控訴裁判所、いきなり無罪放免を告げる
連立与党・民主党の主要幹部・アントニオ=ダ=コンセイサン、通称〝カロハン〟(以下、カロハン)が去年12月12日、ラモス=オルタ大統領によってインドネシア駐在の東チモール大使に任命されました。しかし、このときカロハンは通商産業大臣であったときに法律で禁じられた経済活動をしたとして起訴され判決を待つ身であったのです。その判決が今年の1月8日、第一審で言い渡されたのは5年の実刑でした。この判決にたいしカロハン被告側は2月1日控訴しましたが、ラモス=オルタ大統領は2月13日、在インドネシア・東チモール大使からカロハンを解任しました。するとカロハンは3月4日、国会議員として復帰しました。カロハンは、「わたしは国会議員としての義務を果たすために戻ってきた。恩赦を求めに戻ったのではない」と述べました。これは、カロハンが控訴裁判所で汚職の疑惑を晴らす姿勢を強調した発言であったように思えました(東チモールだより 第509・512号)。
ところが控訴裁判所は、審理がされることなく、4月11日、カロハンは無罪放免!と言い渡したのです。証拠不十分という理由です。突然、いきなり、唐突に、カロハンは無罪放免となりました。第一審での審議はいったい何だったのでしょう。やはり……と疑ってみたくなります……事実上の恩赦が待っていたのかなと。
控訴裁判所のこの決定について、「うれしい。控訴裁判所の決断によくやったといいたい、事実をしっかり見たからだ」とラモス=オルタ大統領は喜びました。そしてこうも述べています。「検察側の告訴内容は弱く、第一審もよく分析せず判決を下している」。あからさまな司法介入発言であり、この背後にシャナナ=グズマン首相の存在が強く感じとれます。
なお、カロハンは依然として国会議員でありつづけており、新しい在インドネシアの東チモール大使はまだ決まっていません。
治安を守る立場だった人間が武器を不法所持
「ディリ第一審裁判所」にて5月8日、昨年の1月にロンギニョス=モンテイロ(元検事総長、元内務大臣、元PNTL[東チモール国家警察]長官、ラモス=オルタ大統領の元顧問)が自宅で武器を不法所持していたことにかんする裁判が始まりました。
国の治安を守る立場にあった者が不法に武器を所持していたとは笑止千万!法に基づいて厳しく罰せられるべしという世論に反して、去年の9月、何の冗談か、シャナナ首相はロンギニョス=モンテイロをSNI(国家諜報機関)の長官に任命しました(東チモールだより第481・496号)。シャナナ首相の味方やシャナナ首相に寵愛される者が超法規的に庇護されるとなると、この政権は強権的な色彩が強くなるのではないかと危惧されます(ロンギニョス=モンテイロによる自宅での武器の不法所持といっても、有罪かどうかはまだ確定していないので〝不法〟所持と表記しなければならないかもしれない)。去年の9月、ロンギニョス=モンテイロが国家諜報機関長官に就任したことで、この件は沈静化し、自然消滅してしまいそうな雰囲気をわたしは感じました。
しかしながらその去年9月、検察庁はロンギニョス=モンテイロの武器〝不法〟所持についてお蔵入りになったわけではないといい、起訴の可能性を含ませる発言をしていました。
= = = =
カイコリ地区に新たに建った「ディリ第一審裁判所」。
2024年5月28日、ⒸAoyama Morito.
最近、「ディリ地方裁判所」という呼び名から
「ディリ第一審裁判所」という呼び方に変わった。
= = = =
先述したとおりカロハンが5年の禁錮刑を第一審で下されたのにこの4月に控訴裁判所で無罪放免を唐突に言い渡された態勢からすれば、ロンギニョス=モンテイロの武器〝不法〟所持についても証拠不十分で起訴されずにすむであろうとわたしは木で鼻をくくるように期待していませんでした。ところが起訴されていたのです。そして5月8日に裁判が始まったとは正直いって驚きました。つまり東チモールの国家諜報機関のロンギニョス=モンテイロ長官はいま容疑者となっているのです。
もっとも、〝不法〟所持されていた武器がたっぷりと押収されたからには起訴は避けられないので裁判はする、しかし何らかの理由で無罪と判決が出る、というレールが敷かれているのだとしたら落胆の極みですが。
= = = =
「裁判、武器を所持していたLM被告の意見を聴く」
と報じる『東チモールの声』(2024年5月16日)。
この記事で「国家諜報機関の長官であるLM被告」と書いている。
LMと匿名表記する意味がわからない。
LMとはロンギニョス=モンテイロであることを
誰もがみんな知っている。
実名・写真付きで報じる報道もある。
= = = =
5月8日に続き5月15日に行われた二回目の裁判でロンギニョス=モンテイロ容疑者は、武器の所持は認識していた、武器の一部は自らがPLTL長官を務めた時に所持していたものであった、警察と軍の合同部隊が自宅を家宅捜査したことは全般的には合法ではあるが非合法な部分もあった、権限のない者までも家宅捜査に参加したと意見陳述をした、と報じられています(『タトリ』、2024年5月15日)。たしかに警察と軍の混合治安部隊による初動捜査は裁判所からの令状なしの行動でした。令状なしの初動捜査により押収された物的証拠は裁判での証拠能力を失ってしまうのか?この裁判の注目点だと思います。次回の裁判は6月5日に行われる予定です。
青山森人の東チモールだより 第516号(2024年5月31日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion13734:240601〕