青山森人の東チモールだより…力を増すシャナナ、力を削がれるタウル

 

 

ゴミをでたらめに燃やすな

 早いもので今年も10月となり日付けも10日をまわりました。それなのにまるで8月の乾季がまだ続いているかのようにここ首都デリ(ディリ、Dili)のベコラでは明け方の冷えることといったら、油断すると鼻風邪をひいてしまうくらいです。

 

 日中はもちろん30℃を優に超えますが、乾燥しているため明け方5~6時は23~25℃まで気温が下がります。この気温は東チモールの首都としては低温です。じめじめした気候では部屋の中では扇風機が必須ですが、乾燥しているおかげでうちわで間に合います。

空気の乾燥は洗濯物の乾き方で一目瞭然です。または道路を歩いているときの土埃の舞い上がり方でも実感します。ところが最近、ベコラの大通りを歩いていると、土埃に異臭が混ざっていることがよくあります。自動車が土埃を舞い上げなくても、思わずハンカチで口と鼻を覆いたくなります。ゴミを焼却して出る臭いです。近くにゴミ焼却炉があるわけではありません。東チモールではゴミはそのまま燃やします。ゴミの分別なんてまだ定着するには相当に年月が要りそうな東チモールではゴミをまとめて燃やします。プラスチックを燃やすときに出る嫌な臭いを嗅がされることは東チモールでは多々あります。

何を燃やしているのか分からないのは危険です。もしかして身体に危険な成分がゴミ焼却から発生しているかもしれないからです。首都に近いティバール(リキサ地方)に最終ゴミ処分場があります。「処分場」といっても、たんなる「捨て場」です。ここで金目の物をあさる人たちの悲しい姿はよくニュースになりますが、最近は、ここのゴミが燃やされて出る煙による健康被害を地元住民が心配する声が報じられました。

 東チモール政府は「ゼロ プラスチック」を奨励し、水のペットボトルがあちこちに捨てられないように、個人で自分専用の水筒を携帯して外出する人たちがいま目立っています。その功が奏してか、公園・広場でペットボトルが散乱している光景は減りました。前号の「東チモールだより」に載せた気候変動に反対する若者たちの集会場となった「ハビビ大統領」橋公園では、水のペットボトルの売り子はいませんでした。集会参加者で水が欲しい人は、大きな容器に入った水を各個人が持参した水筒に汲んで飲んでいました。

ちょっと前までは集会が終わった集会場はペットボトルのゴミの山と化してしまうのが常でしたが、「ゼロ プラスチック」のおかげでそれがなくなったことは、ゴミを散らかさない面においておおいに評価してよいと思います。しかし絶対量としては変わりないか増えているはずのゴミ自体の処分は衛生・環境分野の大問題です。

道路わきに置かれている鉄製のゴミ箱に溜まったゴミに火をつけたり、ティバールのゴミの山に火をつけたりするのは誰の仕業かは分かりませんが、健康被害を及ぼす行動として政府は容認してはなりません。

 

2000年代前半、ゴミ箱の中身をこのようにまとめて燃やす光景をよく見たものだ。業者によるゴミ収集作業が軌道に乗ってからもうこの光景は見なくてよいと安心したものだ。しかし、現在のゴミ収集態勢が、増大するゴミの量に対応しきれなくなり町にゴミであふれるようになって、ゴミ箱の中身をそのまま燃やす行為が復活するとしたらたいへんだ。どんな有害物質がゴミの中に含まれるのか分からないのだ。

2019年10月1日午後、ベコラの大通りにて。

ますます悪化そして劣化する政治的袋小路

在の第8次立憲政府が去年2018年6月に発足するやいなや始まった政府と大統領の対立を、この「東チモールだより」は追ってきました。住民投票の実施と多国籍軍上陸から20周年にあたる今年は、国際社会から要人を招いて行われる記念行事が複数ありました。記念行事に出席する指導者たちがお互い顔を合わせるうちに対立は和らぐのではないかと、少なくともわたしは淡い期待を寄せました。しかし事態は悪化の一途をたどっているようです。

一般に云われていることですが、現在、この国で影響力をもつ指導者として、シャナナ=グズマン、ジョゼ=ラモス=オルタ、マリ=アルカテリ、タウル=マタン=ルアク、フランシスコ=グテレス=ルオロ、の5人の名前を挙げることができます。この中でジョゼ=ラモス=オルタは対立に巻き込まれていない指導者です。

 対立構図として、与党側のシャナナ=グズマンAMP(進歩改革連盟)/ CNRT(東チモール再建国民会議)代表とタウル=マタン=ルアク首相/PLP(大衆解放党)代表、そして野党側のマリ=アルカテリFRETILIN(フレテリン、東チモール独立革命戦線)書記長とフランシスコ=グテレス=ルオロ大統領による、たんなる与野党の対立ではないことは、この「東チモールだより」で縷々説明してきたつもりです。たんなる与野党の対立ならば、シャナナ=グズマンとマリ=アルカテリの二人の対立に収まり、この二人ならば“仲良く喧嘩する”程度に留まることでしょう。シャナナ=グズマンとフランシスコ=グテレス=ルオロの対立が表面化したことが、今回の対立を頑ななものにした要因です。この二人には抵抗運動時代に生じた強烈な確執があると云われています。

また与党内にも問題があります。シャナナが他の政党と組んだのはあくまでも便宜上のこと、目指す政治的方向性に一致を見いだしたからではありません。シャナナにとってAMP連立政権とは権力を握り続けるための一時的な装置にすぎず、時を見計らって解消すべきものです。その「時」とはシャナナの政党がより強い実権を握れる「時」、できれば単独政権を握れる「時」です。したがってシャナナにとってタウル=マタン=ルアクが首相として実績をあげ国民の支持を拡大されては困るのです。わたしの観るところ、タウル=マタン=ルアクはシャナナにとって自分の地位を脅かす最も用心すべき人物と映っているはずです。

およそこのような事情とそれぞれの思惑が絡み合って、政府閣僚が決まらない状態から抜けられない、あるいは抜けないという異常事態が1年以上も続いているのです。

5月20日の独立(回復)記念日、6月18日の飛び地RAEOA(オイクシ・アンベノ特別行政区)の新空港完成式、「8月30日」20周年記念式典、「9月20日」多国籍軍上陸20周年記念式典などなど、今年は上記5名の指導者たちが一堂に会して言葉を交わす機会にとりわけ恵まれていたはずです。しかし指導者たち自身に一連の行事を政治的袋小路を打開する好機と捉える気持ちがそもそもありませんでした。

決まらない閣僚に加え、決まらない大使

ルオロ大統領はCNRTからの閣僚候補9名の承認を1年も保留してきたのに加えて、6月、政府が提出した海外の東チモール大使館に赴任する大使候補の名簿にたいし、約10名の大使候補の任命を保留するとい行為に出ました。ルオロ大統領は、閣僚承認の保留の理由は汚職の疑惑という表向きの理由を述べましたが、今度の大使任命保留の理由は明確に述べていません。

これにたいしAMP政権は国会決議を通して大統領に海外出張をさぜす仕事をさせないという報復にでました。まず去年に引き続いて国連総会に出席させず、次に、10月20日、インドネシアのジョコ=ウィドド大統領の就任式、そして日本の「即位の礼」に出席することを承認しませんでした。理由は毎度おなじみ、大統領は国内の問題を解決するのが先決だ、というものです。

政治的袋小路は、やったらやり返すという低レベルの様相を帯びてきました。タウル=マタン=ルアク首相は毎週にようにルオロ大統領と会談しますが、会談後の記者会見で、決まらない閣僚問題について、話し合いで解決するとか、首相としてこの問題を憂慮するが国情・発展には影響がないとか、この二種類のことを繰り返し述べ続け1年と3ヶ月がたってしまいました。決まらない閣僚問題に加わった決まらない大使問題では、タウル首相のいとこ(従姉妹)がバチカン大使候補となっているという身内びいきが問題視されているので、タウル首相も偉そうなことはいえません。

タウル、シャナナの戦略にはまったか

ャナナでもマリ=アルカテリでもない新しい政治勢力として期待されたPLPは国政選挙一度目の挑戦で8議席を獲得し動向が注目されました。しかしなんだかんだと上記のような状況で、党首であるタウル=マタン=ルアクもろともこの政党の影がすっかり薄くなってしまいました。最近、わたしの耳に入る政治的な話題といえば、タウル=マタン=ルアクの影響力の低下です。第8次立憲政府のタウル首相は、指導力をまったく発揮できず、閣僚問題を1年以上も解決できないという指導力不足を知らしめているだけです。

一方シャナナといえば、オーストラリアとの領海画定条約を結び、8月30日、東チモールはオーストラリアと新しい外交文書を交換し、有言どおり領土の次に領海を解放しました。オーストラリアのモリソン首相と新外交文書を交換したのはタウル首相ですが、シャナナの手柄であることは誰もが知るところです。

シャナナと激しく対立しPLPを創設したころのタウル=マタン=ルアクを支持していたビジネスマンたちは、現在、シャナナの支持にまわったようです。さらに影響力のあるビジネスマンらは、シャナナの法を無視する姿勢に期待を寄せて支持しているという話もあります。どういうことかというと、シャナナならば正規の入札を経ないで公共事業を気に入った会社に割り当ててくれるという期待をビジネスマンが抱いているということなのです。シャナナはことあるごとに裁判所の判断に反対していますが、実はこれは大口の献金を得るためのパフォーマンスである可能性があります。

かつてはシャナナ=グズマンを強く批判したタウル=マタン=ルアクをうまい具合に懐に丸め込んで首相にし、政治的袋小路のなかでタウル首相の力を減衰させるシャナナの力量たるや、ことの善し悪し、好き嫌いは別にして、感服するほかありません。

もしかしてシャナナ=グズマンは前倒し選挙を再び仕掛けて、より強固な実権を握ろうとするのではないかという噂が流れています。噂の真相はともかく、こんな噂が流れるのはシャナナの力が増大していると世間が認識していることの表れです。

 

 

青山森人の東チモールだより  第401号(2019年10月15日)より

青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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