首相夫人付公務員の選挙応援関与は違法

著者: 澤藤統一郎 さわふじとういちろう : 弁護士
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本日(4月23日)の朝日。社会面のトップが、「昭恵氏付職員 どこまで公務」「田植え・ハワイ・スキー 同行続々」の記事。中見出しに、「選挙は15回、野党が追及」とある。

「アベ友学園」問題は多面体だ。実に多様な顔を見せてくれるが、朝日は首相の妻の「公人・私人」論争から、お付きの公務員論に光を当てた。「選挙は15回」とは、「国政選挙で、昭恵氏の選挙応援への職員の同行が明らかになったのは15回に上る」ということ。これは、お付きの公務員が、首相夫人を介してアベ一派の選挙に関わったことを意味している。

朝日の記事の締めくくりは、「選挙応援をめぐっても『私的な行為と公的な行為を昭恵氏はぐちゃぐちゃにしている』との批判が上がっている。」というもの。まったくそのとおり。「ぐちゃぐちゃ」なのだ。これまでは首相夫人が無頓着に「ぐちゃぐちゃ」にしてきた。政権はこれを有利に働くとして放置してきた。いや、5人の公務員をつけたのだから、意識的に「ぐちゃぐちゃ」作りに加担してきたというべきだろう。

これが表沙汰となってからは、夫人付きの公務員の行為を、あるときは「私的行為の支援」といい、あるときは「公務員としての行為」と言って、政権もことさらに「ぐちゃぐちゃ」にしてきたのだ。しかし、首相夫人の選挙応援に政府の職員が同行していたとなると、問題は大きい。「ぐちゃぐちゃ」に放置はしておけないのだ。

朝日のリードはこう言っている。
「安倍晋三首相の妻、昭恵氏に付く政府職員の「業務」が、森友学園(大阪市)への国有地売却問題をきっかけに明らかになっている。昭恵氏の選挙応援への同行も次々と判明し、国会では公務員に禁じられた政治的行為にあたるのではとの議論にも発展。告発の動きも出てきた。」

選挙応援という政治活動は、公務員がその職務としてなし得ることではない。
猿払事件(1974年最高裁判決)がリーディングケースとなっている。「郵便局の職員(全逓の役員)が日本社会党を支持する目的をもって、同日同党公認候補者の選挙用ポスター6枚を自ら公営掲示場に掲示した」などの行為が、国家公務員法違反として有罪とされたのである。

この最高裁判決は悪評高いが、ともかく生きている大法廷判例である。革新陣営の選挙運動には弾圧手段として厳格に適用され、首相夫人付きの公務員にはまことにゆる~い適用なのだ。ダブルスタンダードも甚だしい。

最近では、無罪を勝ち得た社会保険庁年金相談係の堀越さんの事件がある。衆議院選挙前の時期に、仕事と無関係に、職場から離れた自宅周辺で、休日に、赤旗やビラをポスティングしていた。これが国家公務員法の政治活動禁止に触れるとして逮捕され起訴までされた。最終的には無罪となったが、いまだに公務員法の政治活動禁止規定は弾圧法規として機能しているのだ。

猿払判決基準からは、あるいは堀越起訴基準に照らせば、首相夫人の選挙運動に関わった公務員の行為は、当然に起訴相当である。公務員に厳格に要求される中立性に対する社会からの信頼を裏切ることは論じるまでもないのだから。

この点、既に4月20日に、首相夫人とそのお付き職員として選挙に関わった3人の計4人が国家公務員法違反(政治活動禁止)の罪名で告発されている。首相夫人は公務員ではなく、本来身分のない者として公務員法違反の犯罪者とはならない。しかし、共犯としてなら、犯罪が成立しうる。刑法65条1項の効果として、である。「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯」とされるのだ。

これも、朝日の記事。
「昭恵氏らの告発状、元高検部長が送付 参院選応援巡り」「安倍晋三首相の妻、昭恵氏が昨夏の参院選で候補者の応援に行った際、首相夫人付の政府職員を同行させたのは国家公務員法(政治的行為の制限)違反にあたる疑いがあるとして、元大阪高検公安部長の三井環(たまき)氏が20日、昭恵氏と夫人付職員3人に対する告発状を東京地検特捜部に送付した。

告発状によると、職員3人は昨年6月22日~7月9日の計14回、昭恵氏の選挙応援に同行。三井氏は、これらが昭恵氏と職員が共謀して行った選挙運動に該当すると主張している。三井氏は取材に対し、『政権が国家公務員を使って選挙活動をしたことは大問題』と話した。」

首相夫人の行為が純粋に私的なものなら、公務員を付けてサポートすることはできない。公的な色彩あればこそ、公務員を付け得ることになるが、公的な行為が選挙応援となれば、明らかに違法となる。公務員が首相夫人の選挙応援活動をサポートすることはできないのだ。公務員氏は、そんな首相夫人の行為をやめさせるか、選挙関係の行動には同行を拒否するか、どちらかしかない。

朝日は、職員が公務として付いた首相夫人の私的行動を「田植えや森友学園の幼稚園での講演、米ハワイ訪問、スキーイベント参加などだ。政府は『公務として同行した』などと説明。スキーイベントでは、職員は『用務に要した時間以外の時間』にスキーをしたという。」と報道している。

ずいぶん楽しそうだが、他のことはともかく公務員は政治活動を禁止されている。だから、首相夫人付きの公務員といえども、党派性の露出を免れない選挙応援に一切関与してはならないのだ。政権は、「ぐちゃぐちゃ」を整理して、公務員が選挙応援をした違法を認めなければならない。そして、首相夫人の共犯も、なのだ。
(2017年4月23日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.04.23より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=8483

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

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