青山森人の東チモールだより 第354号(2017年8月19日)
連立政権か包括的政権か、はたまた談合政権か
お二人さん、選挙後初のツーショット
8月18日(金)、新トリズモホテルにCNRT(東チモール再建国民会議)のャナナ=グズマン党主がフレテリン(東チモール独立革命戦線)のマリ=アルカテリ書記長と話し合うために姿を現し、選挙後初めて、二大政党の指導者二人のツーショットが公の場でようやくお披露目となりました。
選挙後初の二人の顔合わせとなったかもしれない14日での大統領府においては姿を見せなかったシャナナCNRT党首でしたが、18日は記者団のまえにアルカテリ書記長とともに並び立ち、ちゃんと話しをしました。ひきこもりから出てきたシャナナCNRT党首に当然マイクが集中して向けられますが、アルカテリ書記長が発言しているとき、“いまこっちの人が話しているのだから、わたしに声をかけるのはやめるように…”と謂わんとするような仕草を大きくするいかにもシャナナらしい姿が夜のTVニュースで流れました。シャナナCNRT党首は“復活”したかもしれません。
そのシャナナCNRT党首の発言内容とは、新政権に協力するというものでした。そしてマリ=アルカテリ書記長と仲の良いところを記者団にみせていました。具体的にシャナナCNRT党首が連立政権にどのように関わるのかは正式な発表を待たなくてはなりませんが、フレテリンはオーストラリアとの領海画定交渉にこれまでどおりシャナナCNRT党首が担当することを期待しています。
みんな仲良く
選挙後、連立政権づくりの交渉がかくのごとく長引き、各政党の一貫性が薄れていくなかで、連立政権は包括的政権という用語で呼ばれるようになってきました。談合政権と呼ぶこともできます。
数の論理からすれば連立の組み方によっては、第一党フレテリンが再び連立政権の枠外からはみ出されることもあり得るわけですから、フレテリンが連立に向けた多数派工作をするうえで他政党に気を遣い慎重になるのは当然です。とくにフレテリンが気を遣った相手は、いわずもがなシャナナCNRT党首です。シャナナ党首には選挙前から、選挙運動中も、そして選挙後も、ず~っと気を配り続けました。フレテリンが第一党になったといっても、たった1議席差のこと、CNRTの出方によってはCNRT主導の政権ができることは十分ありえるわけですから、驕りは禁物!過去の苦い経験からフレテリンがとるべき第一の行動とは他政党への気配りです。
一方、議席一ケタ台の少数政党は、議席20議席台の二大政党の顔色を伺うことになります。民主党とKHUNTO(チモール国民統一強化)は早々に声をかけられれば連立に応じる姿勢を示しました。先週の11日、新トゥリズモホテルでのフレテリンとの会合後、民主党は連立参加の可能性を否定しないままで野党でいくと述べたのは、フレテリンから閣僚の座をもらえなかったからといわれています。もともと民主党は反フレテリン色の強い政党でしたので、その辺の経緯をフレテリンは忘れていないことをちょっと意地悪して示したのでしょう。しかし民主党は、みんなが仲良くするなら仲間はずれにしないで…といわんばかりに、18日、連立政権に協力する姿勢を示しました。状況によってフレテリンは民主党も招き入れるかもしれません。民主党とKHUNTOはこれでよいでしょう。善くも悪くも姿勢は一貫しているのですから。
PLPは大丈夫か
問題はPLP(大衆解放党)です。タウル=マタン=ルアク前大統領率いるPLPは、包括的政権または談合政権に巻き込まれないことが最も期待される政党だったはずですが、12日(土)、方向転換をみせてしまいました。野党とは野党だ、PLPが連立政権に参加するというのは憶測だ、と強く野党の立場を強調する一方で、連立についての話し合いに応じる用意がある、話し合うだけなら失うものはないと(失うものは大きいと思うが)、週明けの14日からフレテリンと連立協議を始めました。言葉を弄する政治ゲームにPLPも加わったことで、全政党が何らかの形で参加する包括的な、あるいは談合的な連立政権が誕生する可能性が出てきました。一貫性が崩れたPLPを見て、18日、シャナナCNRT党首の登場となったわけです。
「大統領が野党だ」と、去年(2016年)2月に国会でシャナナ計画戦略投資相とマリ=アルカテリZEESM(オイクシの経済特区建設事業)最高責任者が組んだ野党不在の国会に“喝”をいれたタウル=マタン=ルアク大統領(当時)がPLPを創設して国会に乗り込むのはすばらしいことですが、こうしてあっさりと連立に巻き込まれるとなると、タウル党首の原理原則と一貫性に疑問が生まれます。タウル党首はZEESMに批判し、マリ=アルカテリ書記長をZEESM最高責任者からはずしたいと選挙運動中に訴えてきました。それなのにZEESM問題を脇に置いてマリ=アルカテリ書記長と連立政権について協議しているとしたら、タウル党首は言葉の重みを失ってしまうことになり、PLPの先行きに不安を覚えます。
いまは連立政権を早く樹立すべき、指導者たちは結束して国の安定と発展に寄与してほしいという雰囲気のなかで、各政党の掲げる主義主張の一貫性が問われることのない政治ゲームが花盛りという状況です。
「マリとタウル=マタン=ルアク、40分の秘密会談、政権内の“権力配分”を話し合ったか」
『インデペンデンテ』(2017年8月17日)より。
「フレテリンとPLPの幹部たちが話し合うまえに、フレテリンのマリ=アルカテリ書記長とタウル=マタン=ルアクPLP党首が40分間二人だけの密室会談をした。これはさまざまな憶測を生むが、“権力配分”を話し合ったようだ。なぜならこの後に両党は30分間の話し合いをし、連立について前向きの姿勢を示したからだ」。
ZEESM事業のあり方を話し合わずに「権力配分」を話し合ったとしたら、談合といわざるを得ない。ZEESM最高責任者であるマリ=アルカテリ氏は、ZEESMを批判するタウルPLP党首を取り込むことができて喜んでいるだろう。
「フレテリンとPLP、首相の座について話し合う予定」
『チモールポスト』(2017年8月17日)より。
「フレテリンのマリ=アルカテリ党首(*)とPLPのタウル=マタン=ルアク党首が、新政権の枠組みづくりをするために連立することで合意。しかし首相の座については調印のまえに話し合う予定」。これでもまだタウル=マタン=ルアクPLP党首は野党の立場に変わりがないと言い張るのだろうか。
(*)新聞のこの部分だけ「党首」とあり、その他の部分には「書記長」とある。新聞としてはたぶん「書記長」と書くつもりが間違ったもの思われる。ともかくフレテリンの親分はマリ=アルカテリ氏である。
新政権は「石油基金」からの拠出を抑えられるか
このような状況を嘆かわしいと捉える者(わたしのように)もいれば、一方で、解放闘争の指導者たちが与野党に分かれるのは政情不安につながるので、指導者たちが団結して国政に参与することを歓迎する考え方もあります。解放闘争の指導者たちの一致団結ぶりを見ることが大衆心理にとって重要であり続けているのであれば、談合的な連立政権にも一理あるといえます。
しかし、解放闘争の指導者たちが政情安定を担保にして野党不在の国会を正当化し政権運営をしていけば、大規模開発を口実とした「石油基金」からの過剰な引き出しに誰が異議を唱えるのでしょうか。過去10年間のような引き出し方を続ければ10年後には「石油基金」に底がつくといわれています。そうなれば東チモール経済は破綻してしまいます。新政権がこの国の舵取りをする今後5年間は、東チモールを破産させないための極めて重要な5年間となります。国が「石油基金」依存体質からの脱却に失敗すれば、その次の5年間は「石油基金」の底が目に映る5年間となり、国は経済不安に怯え、本物の政情不安が起こってしまうことになるかもしれません。
近日中に発足する第7次立憲政府を談合的な連立政権と呼ぶべきか、それとも包括的な政権と呼ぶべきか、呼び方はともかく、経済破綻の道はみんな足並みをそろえて仲良く回避してほしいものです。
~次号へ続く~
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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