青山森人の東チモールだより…動揺するCNRT

新型コロナウィルスを抑え続けろ

東チモールにおける新型コロナウィルスの感染者数などの、最近の単純な累計数字は以下の通りです。

 

~~~日付—①~~~②~~-~③~~~④~~~⑤~~~~~

4月25日–409人—18人–24人–367人–6人*

4月26日–472人—81人–24人–367人–6人

4月27日–480人—89人–24人–367人–6人

4月28日–597人–206人–24人–367人–6人

4月29日–629人–215人–24人–390人–6人

4月30日–652人–193人–24人–435人–16人**

5月 1日–671人–169人–24人–478人–16人

5月 2日–684人–159人–24人–501人–20人***

5月 3日–688人–131人–24人–533人–20人

5月 4日–706人–103人–24人–579人–20人

5月 5日–719人—73人–24人–622人–20人

5月 6日–738人—92人–24人–622人–21人****

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①検査を受けた人、②検査結果待ちの人、③結果が陽性だった人、④結果が陰性、⑤回復した人

(危機管理統合センターの資料より、累計は3月6日から)

(*)2人が陽性確認から、4人が感染の可能性からの回復。

(**)12人が陽性確認から、4人が感染の可能性からの回復。

(***)16人が陽性確認から、4人が感染の可能性からの回復。

(****)17人が陽性確認から、4人が感染の可能性からの回復。

新型コロナウィルスの東チモール対策本部といえる「危機管理統合センター」の5月 3日の発表によれば、リキサで教えていた陽性反応を示したポルトガル人教師は回復し隔離所から出たとのことです。リキサで感染者がでていません。この地域での感染拡大が心配されましたが封じ込めがうまくいっているようです。全国的にも新たな陽性反応者は4月24日以来でていません。死者はゼロのままです。このままずっとゼロでいてほしいと願います。

ただし非常事態宣言下では人の活動と物の流れが制限されるため、生活必需品が不足して困窮する一般庶民の悲痛な嘆きがさかんに報道され、事態は深刻なようです。政府は弱い立場にある人びとの生活支援を素速く効果的に実施しなければなりません。

CNRT、大統領の違憲性を裁判所に問う

シャナナ=グズマンCNRT(東チモール再建国民会議)党首の指導のもと結成された新しいAMP(国会多数派連盟)によって第9次立憲政府が樹立されると思いきや、新型コロナウィルス対策としての非常事態宣言に入った状況において、憲法で定められている期限60日が過ぎてもフランシスコ=グテレス=ルオロ大統領の判断がされないまま、4月29日、新AMPの構成政党の一つKHUNTO(チモール国民統一強化)が現政府を支持していくとして新AMP離脱を告げる手紙をシャナナCNRT党首に送りました(前号の東チモールだより)。

KHUNTOが新AMPを離脱し現政府を支持していくとなれば、フレテリン(FRETILIN、東チモール独立革命戦線)とタウル=マタン=ルアク首相のPLP(大衆解放党)の連立勢力、これに加えてKHUNTOが政府側につくことになり、この三党の合計議席数は過半数を占めるので政府は安定した国会運営ができることになります。

この一大事をうけて4月30日、シャナナ=グズマンCNRT党首が弁護士二人を左右に座らせて行った記者会見では、大統領をからかったり、KHUNTOの手紙の文章を冷やかしたりするなどさかんに冗談をとばしましが、KHUNTOがAMPから去ったとなれば、われわれは政府を樹立することはできなくなったと述べました(『テンポチモール』2020年5月1日)。

この記者会見でシャナナ=グズマンCNRT党首は東チモールは制度上の危機に陥っている述べ、大統領による行為の違憲性を主張しました。シャナナCNRT党首の右に座るのはメディア露出度の高いマヌエル=ティルマン弁護士でしたが、シャナナ党首は時々ティルマン弁護士にマイクを渡し法的問題点を指摘させるなどし、大統領の違憲性を裁判で問うと息まきました。

首相、内包的な政府を望む

4月30日、CNRTが政府内にいる党員は辞職すべきとの姿勢を示した一方、タウル=マタン=ルアク首相はCNRTだからといってこちらから解任はしない、辞職は本人次第である、自分としては内包的な政府を望むとも述べました。内包的な政府とは日本風にいえば大連立政権という意味になるのでしょうが、東チモールにおいて広くは与野党の枠を超えた多数の政党が参加する政府のこと、狭くは二大政党であるフレテリン(FRETILIN、東チモール独立革命戦線)とCNRTが同じ政府で要職を分け合うこと、さらなる狭義としてはシャナナ=グズマンCNRT党首とフレテリンのマリ=アルカテリ書記長が仲良く国を治める政府を意味するといってよいでしょう。

タウル=マタン=ルアク首相は、現政府が発足してから今日まで長らく未就任のままとなっている閣僚の地位にフレテリンから5人と民主党から1人などを充てることを発表しました。民主党は新AMPの構成政党の一つです。現政権の要職に就いているCNRT党員が辞職しなければタウル=マタン=ルアク首相は解任しないというのだから、もしCNRTがそのまま政府内にとどまれば内包的政府ができあがり、かつ閣僚の未就任問題が解決されることになります。こうなれば少なくとも表向きは政治的袋小路が打開されたということができます(憲法上の問題そしてシャナナCNRT党首とルオロ大統領との確執は残るが)。

CNRTとフレテリン、形勢逆転か

5月5日の二つの記事の見出しが目を引きました。『テンポチモール』は「CNRT、“ひざまついて”フレテリンに”一緒に統治”しようと頼む」、『インデペンデンテ』は「シャナナの政党が“降参”、フレテリンに一緒に統治しようと頼む」という見出しを付けたのです。

両記事に共通しているのは、CNRTがフレテリンに「一緒に統治すること」を「頼む、求む(husu)」という表現を使っているところです。『テンポチモール』の‘Hakneak’(ひざまついて)、『インデペンデンテ』の‘Rende’(降参)という 髭カッコ付きの表現が、もはやCNRTは多数派ではなくなったことを強く印象付けます。旗色の悪くなったCNRTが、少数派から多数派に転じようとするフレテリンに歩み寄りの姿勢を示すのは、両政党の形勢が逆転したことの表れといってよいでしょう。

上記『テンポチモール』の記事は、CNRTのドゥアルテ=ヌネス国会担当が5月5日、フレテリンとCNRTの二大政党が政治的袋小路の解決の道筋をつけるのが好ましい、これら二つの政党には責任がある、と語ったことを伝えました。また同日の『テンポチモール』の記事はCNRT議員が記者会見を開いたことを伝え、それによれば複数のCNRT議員が大統領にフレテリンとCNRTを呼んで政治的袋小路の解決をするために話し合うように求めたのです。

その一方で5月5日、CNRTの弁護士であるマヌエル=ティルマンが控訴裁判所に大統領の違憲性を問う申し入れ書を提出しました。ティルマン弁護士は大統領の違憲行為は一つ・二つ・三つ・四つではないと記者たちを前にまくしたてました。

5月5日、CNRTは歩み寄りの姿勢と裁判闘争の両刀使いの構えを示したことになります。シャナナ=グズマンCNRT党首が大統領の違憲性を裁判所に申し立てると息巻いた4月30日からこの日までの間、柔和と攻めの両刀使いの作戦をとる方針を決めたのか、あるいはCNRT内部が揺れているのか…どうやら後者のようです。6日CNRT最高幹部は、CNRT議員が5日の記者会見で示した見解は個人的なものであり、フレテリンとCNRTが一緒になって政治的袋小路の解決をするという呼び掛けは党としての見解ではないと声明を出したのです。

2006年に勃発した「東チモール危機」をうけてフレテリンの対抗政党として結成され、2007年の総選挙で非フレテリン勢力を抱き込んで実権を握って以来、2017~2018年のフレテリン少数連立政権の僅かな期間中に野党になっても多数派を牛耳って少数派フレテリン連立政権を翻弄したCNRTが、初めて少数派に転ずる事態を迎えたのです。動揺するのも無理はありません。

 

青山森人の東チモールだより  第416号(2020年05日06日)より

青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion9733:20200509〕