青山森人の東チモールだより…増えてきた感染死

タウル首相、感染体験を語る

9月1日、フィデリス=マガリャンエス内閣長官はタウル=マタン=ルアク首相が新型コロナウィルスのPCR検査で「先週、陽性を示した」ことを公表し、自宅隔離のもと専門家による診療をうけ、すでに快方に向かっていると述べました(『タトリ』2021年9月1日、『テンポチモール』2021年9月2日)。

この場合の「先週」とは8月23日を(月曜日)とする8月の第四週のことです。8月25日の閣議をタウル=マタン=ルアク首相が欠席しており、この時すでに陽性を示したとマガリャンエス内閣長官は述べています。最大与党のフレテリン(FRETILIN、東チモール独立革命戦線)党首・マリ=アルカテリ元首相とその家族が陽性反応を示したとマリ=アルカテリ自らが公表したのが8月24日ですが、なぜタウル首相の公表が一週間後になったのか?気になるところです。

9月14日、タウル首相が公の場に姿を現し、めでたく回復宣言をして公務に復帰しました。二週間以上の自宅隔離での療養でした。

タウル首相は復帰記者会見で感染の体験談を語りました。熱や咳が出たこと、伝統的な薬とビタミン剤を服用したこと、そして二度のワクチン接種が自分を救ったとして国民にワクチン接種の重要性を強調しました(以下,『テンポチモール』「タウル首相(*)、Covid-19から伝統的薬とワクチンによって回復」[2021年9月15日]を参照)。

(*)タウル=マタン=ルアク首相を縮めていうとき、東チモールでは「ルアク首相」ではなくこのように「タウル首相」というのが習慣であるので、わたしもそうすることにしている。

症状についてタウル首相はこう語ります。「少し身体がだるくなり食欲がなくなる。そしてただ横になりたくなって、腹の調子が悪くなり微熱が出て、咳が出てくる。初めの一週間、こうした症状が出た」。

また対処について、「医者たちがわたしをとても気遣ってくれた。わたしは発熱に対してはビタミン剤をとり、薬草を煎じて飲み、そのあと生姜と蜂蜜をお湯と一緒に飲んだ」と記者たちに語りました。解放闘争時代のゲリラ生活で培ってきた東チモールの伝統的な対処法の知識が活かされたのでしょう。

そして、「ワクチン接種が新型コロナウィルスの感染から身を守る。わたしは二度接種しても具合が悪くなった。もし接種していなかったらどうなったか、みなさんによく考えてほしい」と伝統的な治療方法ではなくワクチン接種こそが大切であることを強調したのでした。

さて、タウル首相は回復しました。先に陽性を示したことを自ら公表したフレテリンのマリ=アルカテリ書記長はどうなったのでしょうか?また、体調不良のため8月20日の解放軍創設記念行事を延期(事実上の中止)したルオロ大統領は、ニューヨークで行われる国連総会の出席とポルトガル訪問も体調不良で見送ったと報道されましたが、いかなる体調不良なのかは報道されていません。大丈夫でしょうか。

庶民が痛手を被る外出規制

新型コロナウィルスの感染状況を8月27日から見てみましょう。数字はその日の新規感染者数で、カッコ内はその日における感染者数(3月21日からの累積感染者数から[累積回復者数+累積死亡者数]を引いた人数)です。

【2021年8月】

27日=357(4373), 28日=276(4523), 29日=166(4554),

30日=113(4574), 31日=167(4499).

【2021年9月】

1日=232(4480), 2日=269(4485), 3日=196(4429),

4日=89(4261), 5日=150(4184), 6日=80(4132),

7日=190(3941), 8日=158(3631), 9日=165(3523),

10日=92(3295), 11日=74(3145), 12日=133(3105),

13日=82(3013), 14日=118(2952), 15日=71(2756),

16日=70(1955), 17日=87(1918).

8月24日の一日の感染者数が過去最高の532人(前号の「東チモールだより」)を頂点とする感染の大山を迎えた東チモールは、現在(2021年9月18日)、17回目となる30日間の非常事態宣言下の最中にあります。今回の非常事態宣言では主要地方において隔離封鎖の措置による外出規制を伴っています。

外出規制はすなわち行動を制限することであり、やっていいこととよくないことを政府は国民に求めています。この制限は、生活必需品を市場などで売る人や、竿棒の両端に商品をぶら下げてそれを肩にかけて歩きながら路上で物を売って生活費を稼ぐ人たちにとって、経済活動が著しく縛られてしまうことを意味します。外出規制によって一般大衆は経済的にかなりの痛手を被ることになり、生活苦を強制されてしまいます。最近のTVニュース(You-Tubeを通して見ることができる)を見ると、悲鳴にもにた庶民の嘆きが頻繫に報道されています。

人権団体は、都市が封鎖/隔離されることで庶民が仕事を失うことを政府は気にかけていない、仕事を失えば、収入がなくなってしまう、人びとの外出を規制をするなら人道的支援を提供しなければならないと政府を批判します。野党CNRT(東チモール再建国民会議)の議員も、都市封鎖によって閉じ込められた大勢の人びとは食糧の入手が困難になっていると政府の措置に疑問を呈します(『テンポチモール』2021年9月3日)。

新型コロナウィルスが貧富の格差を増長させ、社会の歪をあぶりだす現象を見せているのは日本も東チモールも同じであるようです。

累積死者数が百名に達す

9月15日、東チモールにおける新型コロナウィルスの感染による累積死者数が100名に達してしまいました。

死者数は、8月15日以降、9月3日と10日を除けば、毎日1~5人の範囲で出ています。8月15日の時点で累積死者数が30人だったのが、1か月後の9月15日に100人に達してしまいました。単純に計算するとこの1か月間、1日平均約2.3人(70人÷31日)の死者を出していることになります。

デリとバウカウの隔離施設で療養中の患者のうち15人が重症であると危機管理統合センターのルイ=マリア=デ=アラウジョ医師は発表しました(『テンポチモール」(2021年9月5日)。患者の重症化を防ぐ治療と重症患者への治療は東チモールの医療能力だけでは限界があるように思えます。今後、医療先進国からの医療団の派遣が死者を出さないための緊急措置になることでしょう。すでにオーストラリアから専門家たちが派遣され始めています。

死亡につながる重症者を出さないためにも、日常的な感染予防対策(マスク着用、よく手を洗うこと、社会的距離を保つこと)を普段から励行すること、そしてワクチン接種の促進が必要です。ところが(ニュース映像を見る限りだが)日常的な感染予防対策はあまりよく励行されていないようです。とくに抵抗運動の活動家だった人物の葬式では、家族ら関係者が群衆をつくってしまい、マスク着用や距離を保つことが実践されているようには見えません。また日本と同様、政府関係者が会食会を開くなど庶民への示しがつかない行動がとられており、これが感染予防対策の”緩み”になっているようです。

ワクチン接種ですが、政府による接種キャンペーンにさほど多くの地域住民が参加せず、接種して亡くなった人がいるので接種をためらっている人の意見が紹介され、ワクチン接種の勢いが衰えたことが報じられています。

50名が謎の死?

バウカウ地方のケリカイという村でこの1か月間で50人が亡くなり、その原因調査に保健省が着手したと9月18日に報じられました。

何が原因で50人も亡くなったのか?わからないとはどういうことなのか?新型コロナウィルスの感染によるものなのか?

保健省のオデテ=ベロ保健大臣は「私が聞いたのは20名だったが、いま50名だといわれている」(GMNニュース、9月18日)と述べるなどそもそも情報が錯綜しているようです。早とちりは禁物ですが、ものすごいことが起こっているような印象を受けます。早急に真相が明らかにされなければなりません。

このニュースは新型コロナウィルスの感染による隠れた被害があるのではないかと予感させます。新型コロナウィルスの本性が見えてくるのはもしかしたらこれからかもしれません。

 

青山森人の東チモールだより  第442号(2021年09月19日)より

青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.co

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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