やや上昇気味の新型コロナの感染状況
去年2021年の4月は未曾有の水害に見舞われた月でしたが、今年の4月は大雨が降らずに済みました。この4月は、外を歩いているとき命の危険を感じるような猛暑日が多々あり、そんな日は陽射しがあまりにも強烈でただただ閉口するのみでした。しかし4月から5月へと月がかわると湿気が薄れてきて、陽射しが強くてもさほど苦を感じなくなりました。洗濯物の乾き具合からして明らかに季節は乾季へと移りつつあることがわかります。
4月末から現在までの新型コロナウィルスの一日の新規感染者数を見てみます。
【2022年4月】
29日=2, 30日=2.
【2022年5月】
1日=4, 2日=3, 3日=1, 4日=4, 5日=4,
6日=1, 7日=1, 8日=0.
依然として一桁台前半の低い水準を保っています。4月26日から感染者ゼロの日がありませんでしたが、5月8日、久し振りにゼロを記録しました。しかし感染者ゼロの日が15日間もあった4月全般(前号の東チモールだより 参照)に比べれば微増傾向にある印象を受けます。
これは大統領選挙の影響が出たのかもしないし、また一般的な油断かもしれません。世界的に各国の国内規制や入国規制が緩んでいる傾向のなか、わたしの見るところ、首都デリ(Dili、ディリ)を歩く旅行者風の外国人の姿が少し増えているようです。東チモールはせっかく感染を抑え、死者も3月17日から出していないのですから、多数の来訪者が来るであろう「5月20日」の独立(独立回復)20周年記念日の前たると後たるに、気を引き締め、油断せず、感染者数が少ないこの状態を維持したいものです。
デング熱、依然として高い感染
新型コロナウィルスの感染にかんして東チモールは抑え込みに成功した国として胸を張って称賛されてもよいとわたしは思います。一度は辞表を提出したタウル=マタン=ルアク首相ですが、新型コロナウィルスの世界的感染に東チモールも巻き込まれる状況をうけて思い直して辞表を撤回し、シャナナ=グズマン率いるCNRT(東チモール再建国民会議)をマリ=アルカテリ率いるフレテリン(東チモール独立革命戦線)と入れ替えて第八次立憲政府を再出発させ、新型コロナウィルス対策に専念、そして成功したといえます。
しかしデング熱にかんしてはそうはいえません。デング熱の患者数は下降傾向にありますが、去年と比較すれば依然として突然変異的な多数の患者数が出ており、1月から5月初旬までの間に累計53人が死亡するという極めて深刻な状況にあります。
2021年と2022年(1~4月)のデング熱患者数の比較。
東チモール保健省のFacebookから。
過去最大の国家予算
時間を少し巻き戻します。2022年度の東チモール国家予算案は2021年12月16日に、賛成44、反対21、で可決されました。反対票の21という数字は野党CNRTの議員数と一致します。ルオロ大統領は2022年1月3日、仕事初めとしてこの予算案を発布しました。
予算総額は約19億5000万ドルと当初伝えられましたが、国会通過から発布に至るまでに約1億5000万ドルが加算されたようで、2022年度の予算総額は結局、約21億ドルとなっています。
さて先月4月、大統領選挙が終わると、政府は間髪を入れず約11億ドルを追加予算とする補正予算を閣議決定し、5月1日、この補正予算を緊急とする位置付けにかんして国会で可決されました。そして5月9日から審議入りすることになりました。
もしこの補正予算が国会を通過し大統領によって発布されると、本年度の予算総額は過去最大の約32億ドル(約21億ドル+約11億ドル)となります。2021年度の予算総額は18億9500万ドルだったので2022年度の21億ドルという額面自体は、新型コロナウィルスによる災禍などを考慮すれは理不尽な額には思えません。しかしこれに11億ドルが追加されるとなると突出した額になってしまいます。11億ドルとは1年間の国家予算の半分に相当する額です。これほどの高額な補正予算について、野党CNRTは小さい責任の大きな予算と批判し、また市民団体は補正予算の緊急性という位置付けについて疑問を呈しています。
補正予算の内容を見れば、200ドルの生活支援金の配給、格闘技・儀式集団の本部建設費用、優秀な学生への奨学金費用、海外労働者庁の創設費用…などなど多岐にわたり、見方によっては緊急性のあるものとそうでないものが混ぜこぜになっています。しかしこれらの項目は〝端役〟あるいは〝エキストラ〟でしかありません。主役は解放闘争の元戦士(ベテラーノ)です。なにせ11億ドルの補正予算額のうちなんと10億ドルがベテラーノのための基金にあてがわれるのですから。
新型コロナウィルスによって経済困難に陥り、ウクライナ戦争の影響による燃料などの物価高騰でさらに生活が苦しくなっている一般庶民を救済するために、高額な補正予算を緊急発動するということならば納得できますが、「ベテラーノ基金」のための予算が緊急とは一体どういうことでしょうか。
路上で国旗が売られ、町のあちこちで国旗がはためている。
「5月20日」のムードが盛り上がってきた。
政府庁舎近くの路上にて。
2022年5月2日、ⒸAoyama Morito
〝緊急性〟の意味
もし補正予算が可決・発布されると10億ドルの「ベテラーノ基金」が設置されます。この基金は東チモールの国家財源となっている「石油基金」のようにアメリカの銀行で管理・運営されるようです。「ベテラーノ基金」は、ベテラーノたちへの生活支援などの諸問題解決のために国庫から財源が一方的に流れ出るという常態に歯止めをかける装置として以前から構想されていました。「ベテラーノ基金」の設置・運営によって国庫に過度な負担をかけるベテラーノ問題に終止符を打とうとする試みは、タウル=マタン=ルアク首相が是非とも実行したかった政策です。
タウル=マタン=ルアク首相にしてみれば、第八次立憲政府(三党連立政権)の結束が強い今、国会解散をするという合意文書をシャナナ=グズマンCNRT党首と交わしたラモス=オルタが大統領に就任する5月20日前に、「ベテラーノ基金」のための補正予算を可決そしてルオロ大統領による発布に漕ぎ着けたいという強い想いがあるのでしょう。その意味でこの補正予算に〝緊急性〟があるのです。
しかし、せっかくタウル=マタン=ルアク首相は三党連立政権の結束を強化してシャナナによる新連立勢力の形成を阻止しているのに、この補正予算を緊急と称して成立させることは、大統領就任後のラモス=オルタに、緊急性がないのにこんな大型の補正予算を成立させた国会は正常な機能を有していない云々かんぬんといって国会を解散させる理由を与えてしまうのではないでしょか。
青山森人の東チモールだより 第460号(2022年05月10日)より
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion12022:220511〕