感染の急拡大
先月3月は感染拡大が急増した月でした。前号の「東チモールだより」と一部重なりますが、その3月の日付ごとに登録された新規感染者数を以下に示します。カッコ内の数字は記録が始まった去年3月からの累計数です。
【2021年3月】
1日~4日=0(113)
5日=6(119), 6日=0(119), 7日=3(122), 8日=7(129), 9日=13(142),
10日=3(145),11日=14(159), 12日=11(170), 13日=8(178),
14日=18(196), 15日=7(203), 16日=5(208), 17日=8(216),
18日=13(229), 19日=23(252),20日=19(271), 21日=55(326),
22日=9(335) ,23日=16(351), 24日=21(372),25日=22(394),
26日=58(452), 27日=28(480), 28日=11(491), 29日=21(512),
30日=51(563), 31日=41(604).
去年3月から今年3月6日まで、1年間にわたる累計感染者数は119人でした。ところが3月7日から新規感染者が毎日続出し、東チモールが新型コロナウィルスの新規陽性反応者の記録をとり始めてからちょうど一年目にあたる3月21日、55人という突出した大きな数字を記録しました。さらに26日にはこれを上回る過去最多の58人が登録され、30日も51人と、新規感染者が50人を超える日が3日もありました。3月1日には116人だった累計感染者数は31日になると604人となり、3月のひと月間だけで1年間の累計数をおよそ5倍に跳ね上げてしまいました。事態はまさに感染拡大の状況となりました。
<東南アジアのチモール島>
首都圏の都市封鎖、延長
前号の「東チモールだより」でお伝えした通り、政府は不法入国者による市中感染の発生の可能性を考慮し、2月15日、ボボナロ地方とコバリマ地方をロックダウンし、この二つの地方と飛び地・RAEOA(オイクシ/アンベノ特別行政地域)を加えた西チモールに接する三地方で集団検診を始めました。そして2月23日、コバリマ地方・ファトゥメアンの村落で4人の市中感染者が確認、さらに2月24日、同地方で症状が無い2人の市中感染者が確認されました。つまりこれは東チモールもまた感染無症状者が往来している状況になっている可能性を示しているわけです。そこで政府は、首都圏であるディリ(Dili、デリ)地方での都市封鎖(ロックダウン、セルカサニタリア[ポルトガル語/テトゥン語])を3月9日から15日までの7日間の予定で実施して人の流れを制御することを決めました。
しかし感染の増加傾向が収まらない状況を受けて、政府は3月15日、首都圏の都市封鎖を4月2日まで延長することにし、さらに4月1日、14日間の再延長を決めました。
地方の感染状況
政府は首都圏の都市封鎖を決定した3月15日にバウカウ(Baucau)・ビケケ(Viqueque)地方にたいしても封鎖措置の適用を決めました。これら二つの地方はインドネシアとの国境から遠く離れた東部に位置しますが、3月14日、バウカウ地方で2件の集団感染に由来する4人の感染者が確認されるなど、もはや感染防止対策を重点化するのは国境沿いの地方とは限らない状況となったようです。
なおここで「地方」という呼称について確認しておきます。2016年ごろからそれまでの「地方」(distrito/distritu=ポルトガル語/テトゥン語)という呼称が「地方自治体」(município/ munisípiu)と呼ばれるようになるなど、行政区の呼称が一部変わりました(東チモールだより 第337号 参照)。したがって例えば「バウカウ地方」は本来「バウカウ地方自治体」と呼ばなくてはなりませんが、日本語に馴染む表現としてひとまず「地方」と書いておくことにします。
以下、地方における感染状況を見てみます。
<東チモールの地図>
【インドネシアと国境を接する三つの地方】
◆RAEOA(オイクシ/アンベノ特別行政地域)
初めて新規感染者が登録されたのは2020年12月24日の3人、その後は2021年1月29日に1人、そして3月17日に1人、これ以来感染者が出ておらず、累計は5人です。海とインドネシア領土に囲まれている飛び地は感染拡大は抑えられているようです。
◆ボボナロ地方
初めて新規感染者が登録されたのは今年に入って1月18日の2人を皮切りに、その後は1月31日と2月11日・13日・14日そして3月30日にそれぞれ1人ずつ感染者が登録され、現在(4月6日)のところ累計は7人です。こちらも感染拡大は抑えらているようです。
【コバリマ地方】
コバリマ地方は上記RAEOAとボボナロの二地方と比べて多数の感染者が出ました。初めて新規感染者が登録された2021年2月4日から、日付と新規感染者数(カッコ内は累計数)を以下に示します。
・2月4日=1(1), 23日=4(5), 24日=2(7), 25日=1(8), 27日=1(9),
28日=2(11),
・3月5日=5(16), 7日=1(17), 11日=2(19), 25日=1(20),
・4月3日=1(21).
政府は2月15日、ボボナロ地方とコバリマ地方を3月3日までの予定で封鎖することを決定し、16日から封鎖が始まりました。ボボナロ地方の封鎖が予定通り解除されたのか、報道でわたしは見ていませんが、おそらくそうなったことでしょう。一方、コバリマ地方の封鎖措置は延長され、同地方のファトゥメアンの封鎖は3月21日まで続きました。
<コバリマ地ファトゥメアンの位置>
【インドネシアと国境を接しない諸地方】
◆ディリ地方
首都圏であるこの地方で大半の感染は起こっています。今年4月6日の時点で全国の累計感染者が779人であるのにたいし、この地方での感染者は698人を占めます。
◆リキサ(Liquiça)地方
去年の4月、2人のポルトガル語教師が陽性反応者となって以来、1年間感染者が出ませんでしたが、今年の4月5日、3人の感染者がでました。
◆バウカウ地方
初めて新規感染者が登録されたのは3月5日の1人で、それ以降の新規感染者数(カッコ内は累計数、以下同様)を日付とともに以下に示します。
・3月5日=1(1), 13日=1(2), 14日=4(6), 17日=1(7), 19日=1(8),
21日=11(19), 24日=1(20), 26日=4(24), 27日=2(26),
・4月6日=3(29).
バウカウ地方の主都バウカウは首都に次ぐ第二の都市です。じわじわと感染が侵攻しているような増え方をしています。
◆ビケケ地方
初めて新規感染者が登録されたのは3月15日の2人で、それ以降は18日の1人(3人)、21日の1人(4人)、22日の4人(8人)、23日の2人(10人)、30日の1人(11人)と続きました。
バウカウ地方とビケケ地方の封鎖措置は3月29日まで続き、さらに4月2日まで延長されました。
◆ラウテン(Lautem)地方
今年3月22日に1人だけですが新規感染者が登録されました。それ以降でていません。
◆エルメラ(Ermera)地方
今年4月1日に2人の感染者が初登録されました。
そのほかの地方では感染者が登録されていません(4月6日現在)。
大洪水で甚大な被害
政府は首都圏を封鎖し、そして3月31日、ルオロ大統領は12回目の30日間の非常事態宣言を発令するなどして、新型コロナウィルスの感染拡大を抑えようとしている東チモールを4月4日、大洪水が襲いました。大雨がインドネシア東部と東チモールに甚大な被害をもたらした模様です。
報道によると東チモールでは少なくとも27人が亡くなり、家屋の損壊など甚大な被害がでています。この時期に大雨に苦しめられる東チモールですが、首都の町内に濁流が流れるニュース映像を見ると、今年の大雨の規模は大きかったようです。
家屋の浸水・損壊で大勢の人が避難を余儀なくされました。コロナ禍における避難所生活の仕方という認識が東チモールでは広く告知されていないのでしょうか、ニュース映像を見るかぎりですが、避難民の大半はマスクをしておらず、密になって寄り添っています。また新型コロナウィルス関連の医療機関も被害を受けました。新型コロナウィルス対策そのものが相当な痛手を被ったに違いありません。
都市封鎖と非常事態宣言よって感染拡大を抑え込みたいところに襲いかかった自然災害は、規制も人の流れも感染経路もグシャグシャにかき乱す杓文字のようなものです。
死者ゼロの終わり
4月初旬から危機管理統合センターは新型コロナウィルス感染重症者がいることを公表していましたが、4月6日、ついに死者が1名でてしまいました。大洪水も相まった災禍によって東チモールは大きな試練に立たされています。
青山森人の東チモールだより 第434号(2021年04月09日)より
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.co
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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