高市政権と日本型ファシズム 

 現在、日本は「ファシズムの入り口」に立たされている。2月8日に投開票が行われた衆議院選挙で自民党が圧勝し、衆議院の総定数465議席の3分の2を超える316議席を獲得した。通常国会の冒頭解散について、高市早苗氏は「高市早苗が、内閣総理大臣で良いのかどうか、今、主権者たる国民の皆様に決めていただく、それしかない」と説明した。

 衆議院選挙での大勝利を受け、「国民の信任をいただいた」と胸を張る首相は、「やると言ったものは全部やる」と強気の発言を繰り返している。保守派の宿題といわれる「スパイ防止法」の制定、米中央情報局(CIA)をモデルに諜報活動を行う「対外情報庁」の創設、安保関連3文書の改定、憲法「改正」(「自衛隊明記」や「緊急事態」条項の導入)といった「国論を2分する」政策が念頭にあるのは間違いない。

 こうした強い言葉を発する指導者に「白紙委任」するという政治形態は、「独裁政権の一歩手前」と言えるのではないか。しかも、靖国参拝を重視し「教育勅語」や「軍人勅諭」を評価する高市氏の思想は、戦前の天皇制ファシズムを源流としている。

 日本型ファシズムの特徴は、イタリアのベニート・ムッソリーニの「ファシズモ」とも、ドイツのアドルフ・ヒトラーの「ナチズム(国民社会主義)」とも異なる。「万世一系の天皇」が神社や神道を媒介として日本を統治するという「国体」思想が核心にあり、義務教育や徴兵制を通して国民の間に浸透してきた(山口定著『ファシズム』、岩波現代文庫を参照)。

 神道系「極右」団体の「日本会議」をバックに持つ首相が「皇位は男系男子に限る」とする皇室典範の改正や「夫婦同姓」前提に結婚後の「旧姓使用」を制度化する法案にこだわる理由もそこにある。

 国民一人ひとりが「個人」としての権利を持っておらず、「民衆」こそが「結束した集合体」となって「共通の意志」を表現するというのがウンベルト・エーコのファシズム論の要点だ(岩波現代文庫『永遠のファシズム』より)。SNSによって大衆動員されるインターネット社会では、特定の市民集団の感情的反応が「共通の意志」として表明されてしまうからだ。

 米国出身の社会学者ジェニファー・シュレーディは「インターネットは階級的、イデオロギー的に右派にとって有利な技術である」と論じた。経済・文化的に恵まれた階級の方がデジタル技術を習得しやすいし、左派が重視する「平等」より右派が重視する「自由」の方がインターネットとの相性が良いというのがシュレーディの考えだ。

 右派によって煽動された感情的反応が、たとえば「外国人排斥」や「中国敵視」という「共通の意志」としてネット上で増幅されたのであれば、「高市個人」を信任する選挙で高市首相が勝利することなどたやすいことだったのかもしれない。

◾️右派にすり寄る「中道改革連合」
 こうした高市「前ファシズム」体制に対し、「中道」などという立場は吹けば飛ぶような存在にすぎない。労働者階級に支持されていた政党が貧困格差を生み出す階級対立から目を背け、ネオリベラル政策に統合される過程で取り残された人々に目を向けたのは「極右」勢力だった。

 「極右」が「エリートVS民衆」という「階級闘争」に似た対立構造を作り出し、「中道リベラル」化した左派勢力を凌駕する存在に発展するという政治状況は欧州では当たり前になっている。米国でトランプ大統領が誕生した背景として、バーニー・サンダース氏は「労働者階級を見捨てた民主党が、労働者階級から見捨てられた」と指摘しているが、同じことは前回書いたようにフランスの社会党についても言えることだ。

 一昔前は「革新勢力」の一翼を担ったはずの中道政党が政権の補完物と成り果て、ネオリベ政策を強化するだけでなく、「極右」勢力を育てる結果になっている。今回の衆議院選挙の結果を見る限り、立憲民主党と公明党の衆議院議員が結成した「中道改革連合」はまさにその轍を踏んでしまった感がある。
公明党と合流するうえで、立憲民主党の政策は右寄りに傾斜した。安全保障法制の解釈や沖縄の辺野古基地移転問題での妥協が、立憲民主党の支持者を失望させたことが選挙結果に影響を与えたのは間違いない。

 さらに、「中道改革連合」の新代表に就任した小川淳也氏は、憲法改正についての記者質問に「自衛隊の明記はあり得る」と答え、高市政権が推し進める憲法改正の動きに同調する立場を明確に表明している。

 ナチスと連合し、ナチスを権力の座に就けたのがドイツの「中道」勢力だった。「中道改革連合」の大敗は、「中道主義」に対する有権者の拒絶を表している。階級的格差に便乗し、そこから利益を得ているのは、左派ではなく右派ポピュリズムの方だ。「保守」に擦り寄り「極右ファシズム」を培養する「中道」勢力が自滅するのは時間の問題なのだ。

土田修
ル・モンド・ディプロマティーク日本語版の会理事兼編集員
ジャーナリスト(元東京新聞編集委員                              

(「救援」2026年3月号より転載                             〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14740:260321〕