日本政府は、8月2日、韓国への経済制裁を閣議決定した。
だが、この経済制裁は、破綻する。なぜか?
第一に、日本政府自身がすでに「徴用工問題」を口にできなくなっている。
今回の経済制裁が「徴用工問題への報復」であることは明らかだ。にもかかわらず、韓国がWTO提訴の意向を示し、問題が国際化するや、徴用工のチョウの字も言わなくなった――「安全保障上の国際的責任からホワイト国指定を取り消す輸出管理の問題だ」と。
世界はトランプ大統領の保護主義に脅威を感じている。この脅威を加速する経済制裁を発動するのは、国際世論の支持を得られない。
日本政府はこのことに気づいた。だから「経済制裁」という言葉を封印し、「輸出管理の国内処理問題」と逃げているのだ。
●国内外からの反発
第二に、日本政府の予想をはるかに上回る韓国の反発。与野党、官民一体となっての半導体産業自衛策、日本製品不買運動、交流事業の自粛、…と、日本への反発は日を追って拡大し、韓国からの観光客の大幅減少は、日本の観光地に悲鳴を上げさせている。参院選で改憲勢力維持に失敗し、さなきだにレームダック化の懸念ある安倍政権にとって、経済制裁発動に対する国内からの反発は政権の躓きの石となりかねない。
●グローバル化時代の経済制裁の破壊力
第三に、「経済制裁」のもつ破壊力である。
かつては北朝鮮より貧しかった韓国が先進国並みの経済力を身につけたのは、日本-アジアNIEs(韓・台・シンガポール・香港)-アメリカという世界経済連関に組み込まれたからである。
その後の製造業の国際分業(サプライ・チェイン)の飛躍的発展は、IT革命をテコにめざましい。2011年東日本大震災における自動車部品の生産停止が、遠く離れたアメリカやアジアの自動車生産を減速させた。
グローバル化した世界経済において、ほとんどの国は、得意分野に生産を特化し、自由な貿易にその経済的基盤を置いている。原材料・部品の輸入の途絶が、関連産業だけでなく、その国の国民経済全体に致命的ともいえる大きな打撃を与える構造に、今日の世界経済はなっているのだ。
半導体製造を国民経済の主力産業とする韓国が、半導体製造の原材料の輸入を停止されることで陥る危機的状態がまさにこれだ。
●経済制裁は「総力戦」の武器
ドイツが英仏に負けたのは、戦場で負けたのではなく、「カプラの冬」(1917年冬、70万人餓死、カプラは蕪の一種)に象徴される国民生活の崩壊によって敗北した、とされる。ドイツに「カプラの冬」をもたらしたのは、イギリス艦隊による経済封鎖=食糧輸入の途絶であった。
日本が勝算なき太平洋戦争に突入したのも、英米による原油輸入禁止の経済制裁でよる。さらに。日本の降伏は、連合軍の上陸による日本軍隊の破壊ではなく、東京大空襲を頂点とするB29による全国主要都市の空爆――国民生活の破壊――による。軍隊どうしの決戦ではなく、国民生活の破壊で勝敗を決するのが「総力戦」だ。そして「総力戦」の手段として、空襲と並んで「経済制裁」(経済封鎖)がある。
70万人を餓死させた経済封鎖・「カプラの冬」は、ドイツを降伏に導いただけでなく、ドイツ国民に英仏戦勝国に対する深い恨みを残し、のちのナチス台頭の基盤となった。
韓国に対する経済制裁は、韓国経済に対して致命的な打撃を与えるだけでなく、韓国国民に深い恨みを残す。
韓国徴用工が求めているのは、金銭の補償という形は取ってはいるが、日本の日韓併合・植民地支配という犯罪行為に対する謝罪であろう。
経済制裁は、韓国民に対するあらたな経済的困難・あらたな恨みを作り出し、歴史を1910年日韓併合の百年前に逆行させるものである。
こうした日本政府の姿勢が国際社会の理解を得られるとは、とうてい思われない。
したがって、日本政府の経済制裁は、早晩破綻せざるを得ない。
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