青山森人の東チモールだより…バジリオ=ド=ナシメント司教が逝去

「マテビエンの日」に迎えられる司教

東チモールでは11月2日は、「マテビアンの日」(Matebien、テトゥン語で[死者の魂][聖なる魂]の意、最近はポルトガル語のfinado[死者、故人]を用いて、[死者の日]と呼ばれる)、日本の「盆」にあたる日です。大勢の人びとが先祖の眠る墓地を訪れ、それぞれの墓に花を手向けます。

「マテビアンの日」という宗教的な行事を迎えるうえで重要な役割を果たすのがカトリック教会です。東チモールのカトリック教会には3人の司教がいます。その3人のうちの1人、バジリオ=ド=ナシメント司教が、10月30日、首都の国立病院で逝去しました。死因は心臓発作と報じられました(『タトリ』、2021年10月30日)。

バジリオ=ド=ナシメント司教がバウカウ教区の司教として赴任したのは東チモールがまだインドネシア軍による占領下にあった1997年です。当時わたしは、「1人の司教はインドネシアにとって大問題が一つ、2人の司教となると大問題が二つ」と活動家から言われたもので、二人目の司教着任は解放闘争に大きな進展をもたらすであろうという東チモール人の希望と期待を感じることができました。「一人の司教」とはもちろん1996年にラモス=オルタと共にノーベル平和賞を受けたカルロス=フェリペ=シメネス=ベロ司教を指します。

11月3日、東チモール国会は10月28日に亡くなったマックス=スタール(前号の東チモールだより)とバジリオ=ド=ナシメント司教の二人の故人にたいし解放運動に貢献したことに鑑みて哀悼の意を表する決議を採択しました。バジリオ=ド=ナシメント司教、1950年6月14日生まれ、享年71歳でした。

下火になってきた感染状況

9月19日から10月末までの新型コロナウィルスの感染状況を見てみましょう。数字はその日の新規感染者数で、カッコ内はその日における感染者数(3月21日からの累積感染者数から[累積回復者数+累積死亡者数]を引いた人数)です。

【2021年9月】

19日=39(1675), 20日=25(1572), 21日=67(1319),

22日=81(1274), 23日=58(1183), 24日=44(1108),

25日=42(1045), 26日=32(994), 27日=16(920),

28日=47(838), 29日=10(778), 30日=43(763).

このように、新たに感染してしまう人の数が下降傾向となり、一日における新規感染者数が100人を下回ることが定着してきました。

【2021年10月1~10日】

1日=37(744), 2日=28(750), 3日=19(672),

4日=10(549), 5日=17(440), 6日=4(301),

7日=20(295), 8日=18(279), 9日=10(247),

10日=12(222),

下降傾向がさらに進み、十人台が多く見られ、そして一桁台の数字が登場してきました。

【2021年10月11~20日】

11日=16(208), 12日=6(162), 13日=9(133),

14日=6(111), 15日=9(103), 16日=4(98),

17日=7(99), 18日=11(98), 19日=5(73),

20日=16(86),

このように一桁台の数字が多く登場してきました。

【2021年10月21~31日】

21日=3(73), 22日=10(67), 23日=7(69),

24日=4(63),25日=4(52), 26日=4(52),

27日=7(56),28日=0(50), 29日=2(47),

30日=2(46), 31日=1(40).

10月下旬になると一桁台の数字が定着してきました。そしてついに数字0(ゼロ)が顔を覗かせました。その日の新規感染者が、8月24日に、532人という極大値を記録してから、300人台・200人台そして100人台と減少の坂を下り、9月半ばからは二桁台に推移し、8月の感染拡大はひとまず”鎮火”した様相を示しました。その後、10月に入ると、一日の感染者数は10~20人台へと減少していき10月半ばから一桁台に腰を落ち着け、今年1~2月当時の低水準に近づきました。そして10月28日、感染者数0(ゼロ)を記録しました。新規感染者が出なかったのは今年の3月6日以来のことです。

50名以上変死の原因は?

さて、バウカウ地方のケリカイという村で1か月間で50人が亡くなり、9月18日、その原因調査に保健省が着手したと報じられた件(東チモールだより 第442号)のその後はどうなったのでしょうか。9月28日、危機管理統合センターのニルトン医師が18回目の非常事態宣言延長を議論する国会の場で、死因は新型コロナウィルスの感染ではないと結論を述べました。

その結論に至った根拠として、死亡した人(その後、54人と報道)の関係家族100人にPCR検査をしたところ6人だけが陽性を示したという調査結果を挙げました。では死因は何か? ニルトン医師は、住民が病気になっても医療機関で受診することを恐れて治療しなかったこと、そして年齢が60歳を超えてる高齢であったこと、これら二点を挙げました(『テンポチモール』、2021年9月28日)。

遺体を調べることなくして、死因がわかるものなのでしょうか? それに、上記二つの「死因」は、新型コロナウィルスが原因でなかったという結論を引き出せる論拠になりえるのか、疑問が残ります。

ケリカイに親戚がいる人(首都の住民)にこの件についてきいてみると、ケリカイの変死者は50人どころではない100人以上という話もあるといわれました。また、医療機関で診てもらうことなく自宅で亡くなることは他の村落部でも多発しているとのことです。この人は、「政府はただ情報を言うだけ、こちらはただ聞いているだけ」といいます。

政府は閣僚が地方に赴き、誤った情報に惑わされないでワクチン接種をするようにと呼び掛けるキャンペーンに力を入れています。これは、東チモールもご多分に漏れずSANによる誤った情報いわゆるフェイクニュースがある程度の影響力をみせている状況を反映しています。また、政府発信の情報が信頼を得ているかといえばそうでもなさそうです。東チモールにおける感染状況が下火になっているのが事実であるなら、政府はこの状況を確かなものにして欲しいものです。

国境は開放、入国制限が緩和

東チモール政府は、感染状況が下火になったことにともない、10月17日、国境を開放し、陸路でインドネシアからの往来ができるようになりました。また、空港での入国制限も緩やかになってきました。現在、東チモールは非常事態宣言の19回目の延長下(10月30日~11月28日)にありますが、もしかしたら12月は非常事態宣言が発令されないかもしれません。

一方、ワクチン先進国といわれるイギリスでは10月21日、一日の新規感染者数が約3か月ぶりに5万人を超え、ドイツでは保健相が第四波が本格到来したと述べるなど、ヨーロッパの感染状況が再炎してきました。このことが今後こちらアジア地域にどのように影響してくるかが懸念されるところです。

感染拡大したとしてもワクチン接種が進んでいれば状況は自ずと違ってきます。とはいえはやり今後とも、マスクを着用し、人と人との物理的な距離を保ち、そしてよく手を洗うという基本的な感染防止対策が”行動規制”であり続けることでしょう。

テレビニュースの映像を見ると、「マテビエンの日」における教会のミサやバジリオ=ド=ナシメント司教の死を悼む人びとの集まりでは、大勢の人がマスクを着用していますが、そうでない人も多数みられ、人と人との物理的な距離の保ち方が不十分に見えます。この反動が出ないことを願うのみです。

 

青山森人の東チモールだより  第445号(2021年11月09日)より

青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.co

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion11473:211111〕