鵜飼哲「五輪ファシズム」論に賛同の拍手を送る

(2021年2月14日)
コロナ蔓延の終熄はまだ遠い。原発事故処理もできぬ間に新たな地震も重なった。財政は逼迫している。国民生活は弱者ほど疲弊が厳しい。とうていオリンピックどころではない。アベ晋三の大ウソとワイロとで誘致した東京五輪が、いま主催組織幹部の女性差別と旧態依然たる体質暴露で世界に恥を晒している。いったい、どこに開催の意義があるというのだ。もともとが、為政者の統治の具に堕した国威発揚の舞台。しかも、意図的に小さな予算から出発して、途方もない金食い虫に変異したこのイベント。行政とつるんだ企業に食い物にされた、カネまみれの商業主義の化け物。こんなものは、さっさとやめてしまえ。その予算を、コロナ対策と震災からの復興にまわすべきが当然ではないか。

これが、これまで私が語ってきたこと。私は、この程度にしか東京オリンピックを批判してこなかった。今、その不徹底な姿勢を反省しなければならない。「五輪ファシズム」論に接してのことだ。

2月11日、毎日新聞デジタルが、「女性蔑視発言の根底に潜む『五輪ファシズム』の危険性」という記事を掲載した。かなり長文の鵜飼哲(一橋大名誉教)インタビューである。まことに時宜を得た適切な論説。
https://mainichi.jp/articles/20210210/k00/00m/040/185000c

鵜飼によれば、「オリンピックには、その根底に市民の生活を脅かす危険な『五輪ファシズム』がある」という。私はこれまで、「オリンピックは素晴らしい」という言説を懸命に否定してきた。しかし、鵜飼はオリンピックの積極的な害悪を主張する。「五輪ファシズム」という切り口で。

クーベルタンは、女性蔑視で優生思想の持ち主だった。ブランテージも、サラマンチもファシズムに親和性を持っていた。IOCは今も王族や貴族のサロンで、そこに元オリンピアンが「新貴族」として入るという愚にもつかない忌むべき構造がある。JOCの評議員63人中女性はたった2人…。さて、「五輪ファシズム」とは何か。

オリンピックは最初から全体主義的なイベントになりがちな傾向を強く持っていました。1936年にナチス・ドイツが挙行したベルリン大会を、IOCは今も最も成功した大会と評価しています。
 68年のメキシコ大会では開催に反対した学生が開会式直前に何百人も殺されました。2016年のリオデジャネイロ大会の開催中も、警官による民間人の射殺が激増するなど人権侵害が多発したことを、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが報告しています。しかし、IOCは全て主催国の問題にして責任を引き受けることはありません。21世紀に入ってテロ対策が強化され、ロンドン大会(12年)、リオ大会では地対空ミサイルが配備されました。当然、日本も開催されれば同じことになります。憲法が改正された後の状態を先取するような形で五輪期間中の警備が構想されているのです。顔認証システムも初めて導入予定で、日本在住者にはマイナンバーカードの提示が求められる。監視テクノロジーのこのような浸透が五輪を通じてグローバルに展開するところに現代のファシズムの特徴があります。

 クーベルタンが考えていた「平和」とは、弱体化したフランスにイギリスやドイツのような体育教育を導入し、民衆にもスポーツを教えて軍隊を再建し、欧州にバランスを回復することでした。日本国憲法が理想としている第二次大戦後の世界平和とはまったく意味が違います。

 安倍さんはあわよくば五輪を使って改憲まで持っていくつもりだったと思います。福島のことを忘れさせ、開催予算を自民党の支持基盤に流し、祝祭の勢いで改憲まで持っていく。このシナリオはコロナによって崩れましたが、五輪の歴史の中でも最悪の政治利用計画の一つでしょう。

最後は、次のように締めくくられている。まったく同感である。

 黙っていたら「わきまえている国民」にされてしまいます。さまざまな表現方法を工夫して異論を発し続けることが大事です。

なお、以下の重要な指摘もある。

 次の五輪開催地は来年冬季大会が予定される北京ですが、北京は欧米諸国のボイコットの可能性もありIOCは大変警戒しています。東京、北京とも開催できないのは避けたいでしょうから、IOCは東京開催に固執するでしょう。私の見通しでは、ぎりぎりまで開催強行を狙うでしょう。
 しかし、森発言以来、ボランティアの辞退が増えています。今後は選手たちから抗議の声が上がることが、主催者側には最も手痛いはずです。

明確に「東京五輪を中止せよ」と声をあげたい。さらに、中国の人権政策に変化ない限りは、「北京冬季五輪も中止を」とも。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.2.14より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=16323

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

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