高市「極右」政権と「新暗黒時代の幕開け」

著者: 土田 修 : ル・モンド・ディプロマティーク日本語版理事兼編集委員
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 政治的混乱の続くフランスでは「大統領の黄昏」がメディアでまともに語られるようになってしまったが(10月16日付ヌーヴェル・オプス誌)、日本では10月21日に発足した高市早苗内閣は世論調査で支持率68%(朝日新聞世論調査)と高く、順風満帆の船出を果たしたようだ。
 高市首相は、来日したトランプ大統領の歓心を惹こうと「安倍晋三」の名前を使って媚びへつらい、空母ジョージ・ワシントン上ではトランプ氏から「この女性は勝者だ」と紹介され、米兵を前に満面の笑みを浮かべながら拳を挙げてピョンピョン小躍りしてみせた。一国の政治リーダーとは思えぬアイドル歌手のような体たらくに言葉を失った。今回の日米首脳会談について首相は「日米、新黄金時代の幕開け」と称賛し、メデイアもその言葉を一面トップの大見出しで掲載したが、筆者には「新暗黒時代の幕開け」としか思えない。
 高市首相は24日の所信表明演説で「防衛力を抜本的に強化する」と表明し、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額する現行目標を、今年度中に前倒しして実施する一方、安保関連三文書を前倒しして改定する方針を決めている。岸田内閣が閣議決定した安保関連三文書は軍事費を倍増させ、23年度〜27年度の5年間で43兆円の防衛費を支出し、敵基地攻撃能力を保有するという内容だ。
 トランプ政権は北大西洋条約機構(NATO)加盟国と日本を含むアジアの同盟国に対して、防衛費をGDP比3・5%、さらに5%に増額するよう求めている。米国への自発的隷属を強めている高市首相は「台湾有事」を理由に軍事大国化を進め、米軍事産業から武器を買いまくり、南西諸島へのミサイル配備を含め日本列島の要塞化を図ろうとしている。
 だが、5年間で総額43兆円の防衛費をどうやって捻出するのか?「防衛力強化資金」の創設などが画策されているが、そこには医療施設や医療労働者の待遇改善のための資金や復興特別所得税の流用が含まれている。結局は社会保障費や教育関係費が狙われているだけでなく、さらなる増税や国債乱発がなされれば、国民生活は圧迫され、物価高騰にもつながる。
 トランプ政権の要求を受けて、NATOは六月の首脳会議で、NATO加盟国の国防費を35年までにGDP比5%に引き上げる目標を決めている。フランスのマクロン大統領は、2024年に500億ユーロ弱だった国防予算を2027年に640億ユーロ(約11兆円)に増額すると表明している。国防費増額のためマクロン氏は「社会福祉予算や公共サービス予算の削減」を公言し、フランス国民に「祖国への献身」と「精神力」を求める演説を行なっている。
 高市首相が「世界の真ん中で咲き誇る」強い国家をめざし、国民生活を軽視することは目に見えている。その姿勢に、海外メディアは「日本会議」という超国家主義団体に所属する高市氏を「極右」「超保守主義者」と明確に規定している。
 高市氏の自民党総裁就任について、日刊紙ル・モンド(10月7日付け)は、自民党は国家主義的転換を果たしたが、彼女の「極右的・超保守的な立場」が政権運営を難しくする可能性があると指摘。さらに高市氏が自民党の小粥義雄氏の著作『ヒトラー選挙戦略 現代選挙必勝のバイブル』(永田書房)を称賛し、日本のネオナチ団体「国家社会主義日本労働者党」と関係を持った過去にも言及している。
 高市氏が日本政府の首相に選出されたことについて、同紙(10月22日付)は、「超保守派の象徴である高市氏は、男性に限定された天皇継承制度を支持し、同性婚や夫婦別姓を可能にする法改正に反対している」とし、「(高市政権が)法案を通すには他党の協力が必要となる」ことから「(日本は)多党制の時代に入った」と報じている。
 高市内閣と自民党執行部の中枢メンバー(木原稔官房長官、松本洋平文科相、城内実経済財政担当相、麻生太郎副総裁、有村治子総務会長、古屋圭司選対委員長、萩生田光一幹事長代行ら)は、日本の侵略戦争を正当化し、「憲法改正」や首相の靖国参拝を主張する日本会議に所属している。
 日本会議の全面支援を受ける高市氏を、日本のメディアは「初の女性首相」と称賛し、日米・日韓の首脳会談で「予想外の天才的手腕を発揮した」(10月31日、日本テレビ「ミヤネ屋」)と絶賛した。さらに「ミヤネ屋」は高市氏のスーツやボールペンなど「高市グッズ」が売れ筋になっている現象を「サナエ・フィーバー」と称して浮かれまくってみせた。権力に媚を売る低俗番組を見るたびに民放テレビの「黄昏」を痛感する。
 国家を重視し国民生活を軽視する姿勢は、国民に「国家への献身」と「精神力」を強要することと大した違いはない。例えば、「ワークライフバランス」を否定し、経団連の「働きたい改革」を「働かせたい改革」に改変させたことでも明らかだが、「馬車馬のように働いていただく」という新総裁のあいさつはやはり国民に向けられた恫喝でしかなかった。
 自民・維新の連立政権は、数合わせの野合集団にすぎない。世論調査での68%という高支持率に浮かれた高市内閣が年末に解散総選挙を実施する可能性も出てきた。だが、公明党の連立離脱の影響によって多くの「公明票」を失うといわれる自民党がボロ負けする可能性も否定できない。高市「極右」政権が自民党の「黄昏」と「新暗黒時代」を招来する日もそう遠くはなさそうだ。     

国家権力の弾圧に対して、弁護士の接見確保などの救援活動を行う「救援連絡センター」(03-3591-1301さあ獄入り意味おーい)が発行する月刊紙「救援」(購読料・年間4500円)11月号「新しい時代の階級闘争・第31回」より転載

土田修 ル・モンド・ディプロマティーク日本語版理事兼編集委員
ジャーナリスト(元東京新聞編集委員)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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