増加してきた新規感染者
東チモールは年末年始を八回目の非常事態宣言(2020年12月4日~2021年1月2日)のもとで迎えました。月末には次なる30日間の非常事態宣言を準備するのがまるでこの国の定例行事となったようですが、2020年12月22日、政府の閣僚評議会は九回目となる非常事態宣言の発令をルオロ大統領に提案し、これを受けて大統領府は防衛・治安にかんする最高評議会と国家評議会を開き、大統領が九回目の非常事態宣言の発令を国会に求めることを決めました。
この決定を受けて国会は年も押し迫った2020年12月30日、九回目の非常事態宣言について審議・採決をしたところ、賛成46票、反対ゼロ、棄権5、欠席14で、九回目の非常事態宣言は採択されました。この度は野党CNRT(東チモール再建国民会議)からも一部賛成に回りました。かくして九回目となる非常事態宣言(1月3日~2月1日)が大統領によって発令されました。
今回の非常事態宣言は、感染拡大の世界的傾向と、感染力が強いといわれる変異した新型コロナウィルスの感染が深刻化しているイギリス(多数の東チモール人が出稼ぎをしている)の状況を反映して、そして12月に国内の新規感染者が多く登録された事態をうけて、これまで以上にマスク・手洗い・社会的距離といった基本対策の徹底と義務化を図り、10人以上の集まりの禁止や不法密入国にたいする一層の取り締まり強化など、緊迫感が表れる内容となっています。
さらに 1月4日、教育スポーツ省のアルミンド=マイア大臣は、感染防止対策として二週間にわたる全国一斉の学校休業を発表しました。東チモールはいま新年度を迎える季節です。新入生の登録や新年度に向けた説明会も18日まで停止されます。また、カトリック教会はミサをしばらく行わないことにしました。
しかしながらニュース映像を見れば政府による緊迫感は庶民と共有されていないような印象をうけます。例えばRTTL(東チモール ラジオTV局)の1月4日のニュースは、リキサ(リキサ地方)の住民は社会的距離・マスク・手洗いなどの規則をほとんど守っていないと町にたむろする住民たちの様子を報じました。また『テンポチモール』(2021年1月10日)の記事は社会的距離をとらずマスクをつけない人びとで賑わうマウビシ(アイナロ地方)の市場の写真を載せて報じています。『インデペンデンテ』(2021年1月11日、電子版)の記事は、前回と前々回の非常事態宣言下の状況を振り返ると、今回の非常事態宣言は規則が厳格化されているが政府は掛け声だけで現実にうまく導入できないだろうという市民団体の嘆きを紹介しています。
東チモールはいまのことろ水際作戦が成功して市中感染が発生していませんが、もしもひとたび市中感染が発生したらひとたまりもなく感染が拡大してしまうのではないかと危惧されます。これまで収めてきた水際作戦の成果を何としてでもこのまま持続してほしいと願う次第です。
東チモールの新型コロナウィルス感染にかんする最近の数字は以下の通り(保健省の資料より)。
—日付——①——②—=-③—–④—-⑤—⑥–
1月6日–17293—544—49—16700—12—41
1月7日–17502—393—49—17060—-9—44
1月8日–17532—225—49—17258—-9—44
1月9日–17616—251—49—17316—-8—45
1月10日–17616–175—49—17392—8—45
1月11日–17668–225—49—17394—8—45
1月12日–17789–284—49—17456—5—48
1月13日–17834–214—51—17569—6—49
1月14日–17854–202—51—17601—6—49
1月15日–17932–280—51—17601—6—49
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①検査を受けた人数、②検査結果待ちの人数、③陽性者数、
④陰性者数、⑤治療中の人数、⑥回復者数(4人の感染可能性者を含む)。
(②と⑤以外は2020年3月6日からの累計数字)
2021年度国家予算、国会に提議
2020年10月2日、2021年度国家一般予算案が可決され、同年1月以来、新型コロナウィルスと併せて経済活動の障害となっていた「12分算方式」(予算が決まらない場合、国家運営費の捻出の仕方を定めた規定。前年度予算額の12分の1を毎月の予算としてあてる)とようやくおさらばできることになりました。そして直ちに11月 30日、政府は総額18億9500万ドルの2021年度国家一般予算案を国会に提出し審議が始まりました。予算内訳の概略は以下のとおり。
◆2億3926万ドル……給与・手当
◆4億2149万ドル……物資・サービス
◆6億6991万ドル……公共譲渡金
◆ 6114万ドル……小資本金
◆5億 320万ドル……開発資金
重い病にかかった東チモール経済
2020年12日2日、タウル=マタン=ルアク首相は国会審議の場において、新型コロナウィルス対策としての生活支援策が国会で可決されたのに加えて経済を回復させるために、2021年度国家一般予算案を国会議員は協力して支援すべきだと述べました。予算案に背を向けるCNRTを意識した発言だと思われます。
さらにタウル=マタン=ルアク首相は、東チモール経済は人間であれば病院に連れて行かなくてはならないくらいの重い病気にかかっており、そこから回復したとしてもしばらく良い物を食べて静養したあとでようやく歩くことができるようになるのだと持論を展開し、重症に陥っている経済を回復させるための予算案であることを国会議員に訴えました。そして予算案に協力できない議員がいるなら、その議員たちは東チモール経済を葬り去りたい者たちなのだとCNRTを牽制したのです(『テンポチモール』、2020年12月3日)。
2021年度国家予算、可決
2020年12日2日、予算案の一般審議にたいする採決がされました。与野党7政党から44の賛成票が投じられ可決されました。独りCNRT(21議席)は前回2020年度予算案のときと同様に、現在の第八次立憲政府の合憲性を問題視し、退席して投票に参加しませんでした。
そして予算項目ごとの審議を経て、12月12日、最終的な採決がおこなわれました。結果、賛成44、反対0、棄権0、2021年度国家一般予算案は賛成多数で可決、国会を通過しました。相変わらずCNRTの議員21名は投票に欠席しました。
現政府の実際性を認めないCNRT
CNRTの国会担当副代表・パトロシノ=フェルナンデス議員は記者会見で、憲法に依拠すればタウル=マタン=ルアク首相が大統領に辞表を提出した時点(2020年2月25日に提出、同年4月8日に撤回)で第八次立憲政府はすでに存在しないことになり、2020年度および2021年度の国家予算案を提出できる余地はなく、したがってCNRTは政府の実際性を認めることはできない、と語りました(『テンポチモール』、2020年12月3日)。
一般審議された予算案が可決された後もCNRTは項目ごとの審議を放棄しつづけました。上記のフェルナンデス議員は12月5日、CNRTが予算審議に参加しないのはこの予算案は違憲だからだ、現政府には実際性はなく国家予算案を国会に提出できる法的根拠はない、と従来の主張を強調しました(『テンポチモール』、2020年12月7日)。
注目される予算執行
何はともあれ2020年と2021年度の国家一般予算案が連続して可決されたことによって、東チモールは「12分算方式」から完全に抜け出て国家予算という土台を取り戻しました。これで経済回復に本格的に取り組むことができるようになりましたが、国会内の分断状況はまだまだ続きそうです。
新型コロナウィルスと「政治的袋小路」という終わりが見えない災難のなか、タウル=マタン=ルアク首相率いる政府が18億9500万ドルの予算を効果的に執行できるかどうかが今後の注目点となります。
青山森人の東チモールだより 第430号(2021年01月16日)より
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.co
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion10473:2021016〕