青山森人の東チモールだより…シャナナ政権の政府機関による蛮行再び

地名都市計画庁による暴力が悪化

首都ディリのコモロ地区のカンポンバルと呼ばれる一角で9月3日に起きたこと(東チモールだより第519号)が10月24日、また起きました。地名都市計画庁(SEATOU)が暴力団よろしく路上で野菜などを売る貧しい庶民を力で蹴散らすという言語道断の蛮行が再発したのです。

シャナナ=グズマン政権が再発を防げえなかったということは組織としての構造的な問題が背景にあると考えてよいでしょう。少なくとも当局の人員が個人的にカッとなって引き起こした事件ではありません。

9月3日の暴力事件は衝撃が走りましたが、ローマ教皇の訪問(9月9~11日)が控えていたからでしょうか、この件の原因や責任の追及が曖昧にされていたようですが、そのつけが現れたのです。そして今回もまたSNSで動画が流れたのですが、それを見ると、当局による強暴性(もはや凶暴性)が前回よりも増幅しているように見えます。さらに悪いことに警察が拳銃を発砲したことによるけが人が出たのです。警察は、人を狙って撃ったのではなく事態を収めようと空に発砲した、と言い訳をしていますが、物売りの人たちを強制的に立ち退きさせようとする場面で拳銃を使用すること自体、かつての占領軍ではあるまいし、許されることでありません。

東チモールでは11月に入ると、日本でいう「盆」の季節となります。11月2日は、「マテビアンの日」(Matebien、テトゥン語で[死者の魂][聖なる魂]の意)、最近はどういうわけかポルトガル語のfinado「死者、故人」を用いて、「死者の日」と呼ばれます。田舎から出てきて都市部に住む人びとが田舎に帰ってお墓参りをして死者の魂を慰めます。ですから11月を迎えるにあたって政府要人は、心穏やかに平和にこの季節を迎えましょう、と国民とくに若者たちに呼び掛けます。それなのに政府機関自らが路上で物売りをして細々と生計を立てている庶民に暴力をふるい、売り物の野菜・果物やそれを乗せている屋台を蹴散らすという蛮行に及ぶとは、いったいぜんたい何を考えているのでしょうか。血迷っているとしかいいようがありません。

「まるで路上のならず者」と大統領が喝破

ポルトガルを訪問中のジョゼ=ラモス=オルタ大統領は10月25日、再発したこの暴力事件について「まるで路上のならず者」と地名都市計画庁を強い口調で非難し、ディリ地方自治体の首長(日本でいえば東京都知事)であるグレゴリオ=サルダーニャと地名都市計画庁のゲルマノ=サンタ=ブリテス長官に路上で物売りをしている人びとに暴力をふるうのを止めるように求めました。以下、『インデペンデンテ』紙(2024年10月28日)に載ったラモス=オルタ大統領の発言をまとめてみます。

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『インデペンデンテ』(2024年10月28日)より。

「オルタ大統領、カンポンバルでの暴力行為を非難

『当局はまるで路上のならず者のようにふるまっている』」。

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地名都市計画庁が法律に則って行動しているという弁明にたいし、ラモス=オルタ大統領は、公共道路の整備美化にかんする法律には道路脇で野菜や果物を売ることを禁止していない、規制されているのは道路を塞いで車両や人の往来を妨げて危険な状態をつくることであるといい、「路上で物売りをしている人が公共の道路を塞いでいるのをわたしは見たことがない。そんなことをすれば物を売ることができない。非論理的である。かれらは物を売るため人が歩けるように空間をあけている」と大統領は地名都市計画庁の言い訳をはねつけます。

路上で物売りをしている人を襲って商品や所有物を台無しにしてよい権限を法律は特定の人間や地方自治体や地名都市計画庁にも与えていない、と大統領は法律論を述べます。そしてさらに法律によればと大統領はこう説明します――地方自治体に権限を与えているのは、物を売る人たちを行政管理することであり、車両や人の往来の障害になり危険な状況をつくった場合に、5ドルの罰金を科すことである。

 

「当局はいま路上で制御の利きかないならず者のようにふるまっている。政府は直ちに制御する必要がある。ディリの街路にならず者がいるというのに、われわれはアセアン加盟に向けて人権のために立ち上がっている国家のふりをしようとしているのか」と大統領は国の在り方に範囲を拡大します。

シャナナ=グズマンによって大統領に再選させてもらったラモス=オルタは、シャナナ首相の政権運営を円滑にすすめる都合の良い存在であると思われましたが、どうやらこの件については忖度することなく、厳しく追及するつもりのようです。いい意味で驚きです。ラモス=オルタはラモス=オルタなりに譲れない一線があるということでしょうか?

「かれらが暴力を振るってもよいと考えているのか、わたしは事実を知りたい。わたしの理解では国民にたいして暴力を許す何がしのものも存在しないはずだ」と大統領はいい、ディリ地方自治体にたいし違法行為をして攻撃的となった人間を特定する報告書を用意せよと要求し、「来週ポルトガルから帰国したらその報告書を見る」といいます。

ラモス=オルタ大統領はまた、9月に起こった暴力事件について調査するように検事総長にすでに求めたといい、今回起きた件を含めた二件について検事総長に調査するように求める書簡を出すつもりだといいます。

そして「国民は日々の生活に十分困っている。日々の生活のためにならず者に殴られたいなどと思っていない。ローマ教皇がディリをあとにするとき、ローマ教皇はわたしに弱い立場にある国民に目を向けるようにと個人的におっしゃった。わたしはそうするつもりである」と大統領はローマ教皇を持ち出して本気であることを表明しました(以上、『インデペンデンテ』[2024年10月28日]を参考)。

シャナナ=グズマン政権に忖度している場合ではない、ローマ教皇のお言葉のほうがよっぽど重要だということでしょうか。いずれにしても弱い立場にある国民に目を向けることはよいことです。「ノーベル平和賞」受賞者の名において是非ともそうしてほしいものです。

大統領、「目を閉じることはできない」

10月28日、テレビニュースでラモス=オルタ大統領によるさらに突っ込んだ発言が報じられました。地名都市計画庁のゲルマノ=サンタ=ブリテス長官に、路上で物売りをする人たちとの適切な意思疎通を図るように人員に指示しなかった責任をとって辞任するように求めたのです(『ディアリオ』[2024年10月30日]より、以下同様)。

そして検事総長にたいし地名都市計画庁を調査するように求め、こういいます。「われわれは民主主義国家で生きている。だから大統領がこの件について目を閉じることはできない。もし目を閉じれば、わたしの大統領としての権限が失墜してしまう。検事総長が地名都市計画庁の調査をするのを待つ」。大統領の威信にかけても目を開けるというわけです。

さらに大統領は――地名都市計画庁は東チモールの名を汚した。社会に受け入れられるものではない。第九次立憲政府の名を汚した。シャナナ=グズマンは国内外で弱者の人権を主張する指導者だ。だがこの地名都市計画庁は路上の売り子を迫害している。東チモールの評判をおとす悪行だ――といいます。

ラモス=オルタ大統領の発言の矛先がしだいにシャナナ首相に向けられていきます。大統領はシャナナ=グズマン首相に政府機関である地名都市計画庁の行動について判断をするように求めたのでした。はたしてシャナナ首相が政府機関による庶民への蛮行についてどのような対応を見せるのか、要注目です。

タウル=マタン=ルアク前首相の訴え

政府の機関の成せる技はシャナナ=グズマン首相のお墨付きを得てのことだと考えるのが自然です。したがってタウル=マタン=ルアク前首相が、ディリ地方自治体とか地名都市計画庁とかPNTL(東チモール国家警察)などの組織名を持ち出してごちゃごちゃ云うことなしに、直接シャナナ首相に訴えるのも納得できます。タウル=マタン=ルアク前首相はfacebookでシャナナ首相にこう訴えました。

「シャナナ=グズマン首相に頭をさげてお願いします。物売りの人びとに人道主義で対応してください。かれらがした悪事といえば貧困のなかで生活をしていくことです。どうか物売りの人びとに同情と尊敬の念を抱いてください」(タウル=マタン=ルアク)。

 

青山森人の東チモールだより  520号(20241030日)より

e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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