンサ=ゴンサルベスさんは、商売をするために借金をしたが家を壊されてしまった、もう生きる望みを失ってしまった、どうやって借金を返したらよいのか、と訴えました(『インデペンデンテ』、2025年1月8日)。

『タトリ』(2025年1月13日)の報道によると、政府は立ち退きをさせられたフォメントⅡ地区の住民に補償を支払うため銀行口座などが書かれた書類申請の受け付けを開始しました。同地区の立ち退かされた288世帯のうち124世帯から銀行口座などが書かれた申請書類を政府は受け取ったとのことです。

この記事によると、立ち退きをさせられた住民の一人・セレステ=デ=ジェスス=バレトさんは住民のことを考えてくれた政府に感謝するといいつつも、いつ補償がもらえるのかわからないとも述べています。またベリシモ=モンテイロ=マルサルさんもまた補償を受けるため書類を提出した一人ですが、SEATOUが住民との対話に基づいた行動をとらなかったことは悲しいと吐露します。住民を立ち退かせる前に補償を与え、通知を出して、それでも立ち退かなかったらまた通知を出して、そして立ち退かせるということをしてもよかったのではないかといいます。

シャナナ=グズマン首相の冷たい言動

ニュース映像などを見れば住民を泣かせる蛮行をするのがSEATOUで、その長官は「ごろつき的な人物」といわれるのも無理からぬことのように思えますが、SEATOUとは都市整備を任務とする政府機関の一つです。政府を率いるシャナナ=グズマン首相にSEATOU批判は向けられなければなりません。「SEATOUには心がない」というセリフを吐くとしたら、「シャナナ首相には心がない」というべきではないでしょうか。SEATOUはシャナナ首相の指導のもとで行動しているのですから。

しかし解放闘争の最高指導者であったシャナナ=グズマンは〝アンタッチャブル〟な存在であり、なかなかそうはなりません。シャナナ自身もそのことを十分に認識し利用しているようにみえます。そこにシャナナ政権の危うさがあります。

1月6日、シャナナ=グズマン首相はSEATOUの仕事ぶりを視察するため、公共事業相とともに立ち退き現場を訪れました。そして1月8日も訪れました。午後6時ごろというのですから、通常の公務を終えてからの訪問でしょうか。このときシャナナ首相は追い出された住民の荷物をトラックに積み込む作業を手伝ったのです。シャナナが野党の党首であったとき、立ち退きを裁判所から命じられた住民が外に出した家財道具を、シャナナは裁判は間違っていると家に運び返すという実力行動をとりました。2023年11月のことです。このことを思い返すならば、今回のシャナナの荷物運びは一体何なのかと大きな疑問符が浮かびます。

1月9日、シャナナ首相はラモス=オルタ大統領との会談後の記者会見で、立ち退きをした住民は国から補償を受ける権利があると述べました。そして1月13日、先述したとおりシャナナ首相は治安に万全を期すよう求めるために警察の本部を訪れましたが、そのさいシャナナ首相は「フォメントⅡでSEATOUによる立ち退きを確かなものにしてくれた警察に感謝する」と記者たちに述べ、「若者たちの一部は立ち退きを受け入れていない。若者たちは意識を変えようとしないで、食べて飲んでゴミをいい加減に捨て(首都)ディリを汚くしている。自分たちの町を掃除しようという意識がまだない。東チモールは自分たちのものであり、他の国のものではないのだ」と述べたのです(『インデペンデンテ』、2025年1月14日)。

シャナナ首相は首都ディリが汚いのは立ち退きをしない住民のせいであるかのような言い方をしていますが、首都の町がゴミだらけで汚いのはゴミ処理の制度が整っていないからで、それは行政の責任です。そしてわたしがシャナナ首相の発言で気になるのは、家を壊され勉強道具が壊された子どもたちの気持ちについての言葉がないことです。

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『インデペンデンテ』(2025年1月14日)より。

「シャナナ、フォメントⅡでSEATOUによる立ち退きを確かなものにしてくれた警察に感謝する」(見出し)。

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『ディアリオ』(2025年1月17日より)。

「シャナナ首相、立ち退きに協力してくれた住民に感謝する」(見出し)。

「シャナナ=グズマン首相は、土地を空き地にしてそこを開発しようとする政府に協力して立ち退いた住民に感謝した」(一段落目)。

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シャナナ首相はまた1月16日、ラモス=ホルタ大統領との会談後の記者会見でこう述べました――多くの人が立ち退きについて人権侵害であると批判するが、この人たちは権利には市民としての国家・地域社会への義務が伴うことを忘れている、互いに貢献し合って国を良くすることができるのだ――(『ディアリオ』(2025年1月17日より)。

このときもシャナナ首相は、家を壊され勉強道具を壊されてしまった子どもたちの気持ちについて口にしなかったようです。1月は新年度・新学期が始まる時期なのです。

青山森人の東チモールだより  第526号(2025年1月18日)より

e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14058250108〕