放送独立行政委員会を市民連合と野党が要求
5月29日、国会内で市民連合の山口二郎氏、広渡清吾氏らが、立憲野党会派(立憲民主、国民民主、共産、社会民主、社会保障を立て直す国民会議)の党首、代表らと会談、市民連合が提起した13項目の政策要望に調印、野党勝利とその政策実現に向けてともに闘うことを誓い、調印した。
合意を受けて、市民連合の広渡氏は「市民と野党をつないで、安倍政権以外の新しい選択肢を作りたい」と語った。7月の参院選に向けた動きだった。
合意した政策は改憲発議阻止、安保法制と共謀罪の廃止、防衛予算の精査・削減、辺野古基地建設の中止、再生エネルギー政策の確立、脱原発、消費税引き上げの中止、森友、加計解明など13項目にのぼる。
その第13項目に次の一文があることに私は大いに注目した。
13. 国民の知る権利を確保するという観点から、報道の自由を徹底するため、放送事業者の監督を総務省から切り離し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築すること。
政府直轄は中国、北朝鮮、ロシア、ベトナム、ラオス
ジャーナリズムとしての放送は公共性にかんがみて、政府が直接管理、運営しない、国から独立した行政委員会の手に委ねる、というのが世界の常識だ。
アメリカ・FCC(連邦通信委員会)、英国・Ofcom(放送通信庁)、フランス・CAS(聴視覚高等評議会)、フィリピン・NTC(電気通信委員会)、台湾・NCC(電気通信委員会)、韓国・KCC(放送委員会)などだ。イスラム国家であるイランも、放送の管理監督は立法、行政、司法の3分野の代表6名が放送評議会を構成している。
わたしの知る限り、国が直営しているのは中国・国家新聞出版ラジオテレビ映画総局、北朝鮮・国家ラジオテレビ委員会、ロシア・通信マスコミ省、ベトナム・文化情報省、ラオス、情報文化省。ベトナムは社会主義国、ラオスは人民革命党による一党独裁。これら5か国と日本は肩を並べている。
1960年代中頃から続く政府の介入、干渉
1960年代半ばから70年代にかけて、日本のラジオ、テレビ放送は興隆期に入った。しかしそれとともに政府の干渉、介入が強まり、社会的テーマに挑んだドラマや、ベトナム戦争批判報道などが次々と中止となった。こうした状況のもと、政府の直接管理から欧米並みの第三者委員会にゆだねるべきではないかという「放送改革試案」が民放労連によって提案されたが、残念ながら実現されることはなかった。
実は戦後しばらくの間、日本にも「放送委員会」が存在していたことがある。委員は荒畑寒村(作家)、島上善五郎(労働運動家)、加藤シズエ(活動家)、宮本百合子(作家)、土方与志(演出家)、聴涛克己(ジャーナリスト)、矢内原忠雄(経済学者)ら17人の委員が戦後の新生NHKの会長に高野岩三郎(政治学者)を選んだ。しかし後継の電波監理委員会が民放の設立を認めた直後の1957年、郵政省の一部に組み込まれるに至った。以降62年にわたって国が放送を掌握する事態は続いている。
政府によるNHK掌握
「知る権利 NHKの重要人事に政府の意向が反映している」。今年5月、外郭団体の社長になっていた板野裕爾氏が再びNHK専務理事に返り咲きしたことに、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞などの主要紙がNHKの独立性が侵されているという記事を書いた。
安保法制の強行採決に批判が集中した2016年、国会で当時の高市早苗総務相が「公共の電波で一方的な番組が繰り返し流された場合、罰則を科すのは当然だ。免許停止もありうる」と述べメディアを牽制した。新聞と放送は日本の場合一体に近い経営状態にあるため、放送免許停止は新聞経営にも打撃を与える。
同じ頃、古館伊知郎(テレ朝)、岸井成格(TBS)、国谷裕子(NHK)の3人の人気キャスターが一斉に姿を消したことも、安倍政権の介入であるとされている。
安部首相は就任以来メディア対策を主要な政策と位置付けた。2014の特定機密保護法は新聞記者も対象にしている。主要メディア幹部との会食を繰り返し、個別記者、出演者の排除が繰り返された。
(本稿の紹介)
本稿はメディア総研設立25周年記念シンポジューム(7月6日、京都)での、筆者の基調講演「市民とメディアの三角関係を診断する」に加筆した。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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