青山森人の東チモールだより…法の番人だった人物が武器の不法所持とはこれいかに

大量の武器が個人宅から発見

先月1月の16日(月曜日)のこと、リキサ地方にある或る個人宅から、ピストル1挺と、鳥撃ち用の小銃3挺そして銃弾が2千発以上、さらに様々な武器装備品など半端ではない分量の武器が合同部隊によって発見されました。さらにその後、その人物の首都デリ(Dili、ディリ)にある自宅からもピストル3挺と銃弾が発見されたのです。東チモールでは個人の武器所持は違法行為です。つまりこの人物は法を犯していたのです。

さてその人物とは誰か。滑稽なことにTVニュースではその人物名を頭文字LMとだけ報じ、映像ではその人物の顔にボカシを入れているのですが、新聞記事では「ロンギニョス=モンテイロ」と実名が報道され、そして写真では顔にボカシが入っていないのです。これではTVニュースでの匿名扱い・顔のボカシはまったく意味をなしません。東チモールでは報道規制が統一されていないようです。

ところでロンギニョス=モンテイロとは誰でしょうか。元検事総長、元内務大臣、元PNTL長官、そして現在はジョゼ=ラモス=オルタ大統領の顧問として大統領府に勤める人物です。治安を維持し犯罪を取り締まる立場にあった人物自らが実は法を犯していたという大事件・大スキャンダルともいえる事態が発覚したといえます。

TVニュースで押収された武器が映し出されました。銃器店でも開こうとしたのか、鳥撃ちの狩猟の趣味が高じすぎたのか、半端ではない大量の銃弾が不法所持されていたのです。鳥撃ち用の鳥銃あるいは空気銃とも報じられていますが、武器の不法所持であることにかわりはなく、なぜ?なんのために?この人物はこんなことをしていたのか全容解明が待たれます。

東チモールの悪い癖

ところがロンギニョス=モンテイロはとくにシャナナ=グズマンCNRT(東チモール再建国民会議)党首に近い人物であり、ラモス=オルタ現大統領の顧問に就いている人物とあって、全容解明の捜査は政治的に難航しそうです。

最近、ロンギニョス=モンテイロの自宅から武器が発見される以前のことですが、シャナナ=グズマンCNRT党首の動向を報じるTVニュースを見ると、シャナナの取り巻きの中にロンギニョス=モンテイロの姿がよく見かけるようになってきました。今年実施される国政選挙に勝利して権力を奪還しようと精力的な言動をすでに開始しているシャナナですが、もしシャナナが権力を奪還した場合、シャナナに近い人物として再び政府の要職に就くことを見込んで、ロンギニョス=モンテイロはシャナナにくっついて歩いているのかなぁ…とわたしは思っていたものです。

政府要人と繋がっているからこそ大事件・大スキャンダルでなければならないはずが、政府要人と繋がっているから取り扱い方が小さくなってしまい、大事件・大スキャンダル性が薄れてしまうという東チモールの〝悪い癖〟がここでも現れているようです。1月末から2月上旬にかけて、この事件はすっかり影をひそめてしまいました。当局はロンギニョス=モンテイロの取り扱い方に苦慮しているのかもしれません。

最近このような〝悪い癖〟の例として、カルロス=フェリペ=シメネス=ベロ師による性的虐待の報道があげられます。東チモールの宗教界のみならず解放闘争の顔ともなっているベロ師による性的虐待について犠牲者の証言付きでオランダの雑誌に報じられたとき、本来ならばしっかりと対処しなければならないはずの東チモールの指導者たちはバチカンに判断や責任を委ね、自らの意見を述べることを避けています。そして東チモールの報道機関も人権団体さえも性的被害を受けた犠牲者たちを擁護する報道・発言を避けている有様です。ベロ師が東チモール社会にとって大物であるからこうなるのであって、小物ならば徹底的に責任を追及され罪を償うことになるでしょう。

 

『インデペンデンテ』(2023年1月17日)より。

「ピストル1挺、小銃3挺、弾2000発以上、オルタ大統領の顧問の家から」

リキサ地方自治体マウバラのバトゥボロで東チモール治安当局は、大統領の顧問を務める人物の家から、ピストル・小銃・銃弾そして武器装備品などを押収した。『インデペンデンテ』が入手した情報によると、大統領顧問を務めるロンギニョス=モンテイロの自宅からピストル1挺・小銃3挺などを当局は押収した。16日、早朝1時、警察部隊とF-FDTLの海軍部隊そして犯罪科学捜査班の合同部隊が、武器所持の疑いでロンギニョス宅の家宅捜査をした」。

 

『東チモールの声』(2023年1月17日)より。

「武器を隠し持つロンギニョス、自首する」

「ディリ:ロンギニョス=モンテイロ元PNTL長官は自宅に武器を所持していたとして警察に自ら出頭した」

「STL『東チモールの声』が確認したところによると警察と情報局とF-FDTLは、大小の武器と銃弾をリキサ地方のロエスにあるロンギニョス=モンテイロの家から押収した。警察は、小銃3挺・ピストル1挺などを1月16日(月)リキサ地方のロエスで押収した。ロンギニョス=モンテイロが『ルザ』[ポルトガルの通信社]に語ったことによれば、治安当局が裁判所からの捜査令状なしで自宅に入ったことを知らなかったが、犯罪捜査班本部に説明するために出頭したという。『かれらが私の家に入ったとき、私はそこにいなかった。 だから私は警察に説明をするため、そして何が起こったのか知るために出頭した』とモンテイロは『ルザ』に語った」。

 

『チモールポスト』(2023年1月17日)より。

「ロンギニョス=モンテイロ、PCICに空気銃についてはっきりさせる」

「ディリ:ロンギニョス=モンテイロ元PNTL長官は1月16日、PCICに出頭して、治安当局が自宅から押収した武器について説明する」(写真、右から二番目がモンテイロ氏)。

法的手続きを踏まなかった初動の家宅捜査

警察は昔のボスであるロンギニョス=モンテイロの違法行為を取り調べなくてはならないという難しい立場におかれたわけですが、苦慮する理由が他にもあります。この件は1月16日の早朝、おそらく何者かが治安当局に情報を提供したのでしょう、当局はすぐさま朝の1時ごろにロンギニョス=モンテイロ宅を捜査しました。しかし、まずいことに合同部隊は捜査令状をとるという法的手続きをすっ飛ばして家宅捜査をおこなったのです。

自宅が捜査を受けた時、そこにいなかったロンギニョス=モンテイロですが、あとになって警察署に自ら出頭して押収された武器について警察に説明をし、同時に令状なしに家宅捜査したことについて苦情を述べたとも報じられています。

ここでちょっと脇道にそれますと、「合同部隊」とは軍(F-FDTL[東チモール国防軍])と警察(PNTL[東チモール国家警察])の混合部隊の名称です。合同部隊は治安維持を目的として特別な状況に対処するために編成される部隊で、年がら年中存在する常連の部隊ではありません。コロナ災禍では不法な出入国者による感染拡大を防ぐためインドネシア領西チモールとの国境沿いにおける密入国者取り締まり強化のために編成されました。つい最近のことですと、格闘技集団同士の抗争や若者たちの喧嘩が激化し殺人事件にまで発展したとき、住民の日常生活に支障をきたさないようにと合同部隊が編成されて治安の回復が図られています。今回、ロンギニョス=モンテイ宅から武器を押収した合同部隊の編成目的は、若者たちの抗争激化に対処するためと思われます。

ひと昔前は、国全体の治安を揺るがす輩たちが登場した場合これを征伐するために結成されたのが合同部隊でした。最近の合同部隊は昔のような特別感がさほど強くなく、頻繫に登場するという印象をうけます。

そしてまた最近の傾向として警察の中の一機関がよく取り沙汰されます。PCIC(犯罪科学捜査班)です。PCIC、これを英語式に……というよりアメリカTVドラマ風に翻訳するとCSIということになるでしょうか(グリッソム主任が活躍するCSIシリーズは面白かった)。このたび合同部隊が押収した武器はこのPCICの本部に運ばれて、ロンギニョス=モンテイロが出頭したのはその建物でした。武器を押収するところまでは合同部隊の作戦だったこの件は、武器押収後はPCICの件になったようです。

 

『東チモールの声』(2023年1月19日)より。

「違法捜査、裁判所、ロンギニョスを釈放」

「捜査・拘束は違法であり法的手続きを経ていないから、裁判所はロンギニョスを釈放する」。

 

『チモールポスト』(2023年1月19日)より。

「容疑認める、〝しかし〟、裁判所は審理をせず」。

 

『インデペンデンテ』(2023年1月19日)より。

「当局はさらにオルタ大統領の顧問の自宅からピストル3挺と銃弾を押収する」。

ロンギニョス=モンテイロはラモス=オルタ大統領の治安部門の顧問であるというが、大統領はいったいこの人物からどのような助言を聴いていたのであろうか?

ロンギニョス=モンテイロの件に話をもどします。1月18日午後5時ごろ、今度は捜査令状をとって治安当局(合同部隊)が、ディリのコモロにあるロンギニョス=モンテイロ宅を捜査したところピストル3挺と10発以上の弾を押収しました。鳥撃ち用の空気銃なら対人用の武器ではないといえますが、ピストルは人間を相手にした武器です。その不法所持は重大な法律違反行為となるはずです。しかし治安当局の1月16日の初動捜査が法的にまずかったせいで、1月18日、ディリ地方裁判所はロンギニョス=モンテイロを釈放したのです。

国政選挙を前にして武器の不法所持者を起訴できるか

政治的な重要人物であることと、さらに初動の捜査活動が法的手続きを踏まなかったということで、政治的かつ法的にもロンギニョス=モンテイロの扱い方が面倒になってしまいました。しかし武器を不法所持していた事実は歴然と存在します。犯罪の事実が存在するのに、初動捜査が法的にまずかったために起訴できないということになるのでしょうか(これはクリント=イーストウッド主演、ドン=シーゲル監督の『ダーティハリー』〔シリーズ1作目〕を想起させる。連続殺人を予告する殺人犯が少女を誘拐しサンフランシスコ市に身代金を要求。その身代金の引き渡し役を任されたハリー=キャラハン刑事は犯人にボコボコに殴り蹴られながらも犯人の脚をナイフで刺して怪我を負わせる。犯人の居場所を突き止めたキャラハン刑事は、生き埋めになった少女の生存時間が残り少ないとして令状をとらないで犯人の部屋に押し入る。寸前で部屋から逃げる犯人をキャラハン刑事は脚を撃って逃げられないようにし、弁護士を呼べと叫ぶ犯人の脚を踏んで少女はどこだと迫る。少女は生き埋め場所から遺体となって発見され、犯人の部屋からはライフルを含め犯罪の証拠は押収された。しかしキャラハン刑事の捜査は法的手順を踏んでいなかったので、部屋から押収された物的証拠は裁判での証拠能力を失ってしまったとして検察は犯人を釈放する。なぜ弁護士を呼ばなかった、犯人にも人権はあるんだぞ、という検察にたいして、少女の人権はどうなるんだ、とキャラハン刑事は激怒する)。

報道を見る限りではすでにロンギニョス=モンテイロの件は沈静化した観があります。新聞の取り扱い方は表紙を飾る記事から小さい記事になってしまいました。しかし今年東チモールは政権交代が争点となる国政選挙がおこなわれます。選挙期間中の治安にたいする懸念材料として武器の不法所持の件はむしろ関心が高まってくることでしょう。首都ディリのファトゥハダ区長は元PNTL長官が武器を所持していたことについて、「なんのために?選挙運動中に使うためにか?選挙期間中に何者かが銃を持っているということになれば、これは恐ろしいことだ」と2月7日、選挙運動中の争いを避けるための対話集会で述べました(『チモールポスト』、2023年2月8日)。当然の懸念といえます。

新しい政府を決めるために国会議員を選ぶ国政選挙を間近に控える時期にあって(2月13日、ラモス=オルタ大統領は投票日を5月21日とすると発表、選挙運動は4月半ばから)、武器の不法所持をうやむやにすることは断じて許されません。

 

青山森人の東チモールだより  481号(2023214日)より

e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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