青山森人の東チモールだより…プラットフォーム連立政権か、シャナナCNRTか

比較的穏やかな選挙運動

17の政党と政治勢力が競い、約133万人の東チモール国民から一院制の国会議員65人を選ぶ国政選挙の投票日・5月21日が近づいてきました。選挙運動が4月19日から始まり5月18日に最終日を迎えます。選挙運動の終了日・5月18日(木)から投票日まで今回は二日の間隔があいています。19日(金)の次の日は5月20日(土)、「独立回復」21周年記念日という重要な日です。通常の選挙時は頭の冷却時間は一日だけでしたが、「5.20」を含んだ二日間の冷却時間が今回はあります。果たしてこれが有権者の投票行動にどのように影響するでしょうか。いずれにしてもこの週は政治的に神経過敏な週となることでしょう。

今回の選挙運動ですが、過去と比べて大衆的な盛り上がり・騒々しさ・物々しさはかなり低減しているように思えます。勢力を誇示して支持を拡大したい政党の大・中規模の集会が開かれるその地元で対抗政党の支持者たちによると思われる物理的な衝突という毎度おなじみの事態は複数回起きているし、インドネシア人に有権者カードを便宜した疑惑(*1)で政党間が非難し合うというこれまでになかった新事態も発生していますが、それでも過去の選挙運動を思い起こしてみれば、比較的穏やかな選挙運動期間であったと(今のところ)いえると思います。

これは選挙運動中にだけきれいごとをいう政治家たちのリップサービスを大衆は冷めた耳で聴いているからでしょう。政治を司る権力者とその周辺の者たちだけが利益を得る一方で、庶民の生活向上のための政策は常に後回しにされ、いつまでも生活苦が続く一般大衆にとって政治指導者が選挙運動中に発する政治公約にワーワーと熱をあげて支持しろというのは無理な相談です。これは東チモールの政治状況が成熟してきた現象ともいえるし、政治離れが進んでいるともいえます。そして権力を争う政治指導者たちの顔ぶれが相も変わらず同じであることへの倦怠感の表れであるともいえます。

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2023年5月17日、ⒸAoyama Morito.

国立病院前の交差点にて。

「あなたの未来に投票しよう」。

シャナナが〝看板〟のCNRTの看板。

若いシャナナと現在のシャナナ、二人のシャナナがいる。

もう一人は副代表。

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捕らぬ狸の皮算用をしてみると……

選挙の焦点は、最大与党フレテリン(FRETILIN、東チモール独立革命戦線)が連盟する「プラットフォーム」と呼ばれる連立勢力の政権維持となるか、シャナナ=グズマンCNRT (東チモール再建国民会議)党首が政権を奪還するか、にあります。わたしなりに「捕らぬ狸の皮算用」をして選挙結果を大胆予想してみたいと思います。

ところでわたしは以前に「フレテリンにしてもCNRTにしても単独過半数の議席を獲得することは無理な話で、それぞれ20プラスαの議席獲得となることでしょう」と予想しましたが(東チモールだより第486号)、この「20プラスα」を訂正したいと思います。CNRTの「20プラスα」の「α」はかなり大きな数字になり、フレテリンは「20マイナスα」になると予想します。

最大の投票獲得政党はCNRTになると思います。つまりCNRTが第一党となることでしょう。シャナナはジョゼ=ラモス=オルタを大統領に据えるべく始めた去年の大統領選からこの選挙戦に入るまで、事実上の選挙活動を一年間継続的に行ってきました。CNRTがそうしたのではなく、独立の英雄・シャナナが前面に立ってそうしたのです。このことの効果が大きく現れることでしょう。CNRT に投票したくなくてもシャナナに投票したい有権者の票をCNRTは大量に獲得することでしょう。CNRTは単独過半数の33議席以上の獲得を目標としています。その目標達成は無理であっても、現在の議席数21は30前後へと大幅にのびることでしょう。わたしは29と予想します。

フレテリンは、PLP(大衆解放党)党首のタウル=マタン=ルアク首相率いる第八次立憲政府をその二年目から与党となり4年間支えてきました。その与党としての批判と変化を求める大衆心理、さらに去年のフレテリン党大会で指導部刷新を訴えたソモツォ党員の努力が実らずルオロ党首・マリ=アルカテリ書記長のコンビが継続して党の実権を握ることになったこともあいまって、フレテリンは議席を減らし第一党の座をCNRTに明け渡すことでしょう。議席数は23から20以下に減るでしょうが、18議席ぐらいは確保できるかもしれません。

他の与党PLPとKHUNTO(クフント[*2]、チモール人国民団結美しき豊穣)はどうなるでしょうか。PLPのタウル=マタン=ルアク党首が首相を5年間務めてきましたが、勢力拡大とはならないでしょう。この5年間、PLPの影響力が増したという印象はわたしにはまったくありません。それどころかPLPの一部勢力はCNRTに吸い取られてしまいました。PLPは現在の8議席から4~5議席へと減らすことでしょう。そして現在5議席を有しているKHUNTOですが、大幅に勢力を拡大するであろうことを去年の大統領選のときも、そして現在の選挙運動期間中にも十分に感じさせました。もしかして倍増の10議席を獲得するかもしれません。

ということは現政権を担う三政党であるフレテリン・PLP・KHUNTOの合計はどうなるでしょうか。楽観的にみれば、18(フレテリン)+5 (PLP)+10 (KHUNTO) = 33、フレテリンとPLPが失う議席分をKHUNTOが補って過半数に達して政権を維持できるかもしれません。相変わらず大衆に不人気のマリ=アルカテリがフレテリンを率いていますが、ゲリラの英雄として知名度の高いレレ=アナン=チムール前国防軍司令官が幹部となって選挙運動に登場していることが議席減少を小さく抑えるかもしれませんし、独立の英雄としてシャナナと人気を二分するタウル=マタン=ルアクが踏ん張ってPLPの議席減少を最小限に抑えるかもしれません。この二点がうまくいけば、「プラットフォーム」は33議席を獲得できるかもしれません。

さて野党ですが、民主党はすっかり存在感を失ってしまったので、選挙運動では頑張っているようですが、現在の5議席から3議席に減らすと思われます。民主党は選挙運動前に現政権を支持すると発言しましたが、シャナナについていくであろうというのが大方の見方です。そうだとするとCNRTと民主党で29+3=32、おやおや、シャナナ側は過半数に手が届きません。

以上、わたしの大雑把な感覚に基づく「捕らぬ狸の皮算用」でした。わたしの予想では現在1議席をもっているPUDDとUDTは議席を失い、他の少数政党も議席を獲得できないという予想ですが、PVT (チモール緑の党)は議席を獲るのではないかという人もいます。少数政党は議席を獲ればCNRT側につくと宣言しているので、そうなればシャナナに有利に働きます。

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2023年5月17日、レシデレにて、ⒸAoyama Morito.

「未来への闘い。未来はあなた。フレテリンに投票しよう」。

フレテリンの党首・書記長の顔を出さず、ソフト路線を狙う。

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やはり懸念される選挙後の憲法問題

わたしの予想に反してシャナナCNRTの獲得議席が単独過半数に達するか、あるいは民主党などとの連立で過半数に達すればシャナナの完全勝利となり、シャナナによる新政権樹立と政権運営には憲法上の何も問題は生じません。しかしながら、もしわたしが皮算用をしたようにCNRTが第一党になれても過半数に達する勢力を形成できない場合、憲法上面倒くさい問題が生じる可能性がでてきます(東チモールだより486号)。

つまり、シャナナの望むように動くであろうラモス=オルタ大統領が、第一党となったCNRTの形成する過半数に達しない少数派連立政権を承認するかもしれないということです。それは2017年に第一党となったフレテリンによる少数連立政権をルオロ大統領が承認したように、です。

国会の過半数を上回る政治勢力による政府樹立を大統領が承認して新政権が発足できると憲法はのべていますが、第一党となった政党がつくる政治勢力が大統領の承認を得られれば政府を樹立できるとも解釈ができます。この曖昧さが憲法に存在する限り何度でも同じことが繰り返されます。つまり少数政権の樹立です。

少数政権が樹立されたらどのような問題が生じるか。2017年から2018年の前倒し選挙(やり直し選挙)まで続いたような国会の空転です。少数政権は国会で過半数に届かないので何一つ国会を通すことができません。もし今度もそうなったらラモス=オルタ大統領はおそらく来年2024年の4月ごろ国会解散をすることでしょう。そして前倒し選挙です。少数政権を率いた2017年当時のマリ=アルカテリ首相は国会運営ができず目に涙を浮かべましたが、シャナナはどうするのでしょうか……?立場を変えてデジャブとなるのでしょうか。国民はあきれ返ることでしょう。

そのような事態にならないようにシャナナは去年の大統領選挙から今日まで選挙活動に専念してきました。シャナナCNRTの完全勝利となるか、それとも与党三党の「プラットフォーム」がシャナナに待ったをかけるか。

それにしても庶民は嘆いています――国民の生活向上のために指導者たちはどうして結束してくれないのか、と。

 

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2023年5月16日、ベコラにて、ⒸAoyama Morito.

投票を呼び掛ける選挙管理員会の看板。

「国会議員選挙、2023年5月21日。有権者カードの持参を忘れないように。投票は、有権者カードに記載されている場所の、あなたの出身地の投票場で。投票時間:午前7時から、午後の15時まで」。

東チモールでは17歳から選挙権を有する。大勢の高校生が投票する。2006年4~5月、東チモール「危機」で騒然となり出したころに生まれた子どもたちが投票するのだ。

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(*1)5月11日、ボボナロ地方のマリアナで行われたCNRTによる選挙運動集会で、インドネシア人女性二人がKHUNTOに有権者カードとパスポートを提供され、KHUNTOに投票するように求められたと証言した。CNRTは外国人に有権者カードを提供するという不正行為をしたとしてKHUNTOを提訴。これにたいしKHUNTOは、これはCNRTの作り話であり、そもそもCNRTとインドネシア人女性二人の関係が疑わしいし、インドネシア人女性の話が非論理的であるとして、CNRTを逆提訴した。フレテリンも、有権者カードやパスポートを発行するのは政党ではなく行政機関の仕事であるとしてこの話を疑い、外国人がいかに有権者カードやパスポートを得たのか、民主主義国家の権利を守るために調査が必要であると主張する。

(*2)KHUNTOを「クウント」「クント」とするカタカナ表記が時々みられるが、「H」を発音しないというポルトガル語の発音方式を採用しているからかもしれない。しかしKHUNTOとはテトゥン語 ”Kmanek Haburas Unidade Nasional Timor Oan”の頭文字をとったもので、テトゥン語の「H」は発音されることから、カタカナ表記をするならわたしなら「クフント」としたい。

 

青山森人の東チモールだより  489号(2023517日)より

e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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