大きかった揺れ
去年2021年の12月30日未明、わたしの時計で3時27分、報道では29分、久しぶりに戻って来た東チモールでの第一日目の睡眠を楽しんでいるとき、二階建ての家のこの二階で旅の疲れを癒しながらとっていた睡眠が大きな揺れで邪魔されました。東チモールでの地震は、インドネシア軍事占領時代を含めて何回か体験しましたが、この地震が一番大きかったのではないでしょうか。それは二階にいたからかもしれません。ともかく日本の地震の揺れ方とはまったく異質な揺れに違和感を覚え、ちょっとした恐怖感を味わいました。
ようやく東チモールへ戻ることができて安心して眠るわたしを、そうはさせじと二階の床を崩して瓦礫の下敷きにせんとする、まさか天の企てなのかと思ったりもしましたが、揺れは何事もなくおさまり、わたしはそのまま眠りにつきました。近所の家々から慌てて外に出る人たちの息づかいは聞えてこず、未明の静けさはそのままでした。
しかし後日、わたしはベコラ以外の地区の住人、例えば、抵抗博物館のハマール館長やわたしの最初の下宿先であったビラベルデ地区のエウゼビオ君にこの地震について訊ねると、二人とも外に出て避難したといいます。ビラベルデでは近所の人が(たぶん若者たちだ)、石で鉄柱を打ってカーンカーンカーンと鳴らすという自然の畏怖(日蝕や月蝕)をまえにしたときにとる行動をとったといいます。ベコラと違ってビラベルデでは12月30日未明の地震はそれなりの騒動を起こしたようです。
首都デリ(Dili、ディリ)では大きな揺れですみましたが、バウカウ地方のベニラレでは、地割れや地面の陥没が発生し、田畑などに被害がでました。民家にも被害が出た模様ですが死者は出ませんでした。地割れや陥没の上に民家がなくて幸いでした。
随分とゆっくりとした報道ですが、1月17日になってこの地震によってベニラレの幹線道路が陥没したりひび割れ状態になり通行止めになったことがテレビで報道されました。見た目は立派な道路でも建設されて間もなく陥没することはこの国では珍しくはないので、ひび割れは地震によって引き裂かれた現象でしょうが、道路の陥没が純粋に地震によるものなのか、そのほかの要素が絡んだ複合的な原因によるものなのか、疑ってかかる必要があります。
デング熱、感染拡大が止まらない
日本では新型コロナウィルスの感染再拡大が続き、28日に新規感染者が8万人を超えてたいへんな状況にあるようですが、東チモールではデング熱の感染状況悪化に歯止めがかかりません。新型コロナウィルスによる死者は去年の10月28日に一人でて以来でていません(累計死者は122名)。一方でデング熱によって医療が逼迫し、子どもたちが多数亡くなっています。この現状を踏まえて、デング熱に対応する特別チームを設置して対策にあたるべきではないかという意見が出ています(『タトリ』、2022年1月25日)。同感です。わたしは、危機管理統合センターが新型コロナウィルスだけでなくデング熱にも対応できるようにして、ゴミが溢れる首都を大規模に清掃し蚊天国からの脱却を目指したり、病床不足を補うための特別病棟の設置に資金を投入すべきと思うのですが、官僚業務は小回りが利かないことは東チモールも同様のようで、患者(大半が子ども)とその家族であふれる病院の窮状が連日報道されています。
もちろん政府は首都の清掃を企画して実行しているようですが、焼け石に水、わたしの生活圏内を見る限りでは何も変化はありません。ゴミが溢れる環境を変えていくには一人一人の意識改革が必要です。東チモールは、マスク着用・手洗い・社会的距離をとること、これら基本的な新型コロナウィルス感染予防対策を社会通念として定着させることに一定程度成功しました。これと同じように、ゴミにたいする意識改革を緊急課題として特別対策チームの設置と実践が必要ではないかと思います。
1月1日から10日までのデング熱の患者は288人でしたが、22日になると731人、そして27日になると1035人となり千人を超えてしまい、犠牲者も18人となってしまいました。
水害の季節の幕開けか
きょう1月29日(土)今週を振り返ると、降水量が少なかった一週間といえます。25日(火)の未明に断続的に降ったわりには、明け方の気温がそれほど低くならなかったのを憶えています。
しかし先週の20日(木)は、今年もまた洪水の季節がやって来るぞと思わせる被害が出るほどの雨が降りました。20日の明け方5時半ごろから、小降りあるいは中程度の降り方ながらも約5時間ほど雨が降りしきりました。今年に入ってわたしが観察した限りでは雨が2時間降り続けば長雨の部類に入りますが、このときは5時間も続いたのです。
その結果、ベコラを流れる川の水位と勢いが増し川の側面が崩れるという被害が出ました。川の側面に近くに建てられている家々の土台が崩れる寸前で崩れ方が止まりましたが、これから本格的に降水量が増してくるであろう大雨の季節に入ることをおもえば、これらの民家は危機にさらされていることは明らかです。何とかしなければなりません0。何もせず犠牲者が出たならば、それはもはや自然災害ではなく人災と政府が責められても仕方ありません。
首都の雨の特徴は、ゴミを市中に流し広め、町を汚くすることです。これも誰の目にも明らかなことで、デング熱対策の一環としても政府は水害の季節に備えなくてなりません。これについても特別対策チームの設置と実践が必要です。
写真右側のトラックが交通渋滞を起こしている。一見するとこのトラックの荷台に荷物を積んでいるように見える。しかし実はこれはゴミ集積車である。ゴミはゴミ袋に入っているわけではない。ましてや分別されているわけでもなし。ゴミは集積所に山積みにされているだけである。スコップやズタ袋を使って普通のトラックの荷台に集積所のゴミを回収する(積む)作業は重労働である。当然のこと、ゴミ集積所のゴミがきれいに回収されることはなく、ゴミ集積所とその周辺は汚いままで悪臭を放ちつづける。作業員は作業服を着ていない。手袋さえしていない作業員も多くみかける。ゴミ回収作業の抜本的な見直し、作業員の労働環境の全面的な改善、そしてもちろん焼却炉設置を含めて、住民の衛生環境に配慮したゴミ処分場の設置がデング熱対策に不可欠である。
2022年1月28日、ベコラにて。ⒸAoyama Morito.
オミクロン株の確認
今年に入ってから新型コロナウィルスの一日の新規感染者数は0~2人のあいだで推移を見せていました(3日は3人)。1月7日の11人が気になりましたが、25日まで0~2人のあいだの推移でした。しかし26日に8人、翌27日に15人と比較的多い人数が続きました。これは感染再拡大の予兆でしょうか、とても気になります。
在東チモールの日本大使館が発信している情報によると、東チモール保健省は1月25日、 12 月 30 日にディリの国際空港で採取した PCR 検査で陽性となった検体をオーストラリアはダーウィン の研究所でゲノム解析した結果、2件のオミクロン株が確認された、と発表したとのことです。
国際空港での水際作戦が100%完璧であるわけがないことをおもえば、もしかしたらオミクロン株がすでに東チモールに侵入していると考えた方が、現在の世界状況を鑑みるに、自然かもしれません。
現在猛威を振るっているデング熱、これから来るであろう本格的な大雨、これにもしオミクロン株による新型コロナウィルス感染再拡大が加わったとしたら、東チモールはまさに非常事態の臨戦態勢に入らなければなりません。
青山森人の東チモールだより 第450号(2022年01月29日)より
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.co
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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