バルセロナの童子丸開です。お世話になっております。
今回は、しばらくご無沙汰していたスペイン情勢についてです。
内容が多いため、第1部と第2部に分けてお知らせしますが、第2部はまた近日中に公表する予定です。
お読みになって面白いとお思いなら、ご拡散のほど、よろしくお願いします。
(以下のサイトでも見ることができます。)
http://bcndoujimaru.web.fc2.com/spain-3/Spanish_latest_political_chaos-part1.html
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1年間「無政府」の果てに3回目の総選挙?
分裂・崩壊の扉を叩きつつあるスペイン国家(第1部)
【画像:ラホイにこのジグソーパズルが解けるかな?】
(https://labaladadeltahur.files.wordpress.com/2012/05/caricatura-mariano-rajoy-121.jpg:la Balada del Tahul誌)
今年6月26日に行われたスペイン「やり直し総選挙」の結果については当サイトのこちらの記事で詳しくお伝えした。さて、その後いったいどうなったのか?
実はどうにもなっていないのだ。あいかわらずこの国には正式な政府が作られず、マリアノ・ラホイ国民党が「暫定政権」を保ち続けている。その後に行われた主要政党による交渉でもまとまりようがなく、ラホイが無理矢理に出馬した8月31日の国会での首班指名投票でも「国民党政権」はあっさりと拒否されてしまった。
11月1日に首相決定の最後のチャンスがあるのだが、それでも決まるかどうか全く分からない。そうして、ついに1年間以上もまともな政府ができず、12月に3回目の総選挙が行われる可能性すらある。1年間に3回の総選挙とは・・・。「情けねえ。どんな国なんだ?いったい?」とお思いだろうが、そのプロセスと原因を探ってみるときに、スペインだけではなく現代の世界に共通して存在する危機が浮き彫りになってくるだろう。
量的に大きいので、この記事は「第1部」と「第2部」に分けて書き残すことにしたい。
《6月26日の総選挙とポデモスの沈滞》
前回のスペイン情勢に関する記事で、6月26日に行われたスペイン総選挙についてお知らせしたが、その結果を繰り返そう。
投票率 69.84% 総議席数 350 (安定過半数 176) 以下、数字は議席数
国民党 137、 社会労働党 85、 ウニドス・ポデモス 71、 シウダダノス 32、 その他、地方民族政党 25。
(「国民党」は現在の政権党で中道右派、「社会労働党」は以前の政権党で中道左派、「ウニドス・ポデモス」は急進左派のポデモスと旧共産党系の統一左翼党の連合、「シウダダノス」は中道右派の新政党である。
この6月26日の選挙で予想に反してウニドス・ポデモス(ポデモス+統一左翼)が議席を伸ばせなかったばかりか、得票数を100万票も減らした原因について、追加情報を述べたい。6月27日付の経済紙エコノミスタは『’Brexit’が国民党を勢いづけ、ポデモスの選挙への期待を撃ち沈めた』と書いて、英国のEU離脱の衝撃が選挙民に変化よりも安定を選ばせたことを原因に挙げた。確かにそれは真実だろう。しかしもう一つ、特にベネズエラ(チャベス主義、マドゥーロ政権)悪魔化キャンペーンと連動させた、激しいネガティブ・キャンペーンがあったことも忘れてはならない(当サイトのこちらの記事参照)。
「ベネズエラ政府から活動資金を提供された」という、国民党、シウダダノス、社会労働党および主要マスコミによって、選挙直前まで連日のようにネチネチと行われ続けた告発は、選挙後、ポデモスの不振を確認したかのように、ほとんど消えて無くなった。全国管区裁判所の捜査班も即刻その告発の信ぴょう性を否定した。このでっちあげに基づいた卑劣な攻撃が’Brexit’ショックと結びついて、選挙民の変化への不安を増大させた可能性は非常に高い。
こういったでっちあげをもとにした政治的攻撃は特に珍しいことではない。ポデモスは昨年前半までイランからの活動資金供与の疑いを国民党関係者と保守派マスコミから指摘されていたが、アメリカとイランの国交が正常化されて以来、それがぴたりと消えて無くなった。また当サイトのこちらの記事でも書いたように、カタルーニャ独立派に対する内務省のあからさまな犯罪でっちあげの確たる物証まで登場している。どの国でも当たり前だろうが、政治に関しては捏造情報や冤罪づくりなどは普通に行われているのだ。ただ、ポデモス自身が抱えている問題も大きいように思える。これについてはいずれまた述べてみたい。
《解きようのないジグソーパズル》
しかし、この選挙結果から、そののちのスペインが歩まなければならない泥沼が再び現れてきたと言える。この《解きようもないジグソーパズル》を前にして、またしても政権作りのめどが全く立たないのだ。
国民党とシウダダノスの右派連合は169議席で到底過半数にならない。社会労働党とウニドス・ポデモスとシウダダノスの連合なら188議席で過半数を超えるが、 前々回の記事でも書いたように、シウダダノスとポデモスが手を結ぶことは不可能だ。また地方民族政党には「穏健派」のバスク民族党(5議席)とカナリア連合(1議席)もあるが、分離独立派のカタルーニャとバスクの民族主義政党が大半である(カタルーニャ左翼共和党が9議席、カタルーニャ民主集中が8議席、バスクのAH- BILDUが2議席)。分離独立派が国民党や社会労働党と手を結ぶことはまず考えられない。どんなふうに組み合わせたところで過半数を獲得する勢力の生まれようがない。
唯一可能性ある方法は、国民党とシウダダノス、保守的な地方政党が手を組んで(170議席)ラホイを首相に指名し、首班指名投票の際に社会労働党の11人以上が欠席して(出席議員339人以下)、出席議員の過半数の支持を得る・・・、こうしてラホイ国民党政権の継続を決める・・・、という手である。もしシウダダノスが協力できない場合でも、シウダダノスと社会労働党員の大部分が欠席すれば、国民党だけでも政権を作ることができるだろう。しかしそんなことが可能なのか?
国民党党首で暫定政府首相のマリアノ・ラホイは6月30日に、社会労働党首ペドロ・サンチェスに対して左右大連合による「救国政府」作りを呼びかけた。社会労働党は即刻、この言葉巧みな罠を迷うことなくはねつけた。当たり前のことだが、両党の政治方針の隔たりは大きく、連立に伴う様々な条件の下交渉抜きで「はい、そうしましょう」などと言えるわけがない。またラホイの誘いかけには「最低でも社会労働党の議員に首班指名投票の際に欠席しろ、という含みもある。後でも触れるが、社会労働党内には欠席を勧める声も高いのだ。しかしサンチェスはそれには沈黙して圧力をかわした。
スペインの政府づくりが難航する一方で、安定した政権ができないことにEU本部のいらだちは強まっている。一向に減る気配を見せない公的債務に対する制裁措置はさすがに見送られたが、ブリュッセルはスペインが100億ユーロ(約1兆1500億円)相当の緊縮政策を必要としているとみなし、また消費税の新たな値上げをするように忠告した。しかしそのためにはとにもかくにも政府が作られなければならない。そこでEUは、もしスペインに政策協定による連立政権が作られない場合には61億ユーロ(約7100億円)の制裁金を科すという脅しをかけてきた。
もう無茶苦茶な話だ。それで搾り取られ大変な目に遭うのは「99%」の一般国民なのだ。そのうえで中東やアフリカからの「難民」をごっそりと引き受けろ…、ということか? こんなEUこそスペインの真の敵だということを、いつになればスペイン人たちは気づくのだろうか。
《焦るシウダダノスと動かない国民党》
7月に入り、シウダダノスの党創始者の一人で党内に多大の影響力を持つ作家・ジャーナリストの アルカディ・アスパダは党首のアルベール・リベラに苦言を呈した。リベラがこの2月に社会労働党と組んで非国民党政権作りを目指したことを念頭に置いてのことだが、アスパダはこれを「過ち」と決めつけ国民党と協定を結ぶように求めた。その翌日、シウダダノスの幹部はマリアノ・ラホイを拒否することはないと断言した。7月も半ばに入ると、リベラ自身が、ラホイの首班指名を可能にして国民党による少数派政権作りに協力する、つまりシウダダノス自身が政権党として入閣はしないが首班指名でラホイを首相として推す、という方針を明らかにした。
もちろん舞台裏では多くの折衝が行われたはずだが、新政党シウダダノスとしては国民党に吸収されるような形でズルズルと権力中枢に入るわけにもいくまい。国会の最初の仕事は上院と下院の議長を決めることだが、その際にリベラは、社会労働党や各地方民族政党にきわめて人気の悪いマリアドローレス・デ・コスペダル(国民党副党首)、ホルヘ・フェルナンデス・ディアス(内務大臣)、マニュエル・ガルシア・マルガジョ(外務大臣)を候補から外すように 国民党を説得した。そしてこの両党の推薦を受けて下院議長に国有財産相のアナ・パストールが決定されたが、この過程で国民党とシウダダノスによる協力体制が作られたと言える。
しかしもちろん、この両党だけでは過半数を確保できない。実は国民党は多数派工作のために、分離独立を目指しマドリッド中央政府の不倶戴天の敵であるはずの カタルーニャ民主集中やマドリッドとは水と油でしかないバスク民族党と、何を「餌」にするのか知らないが秘密裏に交渉を進めていたのだ。それに気づいたシウダダノスは激怒し、民族政党と組むのなら協力の方針を変更すると国民党を脅した。国民党の議員たちはラホイに対して、首相に選出される保証が無いなら首班指名に臨まないように釘を刺したが、そうなるともはや社会労働党の「裏切り」に期待するしかないのである。
こうして、本来なら下院議長が選出されて3週間以内に首班指名が行われるはずなのだが、そのめどが一向に立たないまま、ズルズルと日にちだけが過ぎていく。ラホイは 「もし社会労働党が国民党政権を拒否するのなら、選挙をもう一度行うことになるだろう」と脅したが、それにもかかわらず、サンチェスや同党の幹部に対して何か積極的に働きかけるわけでもなかった。シウダダノスとの折衝にしても、国民党が自ら積極的に動いたものとは思えない。
昨年の11月に形式上の政権終了をして以来、スペインには普通の政府が無い状態が続いているのだが、国務に特に支障はなく、暫定的とはいえラホイ政権が実質的にそのまま続いているのだ。この調子で何回選挙をしても首班指名ができないようなら、ラホイ政権が限りなく続くことになってしまう。 憲法にはそうなったときの対処方法など書かれていないのだ。むしろラホイが首相の地位にあり続けるために、意図的に社会労働党への働きかけを避けているのではないか、とすら疑いたくなる。それほど国民党は「不動の姿勢」を撮り続けているのだ。つまり「自分自身の方針や内実を変えるつもりはないから、他の政党が我々を認めて近づいてこなければならない」ということである。
《徹底抗戦するサンチェスに社会労働党長老からの圧力》
このような国民党の姿勢に最もイラついているのが社会労働党のペドロ・サンチェスなのだが、この党はもちろん一枚板ではない。特に元首相のフェリペ・ゴンサレスは繰り返しサンチェスに対して、ラホイ国民党政権の継続に協力するように求めてきた。やはり党長老で元党首の ジュゼップ・ブレイュもラホイの首班指名の際に同党員が欠席すべきことを主張した。それに対してサンチェスはラホイを首相の座から降ろすことを主張し、党内の対立を露わにした。
首班指名投票の目途が立たないままどんどんと7月が過ぎていくのだが、社会労働党内での対立は続く。7月6日にサンチェスは、ラホイが首相候補として立った場合には、 首班指名投票の際に社会労働党はラホイを拒絶すると断言した。すると即座に、サンチェスがラホイと交渉を開始すべきだというゴンサレスからの「提案」が現れた。その一方で、ポデモス党首のパブロ・イグレシアスは、もしラホイの氏名の際に社会労働党が欠席するのなら同党を国民党のソシオ(会員)であるとみなすという警告を発した。
7月13日にマリアノ・ラホイは、もし社会労働党が欠席するのであれば8月2日に首班指名投票を行うという、実に身勝手な声明を出した。こんなあからさまに他の公党を見下すような態度をとられては、たの社会労働党員としても、いくら長老で大物のゴンサレスが呼びかけてもおいそれとは「はい、そうですか」と答えることはできまい。同党は即日、ラホイに対して「現時点では」の注釈付きで拒否の姿勢を明らかにした。サンチェスら党執行部はこの傲慢なラホイ政権の脅しに対して徹底抗戦を決めたのである。
その後も、 社会労働党政権時代の6人の大臣経験者たちが党幹部に対して、「一刻も早い政府の確立」、つまり社会労働党の欠席を求めた。また再びゴンサレスがサンチェスに対して、「たとえラホイが首相にふさわしくなくても彼の政府を作るに任せろ」という強い圧力をかけた。しかしサンチェスは頑としてそれらの提案を受け入れなかった。それにしても、この長老たちの奇妙な態度はどこからくるのだろうか。
要するに、ゴンサレスやその他の古い党員たちは、スペイン国民ではなく、スペインの78年体制(当サイトのこちらの記事を参照)を守りたいだけなのだ。彼らには「自分たちが今のスペインを作った」という、アルプス山脈のように大きく高いプライドがある。そしてそのプライドと、「独裁政権憎し」の国民感情だけが、この党を政権党として成り立たせてきたのだ。
しかし実際には、彼らはこの国を真に支配する者たちの掌で、国民の機体の上にあぐらをかいてふんぞり返っていたに過ぎない(当サイトのこちらの記事、またこちらの記事を参照)。その間にこの党の政治・経済的な無能・無見識が、フランコ与党の成れの果てである国民党の財政基盤(伝統的な利権構造)固めを手助けしただけに終わったのである。客観的な目で眺めるなら、国民党も社会労働党も一つの木に咲く色違いの花に過ぎないのだ。
※ スペインの政治腐敗の激しさに関しては、当サイトにある『シリーズ:スペイン:崩壊する主権国家』にある『第2部 崩れ落ちる腐肉:(A)あらわにされる「略奪の文化」』および『第3部 崩れ落ちる腐肉:(B)国の隅々にまで広がる腐敗構造』に詳しい。
《ラホイ政権不成立とクリスマス選挙の可能性》
もちろんだが、8月2日に首班指名投票が行われることはなかった。本来なら夏季バカンス(空白期間)があるはずだが、今年だけは政治家たちの盛んな動きが見られた。ポデモスにとって、政治方針の違いに加え捏造情報でポデモスを汚く攻撃してきたシウダダノスを相手にするのは全く不可能だ。8月初旬に ポデモスは社会労働党に、国民党にとって代わる政権を作るための行動を呼びかけた。イグレシアスは、地方・少数民族の自治権の保証を掲げて、カタルーニャやバスクの民族政党を巻き込めば国民党に代わる政権が可能だと主張したのだ。しかし、カタルーニャ分離独立にかたくなな対決姿勢を示す社会労働党を動かすことはできそうにもない。
8月中旬になってもフェリペ・ゴンサレスが、 シウダダノス党首リベラは政治責任を明らかにする最初の行動をしたと褒めあげ、サンチェスに国民党へ歩み寄るように促した。一方でラホイとリベラはサンチェスに対して圧力を強める作戦を練ることで合意し、シウダダノスのリベラはラホイ政権の継続を認めるための条件の交渉を開始した。シウダダノスにとって、その交渉の中心は政治腐敗を一掃するための方策を練ることである。この党はそれを最大の選挙公約にしてきたのだ。
リベラはラホイ政権継続を認める条件として、政治腐敗のシンボルとなった前バレンシア市長で現上院議員のリタ・バルベラー(当サイトの こちらの記事、こちらの記事を参照)を政界から追放すること、またバルセナス二重帳簿事件(当サイトのこちらの記事を参照)に関連してホセ・マリア・アスナール元首相の議会での証人喚問を行うことなどを提示した。これらは誇り高い国民党にとってほとんど受け入れがたいと思われるが、国民党は持ち帰って党内で検討すると約束した。社会民主党はあくまで「何も変わっていない」と国民党拒否の姿勢を崩さない のだが、とにもかくにも、国民党とシウダダノスの協定が作られる運びとなった。
こうして、 8月30日に議会を招集し31日に首班指名の投票を行うことで日時の調整が行われたが、そこで首相が決まらなかったら9月2日に再投票がある。それでもダメな場合は2か月の調整期間をおいて11月1日に首班指名投票が行われる。ところが、もしそれで最終的に政府が決定しない場合には、議会を解散して、またしても総選挙ということにならざるを得ない。現行の選挙法からすると、解散後すぐに選挙を公示して54日後の12月25日に総選挙を行わねばならなくなる。12月25日はクリスマスの日だ。日本でいえば正月の1月1日に選挙をする、というような、とんでもない話である。
国民党は社会労働党に「クリスマス選挙」を避けたいならラホイ政権成立に協力しろ」という圧力をかけたのだろう。しかもラホイは政策協定を作る際に、シウダダノスに 国民党を辱めるなと注文を付け、交渉の骨子だった政治腐敗との対決の方策をほとんど具体性の無いものにしてしまった。反発するシウダダノスは国民党を司法権に介入していると非難し、政治腐敗で刑事被告人となった者の公職からの追放を要求したが、国民党は聞く耳を持たず、自分たちが求める条件を押し付けるだけだった。入閣をせずに政府成立にだけ協力するということでは、シウダダノスの立場は弱い。
この情勢を見て、3度目の総選挙もやむなしと判断した社会労働党とポデモス、そして国民党との協定を結ぼうとしている当のシウダダノスまでが、 「クリスマス選挙」を避けて1週間早い12月18日に総選挙ができるように選挙法を改正する作業を検討し始めた。その一方で国民党とシウダダノスの協定締結作業で最後の詰めがギリギリまで続けられた。政策協定は28日にようやく締結されたのだが、それは国民党の従来の方針を多少修正しただけのものに過ぎず、政治腐敗の根本的解決・防止とはまるでかけ離れたものになっていた。もちろんだが、社会労働党首サンチェスはラホイに対する断固たる「ノー」の姿勢を崩そうとしなかった。
8月30日に招集された議会総会で、 マリアノ・ラホイは政治腐敗についてわずか数分間、「もう二度と起こらないようにしましょう」と全く無意味なおしゃべりをしただけだった。そのうえで(厚かましくも)、他の党派に対してスペインの統一を守るために力添えを求めたのだ。スペインを分裂させている責任は自分たちにあると思われるのだが、この者たちの頭にあるのは自分たちの利権の防衛だけなのだろう。
ラホイを首相に推す勢力は、国民党とシウダダノスに予定通りカナリアの民族政党が加わって総勢170議席となった。しかし8月31日の指名投票では社会労働党が全員出席して全員がラホイに反対し、 170議席vs180議席でラホイの首相選出は否決された。ここまでは予定通りだろう。問題は、9月2日の第2回投票までに社会労働党内で変化が起こるかどうか、だ。
翌9月1日付のエル・ムンド紙によれば、ニューヨークタイムズ紙がその社説でラホイに政府を任せるように社会労働党に要求した。あの悪名高いファイナンシャルタイムズ紙までが社会労働党の第2回投票での欠席を求めたのだ。国民党は、社会労働党内に起こるかもしれない危機的状況だけが新たな選挙を防ぐだろう、つまり、9月2日にラホイ政権ができるために社会労働党に「裏切者」が11名以上出て分裂の危機を迎えることを期待するというように受け取れる表明をした。これに態度を硬化させた社会労働党は、ラホイであろうがなかろうが国民党の政府は拒否することを決定した。
こうして 9月2日の再投票でも、前回と全く同じ数字で、ラホイ政権誕生は葬られてしまった。9月25日には異民族地域のバスク州と国民党の牙城であるガリシア州で州議会選挙が行われる。どの政党もそれで身動きが取れなくなるだろう。国会で首班指名に向けての動きが再開されるのは10月になってからである。果たして11月1日に政府が決定するだろうか。
シウダダノス党首の アルベール・リベラは国民党に「道をつける」候補者を挙げてくれ、つまりラホイ以外の首相候補者を出してくれと要求した。しかし政府は「クリスマス選挙」を避けるための選挙法改正を計画し始めた。つまり、あくまで「ラホイ首相」で突っ走るつもりなのである。
【『分裂・崩壊の扉を叩きつつあるスペイン国家(第2部)』(近日中に公表)に続く】
2016年9月20日 バルセロナにて 童子丸開
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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