青山森人の東チモールだより…新型コロナウィルスがあぶりだす政治の生臭さ

東チモールにおける新型コロナウィルスの感染者数など4月末日の単純な累計数字は以下の通りです。

 

日付検査を受けた人検査結果待ちの人結果が陽性結果が陰性回復した人
4月25日409人18人24人367人6*人
  26日47281243676
   27日48089243676
   28日597206243676
   29日629215243906
   30日6521932443516**

(危機管理統合センターの資料より、3月6日からの累計)

(*)2人が陽性確認から、4人が感染の可能性からの回復。

(**)12人が陽性確認から、4人が感染の可能性からの回復。

さて、リキサ地方で教鞭を執っていたポルトガル人教師が陽性反応を示した件のその後です。観察チームがリキサに入り、陽性反応を示した2人のポルトガル人教師はどのように感染したのか究明に努めているようです。危機管理統合センターの26日の発表によれば、27人の検査をして結果待ちの状態であり、もし感染が確認されたらリキサの道路封鎖をするであろうともいいます。29日、リキサですでに79人の検体を採集し、上記の27人は陰性を示し、52人が結果待ちであると発表されました。

このポルトガル人教師2人が2月に東チモールに到着する前に感染した可能性はないものなのでしょうか。本来ならこの2人と接触したリキサの地元の人たちを片っ端からPCR検査をするのが最善なのでしょうが、東チモールではそうもいかないので辛いところだと思われます。

危機管理統合センターは4月25日の時点で小集団感染を6件(リキサとホテル5件)と確認していましたが、26日になると1件増え、それは保健省職員とのことです。新型コロナウィルス対策に従事する保健職員の“院内感染”が発生している模様です。27日、同センターは保健機関の職員が隔離施設に入ったと発表しました。

また4月28日の危機管理統合センターの定例の記者会見では、新型コロナウィルスの他、デング熱にたいする警鐘を鳴らしました。新型コロナウィルスはまだ東チモールでは死者を出していませんが、今年に入ってデング熱はこれまで8人の命を奪い、患者数も1050人と猛威をふるっています。

KHUNTO、新AMPを離脱

前号の「東チモールだより」で、2月22日に結成された新しいAMP(国会多数派連盟)を構成する6政党のうちひとつKHUNTO(チモール国民統一強化)の動向がどうも妙で、タウル=マタン=ルアク首相のPLP(大衆解放党)とフレテリン(FRETILIN、東チモール独立革命戦線)が3月に組んだ少数派連立勢力に加担するのではないかいと思わせますが、KHUNTOはそのような事実はないと否定したことをお伝えしました。

ところがどっこい4月29日、KHUNTOはAMPの棟梁であるシャナナ=グズマンCNRT(東チモール再建国民会議)党首に書簡を送り、正式にAMPを離脱することを伝え、30日に声明を発表したのです。以下、時系列的に報道をまとめてみます。

KHUNTOの指導者、脅される

24日、KHUNTOの創設者ジョゼ=ナイモリ=ブカール氏が自宅で武器(銃)もった何者かに脅された事件があり、これについて27日の国会は、あってはならないこととして警察による調査するよう求めました。そしてさっそく警察は同日から調査を開始しました。

すると、28日、CNRTの幹部ジャシント=リゴベルト氏が次のような記者会見を開いたのです。リゴベルト氏が武器を持った4人組とともに4月23日、ナイモリ氏を自宅までつけてきて脅して何も話さずに去ったとKHUNTOのオリンダ=グテレス議員が24日にジャシント=リゴベルト氏を名指しで非難したが、リゴベルト氏は23日にナイモリ氏を自宅に訪ねAMPの調整事項について話をしたのであって、武器を所持した者たちを連れてナイモリ氏を脅したというのは根も葉もない作り話だというのがリゴベルト氏の会見の内容です。なおリゴベルト氏は、オリンダ=グテレス議員から25日電話で謝罪を受けたともいいます。

4月30日、KHUNTOのナイモリ氏を含めた幹部たちは、ナイモリ氏が銃をもった何者かに脅されたのは事実だが、オリンダ=グテレス議員の発言は党の意向に沿ったものではないといい、ジャシント=リゴベルト氏に謝罪をしました。この30日、KHUNTOはAMP離脱の声明を出すわ、CNRT党員に謝罪をするわで大忙しです。おそらくオリンダ=グテレス議員はソーシャルメディアで流れたデマを真に受けて発言してしまったのではないでしょうか。なお、誰がKHUNTOのナイモリ氏を脅したのかまだ明らかになっていません。もし、KHUNTOがタウル=マタン=ルアク首相への支持を表明したことにかんして何者かが政治的な表現行動をしたとしたら由々しき事件だといえます。なお、この件がKHUNTOのAMP離脱に関係しているのかどうかはわかりません。

ちなみに4月1日、酔っ払った運転手が走行中のタウル=マタン=ルアク首相の乗った車に衝突しようとした事件があったと報道されました。警護者によって衝突は免れ、事なきを得ました。運転手は捕まり取り調べを受けていると当時のニュースは伝えていましたが、その後、その人物は単なる酔っ払い運転をした不届き者なのか、目的を持った行動だったのか、まだ報道されていないようです。不穏な出来事がポツリポツリと発生し、それがいつの間にか大きなうねりとなって治安崩壊したのが2006年の「東チモール危機」でした。このことをわたしたちは想起しなければなりません。

非常事態宣言の1ヶ月延長(4月28日~5月27日)

国会は4月27日、新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐため非常事態宣言の1ヶ月間の延長が審議・採決されました。結果は、賛成37・反対23・棄権4、正式に非常事態宣言の1ヶ月延長が決まりました。

この採決においてCNRTは、政府は新型コロナウィルス対策の予算をとってもまだ実行に移していない、インドネシアと接している三つの地方を封鎖すれば全土にわたる非常事態宣言の必要はないとして、反対票を投じました。反対票が23ということは、21議席を持つCNRTを中心とした6政党から成るAMP(全34議席)のうち、先にタウル=マタン=ルアク首相への支持を表明した5議席をもつKHUNTOの他にもAMPから賛成票が投じられたことになります。

上記の国会審議において、KHUNTOが非常事態宣言の1ヶ月延長に賛成の立場をとったことについて、KHUNTOはもうPLPとフレテリン(の連立)に傾き始めていると言われました。KHUNTOのルイス=ロベルト議員は――そのようなことをCNRTがいっているのだとしたら相互崩壊である、いまの政府はわれわれの政府でもあるのだから支持すべきだ、CNRTもCNRTの面々が政府の中にいるではないか――などと述べました(『インデペンデンテ』〈電子版、以下同様〉、『テンポチモール』、2020年4月28日)。

4月28日の時点で、もはやKHUNTOはCNRTと同じ連立内にとどまりそうもない発言をしている印象をうけます。かくして29日、HKUNTOはシャナナ=グズマンCNRT党首にAMP離脱を伝える書簡を送ったのでした。

KHUNTOの手紙

『テンポチモール』(2020年4月29日)はその書簡の内容を書簡一部の写真とともに紹介しています。その内容はだいたいこうです――3年間続いている政治的袋小路の解決が不確かな現状にたいし、政党は問題解決のため政治的立場を示さなくてはならない。AMPはまだ大統領から第9次立憲政府樹立の承認を得ていない。KHUNTOは、第8次立憲政府をいまも率いるタウル=マタン=ルアク首相にたいしフランシスコ=グテレス=ルオロ大統領が信頼を寄せていることを鑑みて、(現政府の任期満了にあたる)2023年まで現政府を全面的に支持することにした。よって、シャナナ=グズマンCNRT党首の指導のもと困難な状況下でAMPを構成する他の政党とともに仕事ができたことに感謝しつつ、国民と国の利益のために新AMPを離脱することを決めた。KHUNTOは今後もシャナナ=グズマン氏と手を携えていき、愛すべき国民と国のため来るべき時にまたともに仕事をすることを約束する――。

シャナナ、大統領の違憲性を問う

KHUNTOによるシャナナ=グズマンCNRT党首への最大の敬意を払った離脱届出書ですが、KHUNTOがAMPから離れれば、AMP(国会多数派連盟)は議席数が34から29となり国会(全65議席)で過半数を占めることができなり、「多数派」といえなくなる一大事です。4月29日、CNRTは緊急会議を開き、現政府にいるCNRTの党員で閣僚に就いている者は辞任する方針を固めたようです。ただし28日にすでにCNRTの党員は現政府の職を辞するべきだという話は出ていたと報道されています(『インデペンデンテ』、2020年4月29日)。

タウル=マタン=ルアク首相はCNRTの党員だからといって解任はしない、辞任は本人しだいであるとして、去る者は追わずの姿勢を示しました。さらに長らく未就任となっていた閣僚の席にフレテリンから5名、民主党から1名などをあてる候補者名簿を近く大統領に提出し、第8次立憲政府を完全な形にすると大統領との会談後の記者会見でタウル首相は述べました。大統領も今度は承認を渋りはしないでしょう。政権崩壊後に辞表を提出したタウル=マタン=ルアク首相は新型コロナウィルス対策に取り組んで息を吹き返し内閣改造をしようとしています。

これにたいし、シャナナ=グズマンCNRT党首は4月30日、弁護士を伴ってCNRT本部で記者会見を開きました。KHUNTOには怒っていない、ここは民主主義の国だといい、現政府には国家予算案を提出する権限はない、大統領の行動は違憲であると主張し、大統領の違憲性を諮るよう控訴裁判所に申し入れたと述べました。

新型コロナウィルス災禍にみまわれるなか比較的おとなしくしていたシャナナ=グズマンですが、いよいよ本格的に政治指導者として声をあげ始めました。

 

青山森人の東チモールだより  第415号(2020年05日01日)より

青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion9711:20200503〕