青山森人の東チモールだより…選挙戦の前でも政党の旗がはためく

著者: 青山森人 あおやまもりと : 東チモール在住
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選挙戦に参戦する政党・政治勢力が出揃う

いよいよ4月19日から、この国の65人の国会議員を選び国政を決める選挙運動が始まります。選挙運動は5月18日に終了し、5月19日と20日の独立記念日(独立回復の日)の二日間、頭を冷やして、5月21日が投票日となります。

3月29日、控訴裁判所は選挙戦に参加する17の政党または政治勢力の登録番号をくじ引きで決めたところ、以下のようになりました。

  1. PDN (国民開発党)
  2. PLPA (Partidu Liberta Povu Aileba=棒手売解放党、肩に乗せる天秤棒[テトゥン語でアイレバai-lebaまたはアイレボai-leboという]に商品を下げて売り歩く行商人povu ai-lebaを棒手売[ぼてふり]という古い表現を使って訳してみた)
  3. PLP (大衆解放党)
  4. PD (民主党)
  5. KHUNTO (クフント、チモール人国民団結美しき豊穣、これまで東チモールだよりでは[チモール国民統一強化]と意訳してきたが、これからはこう直訳する)
  6. PVT (チモール緑の党)
  7. UDT (チモール民主同盟)
  8. PUDD (民主開発統一党)
  9. PR (共和党)
  10. UNDERTIM (チモール抵抗民主国民統一)
  11. FRETILIN (フレテリン、東チモール独立革命戦線)
  12. CNRT (東チモール再建国民会議)
  13. CASDT (チモール民主社会行動センター)
  14. MPLM (マウベレ人民解放運動)
  15. PST (チモール社会党)
  16. PDC (キリスト民主党)
  17. APMT (チモール君主大衆連合)

 

少数政党が存在感を示せる政治

全65名の国会議員の現内訳は、タウル=マタン=ルアク首相が率いる与党PLPが8名、野党の民主党と与党KHUNTOがそれぞれ5名、PUDDとUDTが野党の立場でそれぞれ1名、最大与党のフレテリンが23名、最大野党のCNRTが21名、そして党内問題と手続き上の問題で今回選挙に参加できない野党の改革戦線が1名、となっています。数多くある政党のうち国会議員を有する政党は8政党のみ。なお、東チモールの選挙制度は完全比例代表制です。

国会議員を有する8政党のなかで与野党それぞれの最大政党となっているのがFRETILIN(フレテリン)とCNRTです。これら二大政党の勝ち敗けが東チモール政局の基軸となるという政治構図になっています。この度の選挙でもこれら二大政党のどちらが票の最大獲得政党になるかが最大の焦点になることは言うまでもありません。しかしフレテリンにしてもCNRTにしても単独過半数(全65議席の半分以上)の議席を獲得することは無理な話で、それぞれ20プラスαの議席獲得となることでしょう。となるとフレテリンにしてもCNRTにしても他政党と連立を組まなくてはなりません。

したがってたとえ少数政党であっても1議席でも獲得すれば、二大陣営のうちどちら側につくかその選択によってフレテリンが与党になるのかCNRTが与党になるのか、この国の政治の方向性を決定づける重要な存在になりえます。今日の敵は明日の同志とばかりに、くっつく相手をとっかえひっかえして、存在感を示すことができるのです。したがって弱小政党でも弱小連合政治勢力でも議席獲得に懸命になるのは当然のことです。

憲法問題が再発する可能性あり

フレテリンまたはCNRTのどちらかが票の最大獲得政党になることは間違いありません。しかしながら、票の最大獲得政党になってもその連立陣営が議席の過半数に達しない場合、憲法解釈の問題が発生します。議席の過半数を超えた勢力が政権を担う、いやいや票の最大獲得政党が政権を樹立できる、どちらの解釈も可能であることから憲法解釈に決着がついていない以上、今回もまた2017年のように選挙後に混沌とした政局に陥る可能性が十分考えられます。

憲法解釈の問題でもめないようにCNRTのシャナナ=グズマン党首は布石を打っておきました。CNRTに協力するという契約を結んだジョゼ=ラモス=オルタを大統領に備え付けたのです。政権発足には大統領の承認が必要です。大統領が自陣の味方であれば選挙後の動向で有利になれます。シャナナにしてみれば自陣の連立勢力が過半数を占めれば大統領の承認を得て権力に就くことができます。必ずしも票の最大獲得政党となる必要はありません。フレテリンが票の最大獲得政党となってもCNRTが国会の過半数を占める連立を組んで政権に就いたことが過去にありました(この時、承認した大統領はラモス=オルタだった)。当時フレテリンはこのCNRT連立政権を違憲だとして認めず、「事実上の政権」、シャナナを「事実上の首相」と呼び続けました。シャナナとしては今回の選挙で圧勝し、つまり票の最大獲得政党となり、かつ自陣の連立勢力が過半数を占め、選挙後の混乱が起きないようにスッキリと政権を奪還し、大統領を味方にして安定した政権運営をしたいところでしょう。

スッキリさせたいのはフレテリン側も同じです。現・与党勢力であるPLP・KHUNTOそしてフレテリンは4月15日、この連立勢力([プラットフォーム]連合と称している)を継続することで合意し調印をしました。現在この三党は合計して36議席をもっていますが、今回の選挙でまた65議席の過半数以上を獲得すれば次期政権(第九次立憲政府)も担うことになります。

もしもCNRTの連立勢力が過半数に達せずともCNRTが票の獲得最大政党になった場合……嫌な予感がします。2017年にフレテリンとル=オロ大統領がそうしたように、CNRTによる少数連立政権の樹立をラモス=オルタ大統領が承認し、そうなると当然、多数派の野党勢力によって国会運営がままならずということになり、2018年のように選挙のやり直しという事態になる可能性がないわけではありません。

政権に就くのはどちらの陣営か

最近、民主党が現与党三党による「プラットフォーム」を支持する姿勢を示しました。もし選挙後も民主党が本当にそうするならば、数字の上では「プラットフォーム」が優位に立ったように見えます。これでフレテリンのマリ=アルカテリ書記長は、フレテリンが最大政党になっても連立勢力が過半数に達しないという2017年の悪夢に再びうなされることはなくなったようです。

しかしどうでしょうか。PLP党首のタウル=マタン=ルアク首相は、連立仲間であるCNRTから見捨てられて一度は辞表を提出したものの、新型コロナウイルスの災禍に果敢に挑戦することで息を吹き返し、フレテリンを新たな仲間として、HKUNTOとの関係も強化しつつ、善くも悪くも、5年間の任期をまっとうしようとしています。5年とは長い時間です。有権者は変化を求めるのではないでしょうか。

選挙戦を前にして町角のあちらこちらで政党の旗がはためいています。最初は八割方がCNRTの旗で、その他は主にフレテリンやPLPの旗でしたが、選挙戦を一週間後に控える時期になると俄然フレテリンの旗が目立ち出しました。そして他の政党または政治勢力の旗も割り込んできました。さあ、東チモールは選挙態勢に突入です。

 

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まだ3月だというのにCNRTの旗が幅をきかせる。

ビラベルデにて。

写真、左奥の建物は内務省。

2023年3月30日、ⒸAoyama Morito.

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4月になると他の政党の旗も負けじとはためく。

ビラベルデの大聖堂前の交差点にて。

写真中央、高く掲げられているのは国旗。

2023年4月4日、ⒸAoyama Morito.

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幹線道路わきに設置された皆既日食の看板。

2023年4月16日、ⒸAoyama Morito.

「自然現象を楽しみながら注意して観ましょう。TVで皆既日食を観て、科学の知識を家族に教えましょう」とラモス=オルタ大統領が看板で呼びかける。選挙戦開始の翌日、4月20日、皆既日食という一大天文ショーが展開される。なんとなく観光客が増えてきたような気がする。太陽のコロナを観測できる絶好の機会を逃したくない天文学者やアマチュア天文家も多く来るに違いない。

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青山森人の東チモールだより  486号(2023417日)より

e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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