青山森人の東チモールだより…少数与党、多数野党、そして憲法

青山森人の東チモールだより  第359号(2017年11月5日)

少数与党、多数野党、そして憲法

少数連立政権の試練

9月15日に第一段階の就任式、10月3日に第二段階、そして10月17日の第三段階でようやく第7次立憲政府の全閣僚の就任が完了しました。まるで三段ロケット噴射みたいですが、このロケットはもう失速しそうです。10月末までの経緯をざっと追ってみましょう。

第二段階目の就任式後の10月10日、政府は国会に「政府計画」を提出、これを16日から国会で審議に入り、野党の多勢に与党の無勢(少数)、政府は早くも試練を迎えました。憲法第108条と第109条によれば、「政府計画」とは新政府の行動計画と基本姿勢を表すもので、内閣承認後30日以内に国会に提出されなければならず、国会審議の期間は最高で5日間、その間に政府は採決をおこなう動議を、また国会内の勢力がこれを否決する動議を、それぞれ起すことができます。審議4日目の10月19日、「政府計画」は、35(野党)対30(与党)で否決されたのです。

マリ=アルカテリ首相は「政府計画」を詳細に審議されることなしに野党の拒否にあったことにたいし、「邪悪で悪意と復讐に満ちた証」であり、「宣告された幼児殺し」と強烈な口調で非難しました。また、マリ=アルカテリ首相は二度目の「政府計画」の国会提出を自分はやりたくない、他の閣僚にやってもらうと個人感情を吐露しました。これにたいし野党から、憲法第108条の第2項に「首相は政府計画を国会に提出する」と定めてあることから、もし首相が「政府計画」を国会に提出しないで他の者にやらせるのであればそれは憲法違反だとして、そのときは再び否決するという声が出ています。

選挙で第一党として返り咲いたフレテリン(東チモール独立革命戦線)のマリ=アルカテリ書記長は首相に就任してからも他党と閣僚協力の可能性を追求し低姿勢を維持してきましたが、国会での審議が始まり政府案が否決される場面を迎えるにおよんで、本来の(?)挑発的な発言が戻ったようです。しかし野党も似たり寄ったりです。政局は実りある論戦とは程遠い売り言葉に買い言葉の険悪な様相を帯びてきました。

「政府計画」が否決されたことにより、フレテリンと民主党の少数連立政権は、「政府計画」の練り直しを強いられ、30日以内に国会に再提出しなければならず、再び最大5日間の審議がされ、再度これが否決されれば、憲法第112条に従って、まさに生まれたばかりの「幼児」(新政権)は死(解散)の宣告を突きつけられることになります。その場合、選挙をおこなうか、それとも国会内の第二勢力(野党連合)に政権に就いてもらうか、大統領の決断しだいとなるのです。

野党連合は選挙を避けたいようで、第二党のCNRT(東チモール再建国民会議)を中心とした政府を成立させる選択をするようにル=オロ大統領に要請しています。一方、フレテリンは選挙の用意があると強気の姿勢を示しているようですが、マリ=アルカテリ首相は、「政府計画」が否決されたのがよっぽど癇に障ったか、「政府計画」が二度否決された場合、「政府計画」にかんして国民に信を問う住民投票を実施するという選択肢を示しました。これにたいしても野党は、憲法66条の第3項で住民投票を「憲法で定められた国会・政府そして裁判所の権限に関する件について適用することはできない」と規定されており、「政府計画」はまさに国会の件であることから、憲法違反だと反発しています。

予想はされていましたが、少数連立政権が正常に国会を運営することは難しく、政局は憲法解釈論を伴いながら緊迫した状況に突入した模様です。そもそも議席過半数を占めない政権を成立させる判断をしたル=オロ大統領の憲法解釈が正しいのかどうか? 疑問の念の頭がもたげます(「東チモールだより 第357号」参照)。

流動的な政局の弊害、あるいは効能?

劣勢を強いられる政府であっても日々行政を営まなくてはなりません。政府は修正された「政府計画」を補正予算案とともに提出しようとしています。しかしこれについても野党は憲法に反すると批判しています。野党だけでなく法律家からも、まず「政府計画」が国会を通過されなければ補正予算について審議はできないと指摘されています。この批判にたいし与党フレテリンは、補正予算がなければ行政ができない、保健省は20名の患者を海外で治療するための予算が必要なのだ、と正当性を主張します。

さて、もし「政府計画」が二度目の否決とあいなった場合、そしてもし大統領の決断によって選挙の道が採られるとしたら、どうなるでしょうか。ポルトガル通信社『ルザ』の記事(2017年10月13日)によれば以下のようになります。国会は選挙後6カ月以内に解散できないと規定されていることと、投票日から少なくとも60日前に選挙日程が決められなくてはならないという規定もあることから、選挙は最も早くて3月22日の実施ということになります。

そうなれば当然、政府が必要とする今年の補正予算案ならびに来年2018年度の国家予算案の採択に悪影響が及ぶことは明白です。選挙になった場合、来年度の予算案が国会を通過するとは考えられません。予算が決まらずに来年度を迎えるとどうなるか。これはタウル=マタン=ルアク大統領(当時)が2015年に2016年度予算案にたいして拒否権を行使したときにも議論にのぼりましたが、前年度(いまの場合は2017年度)の国家予算額の12分1を月ごとに使うという「12分算方式」を採用して行政をおこなうことになります。

仮に2018年3月22日に選挙が実施され、その結果、安定多数を占める政党あるいは連立勢力が政権に就いたとしても、予算が決まるまでたっぷり2ヶ月ほどの時間を要することでしょう。つまり来年の半ばあたりに来年度の国家予算が決まることになるわけで(東チモールの年度初めは1月)、その間、窮屈な「12分算方式」で国家運営のやり繰りをしなければならないということになります。

そして仮にそうなったら、例えば、公共事業の中断、投資の鈍り、行政サ-ビスの低下など、社会の広い分野で弊害が出るであろうと想像されます。報道によれば現にいま、政局が流動的である機に便乗して商店では生活必需品の値段が上昇しているくらいですから。あるいは、過去10年間シャナナ=グズマン連立政権が推進してきた大規模開発事業が窮屈な「12分算方式」のもと見直しを余儀なくされることを楽観主義的に期待するというのはどうでしょう。こぢんまりとした予算(2017年度予算は選挙の年であることから執行率が低下するとの見通しで小振り)であるならば庶民の足元を見つめて堅実に“月々のお小遣い”を使おうという気運になったとしたら、まさに「災い転じて福となる」です。未来のための蓄えである「石油基金」の浪費に歯止めがかかり節約される効能が出ますように…。

いずれにしても、流動的な政局が政情不安につながることなく、社会的に弱い立場にある一般庶民の生活が苦しくならないように、政党の指導者と国会議員は東チモール人として未経験のこの局面を乗り切ってほしいものです。

~次号へ続く~

 

青山森人  e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/

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