青山森人の東チモールだより…感染の大波が到来するなか、解放軍創設46周年を迎える

第二波の到来

東チモール保健省が発表する新型コロナウィルスの感染状況を8月1日から20日まで見てみましょう。数字はその日の新規感染者数で、カッコ内はその日における感染者数(3月21日からの累積感染者数から[累積回復者数+累積死亡者数]を引いた人数)です。

【2021年8月】

1日=68(1029), 2日=16(1015), 3日=118(1084),

4日=45(1094), 5日=80(1160). 6日=161(1265),

7日=89(1335), 8日=54(1375), 9日=50(1422),

10日=138(1544), 11日=153(1672), 12日=データなし,

13日=213(1829), 14日=151(1940), 15日=142(2068),

16日=117(2141), 17日=247(2349), 18日=226(2507),

19日=278(2729), 20日=267(2882、累積死亡者は42人).

一日の感染者数が8月初旬に比べ20日ごろになると2~4倍に急増してきました。

エルメラ(Ermera)地方で7月28日に123人、翌29日にも112人の新規感染者が出ると、エルメラ地方がかかえる感染者数が首都圏であるデリ(Dili、ディリ)地方の感染者数を上回る状況となってしまいました。8月11日になっても全国の感染者数が1672人であるのにたいし、デリ地方が520人、エルメラ地方が759人の感染者をそれぞれかかえ、依然としてエルメラ地方が最大の感染地域という状況でした。

8月13日になると再びデリ地方が最も多い感染者をかかえるようになり、状況が変化しました。デリ地方とエルメラ地方だけの新規感染者数を見てみると、8月16日で68人(デリ)・0人(エルメラ)、17日が192人(デリ)・24人(エルメラ)、18日が167人(デリ)・0人(エルメラ)、19日で185人(デリ)・0人(エルメラ)、と7月28日から始まったエルメラ地方の感染拡大は鎮まったようです。しかしこれと並行してデリ地方における感染拡大が再発してきたのです。

去年は感染をよく抑え込んできた東チモールですが今年の3~4月から感染者数が増加の傾向を示しようになってきました。そして5月13日、一日の感染者数が253人というそれまでの過去最高の数字を出しました。6月になると、ワクチン接種の効果でしょうか、一日の感染者数が100人を下回っていきました。5月のこの頂点とする山を第一波とすると、現在は第二波、しかも大きな波を迎えているといえます。

ワクチン接種がそれなりに進んでいるにもかかわら感染の大波を招く原因とは、デルタ株と呼ばれる変異ウィルスが東チモールでも暴れていること、あるいは感染防止対策の基本が守られていないことなど、世界共通の原因が考えられますが、東チモールならではの原因として感染の検査を受けない不法出入国者が後を絶たないことが考えられます。

政府は8月17日、デリ市内における学校の一斉休校を決定しました。期間は8月17日~31日の二週間です。

祝!FALINTIL創設46周年記念

首都における学校の一斉休校に踏み切った政府ですが、FALINTIL(ファリンテル=東チモール民族解放軍)創設記念日である8月20日の記念式典はとり行われました。

「8月20日」は東チモール解放史にとって極めて重要な記念日です。今年は46周年。FALINTILは、創設当初はフレテリン(東チモール独立革命戦線)がUDT(チモール民主同盟)の起こしたクーデター(1975年8月11日)に対抗するため創設した政党の軍事組織ですが、その後、全東チモール人のための解放軍として改編されました。1990年代、FALINTILは人民という海を泳ぐ魚として民衆に溶け込み、気の遠くなるような忍耐力で抵抗運動を展開し、1999年8月30日、東チモールは国連監視下による住民投票を実現させ、ついに自由と独立を勝ち獲りました。

このような歴史を振り返ればFALINTIL創設年記念日がいかに大切であるか!重々承知しているつもりですが、新型コロナウィルスの深刻な感染状況を考えると、記念式典・行事をやってよいものか?と疑問に思います。

現在の東チモール国軍であるF-FDTL(ファリンテル-東チモール防衛軍)本部前における本式典のほか、タウル=マタン=ルアク首相はバウカウ(Baucau)地方に赴いて式典を行い、さらに解放闘争の英雄・シャナナ=グズマンCNRT(東チモール再建国民会議)党首による(政府の主催ではないと思われる)式典が首都デリのベコラで行われました。

それぞれの式典会場で主催者側は感染防止に気を配ったことでしょうし、指導者たちその演説の中で新型コロナウィルスの感染防止対策を怠ることのないよう住民に訴えました。しかしながらTVニュースの映像を見ると、とくにシャナナによる集会ですが、マスクの着用が徹底されない人びとによる密の状態がつくられていました。これでは学校を一斉休校にした意味がどこかに消えていってしまいます。

また、今回の解放軍創設記念は8月20日の一日だけの行事とせず、国防軍の指導者や幹部らが「平和への道」と題して解放闘争の歴史的な土地巡りをして、各土地で集会を開くという企画が組まれました。「平和への道」”ツアー”は8月15日から始まり、まず国防軍幹部は、クーデターを起こしたUDTの建物を訪れ、歴史的な出来事が記載された板金の立て看板を立てました。「平和への道」”ツアー”は8月20日を挟んで、前半は東部へ、後半は西部へと、8月29日まで続く予定です。

このように解放闘争ゆかりの地を指導者たちが巡回し各地で集りをもつことは、人びとの心の癒しとなる良い企画です……といいたいところですが、新型コロナウィルスが感染拡大するなかで行うことには疑問を抱かざるをえません。

なお、国防軍本部前の式典は例年ですと大統領が主催しますが、今回はアニセト=グテレス国会議長が主催しました。ルオロ大統領はマヌファヒ(Manufahi)地方とアイナロ(Ainaro)地方に赴いて記念行事をする予定が組まれました。ところがルオロ大統領は体調を崩し、この地方出張は延期されました。その後、大統領は回復したと報じられています。

一日の感染者が500人を超える

8月21日からの感染状況を見てみましょう。数字はその日の新規感染者数で、カッコ内はその日における感染者数(3月21日からの累積感染者数から[累積回復者数+累積死亡者数]を引いた人数)です。

【2021年8月】

21日=281(3088), 22日=235(3264), 23日=187(3383),

24日=532(3816), 25日=361(4052), 26日=307(4203,累積死亡者は56人).

8月21日、一日の感染者数が過去最大の281人を記録したのも束の間、24日、なんと532人という突出した数字が出てしまいました。300人台・400人台をすっ飛ばしていっきに500人台とは切迫を感じさせます。そしてその後も300人台が続いています。

8月23日、100人以上の職員が勤務する大統領府で39人の職員が感染し、8月24日、1000人以上の職員が勤務する国立病院で116名の職員が感染したと発表されました。

また8月24日、最大与党のフレテリン党首のマリ=アルカテリとその家族が陽性反応を示したとマリ=アルカテリ自らが公表しました(『テンポチモール」2021年8月24日)。

爆発的な感染増加は、変異した新型コロナウィルスが医療現場だけでなく、国の中枢にも侵入し襲いはじめたのかとこれらの出来事は思わせます。

 

青山森人の東チモールだより  第441号(2021年08月26日)より

青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.co

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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