陽性感染者の累積が100人に
フランシスコ=グテレス=ルオロ統領は先月1月28日、もはや月末または月初めのお決まりの行事となってしまった30日間の非常事態宣言を、今回で10回目となりますが、発令しました。2月2日から3月3日までの30日間です。
一回目の30日間・非常事態宣言が発令されたのはおよそ1年前の2020年3月27日、期間は3月28日~4月26日でした。一回目の非常事態宣言が発令されているときは、「政治的袋小路」で混迷を極める政局のなか、すでに(2020年2月25日)大統領に辞表を提出したタウル=マタン=ルアク首相が大統領の判断を待っているときであり、新型コロナウィルスによる非常事態に直面したタウル=マタン=ルアク首相に責任感が湧いてきて、一変、辞表を撤回(2020年4月8日)したときでした。
二回目の非常事態宣言は一回目の延長として4月28日~5月27日の30日間でした。シャナナ=グズマン率いるCNRT(東チモール再建国民会議)が新たに組んだ国会多数派となる連立勢力が新政権樹立に向かうかと思われましたが、CNRTと組んだ諸政党の一つKUHUNTO(チモール国民統一強化)が、タウル=マタン=ルアク首相率いるPLP(大衆解放党)がフレテリン(FRETILIN、東チモール独立革命戦線)と組んだ連立勢力を支持すると心変わりをしたために、CNRTの組む新たな連立勢力はあえなく瓦解し、タウル=マタン=ルアク首相の続投が決定づけられた30日間でした。これにより対立関係にある二大政党のフレテリンとCNRTの与野党の形勢が逆転し、18回目の独立記念日(独立回復の日)の前日・5月19日、新たな国会議長の選出を巡って議員たちが国会議長の机の周りで大乱闘をしてしまうという醜態を晒す事態になりました。
4月24日に24人目の陽性反応者一名が登録されてからはしばらくのあいだ8月3日まで新たな陽性者が出ませんでした。したがって二度目の非常事態宣言が延長されるかたちで三度目の30日間・非常事態宣言が出たあと、東チモールはしばらく非常事態宣言から離れることができました。
しかしインドネシアと陸路で接している東チモールは警戒を怠るわけにはいかず、8月4日に新たな感染者が出たことをきっかけに四回目の30日間・非常事態宣言が8月6日に発令され、これ以降、毎月末に次なる非常事態宣言の継続が検討され、毎月の初旬から翌月の初旬までの30日間にわたる非常事態宣言が更新されつづけ、現在は十回目の最中にあるというわけです。
記録が採られ始めた2020年3月6日からの新型コロナウィルス陽性反応者の月毎登録数を見てみましょう。
【2020年】
3月=1人
4月=23人
5月=0人
6月=0人
7月=0人
8月=3人
9月=1人
10月=2人
11月=0人
12月=14人
【2021年】
1月=26人
2月=30人(2月11日現在まで)
このように今年に入ってから陽性反応者が急増していることは一目瞭然です。2020年3月6日からの陽性反応者は累計で2021年2月11日で100人となり、三桁に達しました。
今年1月末の時点で累計陽性反応者は70人でしたが、2月に入って、2日に5人、3日に2人、4日に3人、9日に6人、そして11日には一日の新規感染者としては過去最大の14人がそれぞれ登録されました。2月に入って11日の時点で早くも新規感染者が30人となり、この数字は月毎の数字としては1月の26人を上回る最大値となりました。。
アナ=ゴメス、ポルトガル大統領選で次点
首相が政治的実権を握り、大統領は象徴的な国事行為を担い議会解散権など一部の重要な権限を有するというポルトガルの政治制度は、東チモールが採用した(させられた?)制度です。東チモールが旧宗主国の制度を不適合であるにもかかわらず採用したことがそもそも「政治的袋小路」に迷い込んでいる根本原因なのかもしれません。
そのポルトガルで先月1月24日、大統領選挙の投票が行なわれました。新型コロナウイルスの感染拡大にともなう都市封鎖(ロックダウン)のもとでの投票となり、投票率は39.5%という過去最低を記録しました。
去年、第一波が始まったころ、ポルトガルは他のEC主要諸国と比べ感染者が少ない優等生でした。なぜなのか?と他のEC諸国に不思議がられ、ポルトガルは日本と同様にBCG接種をしっかりやっている国だからか、これまた日本と同様にPCR検査を受ける人が少ないから確認される感染者が少ないだけなのか、ポルトガルの地理的条件に依るのか……いろいろな噂や説が取りざたされました。しかし、おごれる人も久しからず、ポルトガルは慢心したか、クリスマス休暇の人の動きが感染を拡大させてしまったといわれていますが、いまや逼迫した医療現場にドイツ軍の医療チームが派遣されるにまで感染状況が悪化してしまいました。
ポルトガル大統領選に話を戻します。当選したのは中道右派・社会民主党の元党首で二期目を目指した現職のマルセロ=レベロ=デ=ソウザ大統領(72歳)が得票率61.6%で再選されました。わたしが目にした日本の報道では、移民の流入に反対する極右ポピュリズムの新興政党「シェーガ」([十分だ][たくさんだ]の意)のアンドレ=ベントゥーラ党首(38歳)が、二位(得票率約13%)の与党・社会党候補に1ポイントに肉迫する三位(得票率約12%)につける躍進を見せたことがとりあげられ、次点候補は話題にされませんでした。
この次点となったのは東チモール問題を知る者にとってよくその名前を耳にした人物、アナ=ゴメスです。彼女は1990年前後にわたり駐日ポルトガル大使館に勤務したことのある、東チモール問題に取り組んだ外交官でした。東チモールがインドネシア軍による不法占領から解かれ、東チモール問題で断絶していたポルトガルとインドネシアの国交が正常化されると、駐ジャカルタ・ポルトガル大使となりました。
またアナ=ゴメスは、20年前、東チモールの首都デリ(ディリ)に近いダレという村の教会で挙げられたシャナナ=グズマンとオーストラリア人女性のカースティーさん(通称・クリスティ)との結婚式に出席したとわたしは記憶しています。
東チモールが独立(回復)した年・2002年からアナ=ゴメスは社会党の党員として政治家の道を歩みだし、現在に至ります。当選した現職の大統領に大きく差をつけられ、新興極右勢力に迫られたとはいえ、二位は二位です。アナ=ゴメスはポルトガルでそれなりに存在感を持つ政治家であるといえます。
マリ=アルカテリ書記長、CNRT党員多数を告訴
フレテリンの最高実力者・マリ=アルカテリ書記長が、初代首相であった時期(2002年~)にチモール海の「バユウンダン」油田などの開発権を与える見返りにコノコフィリップス社から賄賂を受け取ったと示唆する発言をしたCNRTの幹部組織「国民政治委員会」のメンバーや民間人などを名誉棄損で告訴したのは2020年7月7日でした(東チモールだより 第422号)。
その後マリ=アルカテリは2020年11月6日、CNRTの議員11名にたいして同様の理由で追加の告訴をしました。『テンポチモール』(2021年1月18日)によれば、マリ=アルカテリが告訴したのはCNRTの党員・合計22名、民間人は4名です。4名の民間人とは、アビリオ=デ=アラウジョとその妻、ジョゼ=グテレス、ロジェリオ=ロバト、すべて元フレテリンの要人で、マリ=アルカテリの同僚だった人物です。
CNRT幹部らはマリ=アルカテリが仕掛けてきた裁判を受けて立つ構えを示してきましたが、今年に入ってCNRTにたいして起こされた訴えなのだから党首であるシャナナ=グズマンが被告としてマリ=アルカテリと法廷で対峙することになると言い出しました。マリ=アルカテリに告訴された多数のCNRT党員のなかにシャナナ=グズマン党首は含まれていません。このことは、マリ=アルカテリがシャナナ=グズマンと法廷で向き合うことを嫌がっていることを表れであるとCNRTは踏んだのかもしれません。
CNRTのその”空気”を読んだのでしょう、マリ=アルカテリは、シャナナ=グズマンは間違ったことを発言していないので告訴しなかったのであり、もし間違ったことを発言したのなら、わたしは恐れない、シャナナ=グズマンとて告訴するであろうと述べました(『テンポチモール』、2021年1月18日)。
フレテリン幹部は、CNRTはマリ=アルカテリ書記長の尊厳を傷つけるという間違ったことをしておきながらシャナナ=グズマンという母親のうしろに逃げ隠れするとはまるで子どもだと揶揄します。そしてフレテリン幹部は、これはマリ=アルカテリと告訴されたCNRT幹部・党員たちの間の問題であり、シャナナ=グズマンは含まれていない / シャナナ=グズマンが被告として出廷するのは好ましくないと述べました(『テンポチモール』、2021年1月26日)。
するとフレテリン幹部のこの対応からCNRT幹部は”空気”を読んだのでしょうか、CNRT幹部は、フレテリンはシャナナ=グズマンがマリ=アルカテリと法廷対決するのを恐れていると発言し(『テンポチモール』 2021年1月27日)、党の最高責任者としてシャナナ=グズマンが出廷することになろうと再度表明したのでした(『Tatoli[タトリ]』、2021年1月27日)。
指導者たちは新型コロナウィルス対策に集中すべき
このようなCNRT幹部の発言について国防軍のレレ=アナン=チムール陸軍大将は、シャナナ=グズマンの名前を利用するCNRT党員たちに、「気を付けることだ」(そんなことは止めなさい)と警告を鳴らしたのです。それにしてもレレ=アナン=チムールは政治家のように、否それ以上に、よく政治発言する軍人です。もしかして来年の大統領選を見据えているのかもしれません。
マリ=アルカテリが起こした訴えをめぐってCNRTとフレテリンの舌戦が火花を散らしています。現在、告訴にかんして審理がされているところですが、ジョゼ=ダ=コスタ=シメネス検事総長は、2月5日、審理の経過中にコメントすることはないと記者に語りました(GMNニュース、2021年2月5日)。マリ=アルカテリが踏み切った裁判闘争が今後どのような進展をみせるのか予想がつきません。法廷が開かれるのか、シャナナ=グズマンがCNRT党首として出廷するのか、どうなることでしょう……。
いずれにしても「政治的袋小路」に法廷泥仕合をぶっかける事態は避けてほしいものです。いまは新型コロナウィルスとの闘いに集中すべき時です。
青山森人の東チモールだより 第432号(2021年02月16日)より
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.co
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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