ルネサンス研究所次回定例研究会のお知らせ
日 時 : 2017年2月20日(月曜日)
会 場 : 専修大学神田校舎7号館8階784教室
開 場 : 18:15~開始1830~21:00(直前まで前の使用者がいます)
テーマ : 「〈第三局型ポピュリズム〉の時代をどう見るか――イタリアの事例を中心に」
報告者 : 中村勝己さん(イタリア政治思想史 中央大学ほか兼任講師)
2017年は波乱の年になりそうだ。米国トランプ新大統領の一挙手一投足がメディアの耳目をさらっているが、それだけではない。今年は多くの国で政治指導者や国政の選挙が予定されている。EUの中枢諸国ではオランダの総選挙(3月)、フランス大統領選(4-5月)と国民議会選挙(6月)、ドイツ連邦議会選挙(9月)など。アジアでは香港行政長官選挙(3月)、第19期中国共産党大会(秋)、タイ総選挙(11-12月)、韓国大統領選挙(12月)など。
特にEU政治はこの2年間ほどのイスラム過激派によるテロ、中東難民の大規模流入、英国のEU離脱、米国のトランプ現象などをストレートに反映しやすいので、どのような結果となるか予断を許さない。現在注目されるのが、既成の左右の政治勢力の政策に飽き足らない有権者にアピールする〈第三局型ポピュリスト政党〉の伸長だ。オランダの自由党、フランスの国民戦線、ドイツのAfD(ドイツのための選択肢 Alternative für Deutschland)がそれにあたる(しかしまた、そうしたポピュリズムがスペインやギリシアのように新世代の左派を押し上げる力となる場合もある)。
これら政治勢力の特徴としては、2016年のシリア難民危機に際しては人道支援としての難民受け入れに反対して自国民の利益の擁護を優先すること、EU統合=グローバル化のさらなる進展に懐疑的あるいは反対であること、あからさまあるいは隠然たる人種主義(白人至上主義)であること、そして既成政党とは距離をとるあるいは一切非協力であること、さらにはメディア映りの良さを自覚的に追求していることなどが挙げられる。
不思議なことにイタリアの政治は、欧米政治の先取り的なモデルケースとなることが少なくない。旧くは100年弱前のムッソリーニ政治である。欧州にファシズムが拡大するのは1930年代に入ってからだが、イタリアだけは1922年の時点で政権掌握し25年から独裁体制に移行した。今回の〈第三極型ポピュリズム〉も、その原型は20年前のイタリアにあった。ベルルスコーニ政治だ。
シルヴィオ・ベルルスコーニは政治家に転身する以前に建築・不動産業ですでにイタリア随一の大富豪であり、民放テレビ局3局すべてを所有するメディア界の帝王だった。盟友だったクラクシ首相(当時。イタリア社会党書記長でもあった)が検察の大規模汚職捜査で失脚したことを承けて、ベルルスコーニは自らの資産や人脈を総動員して政界に進出した。すなわち一夜にして新政党フォルツァ・イタリアを結成(1994年1月)、この党は2か月後の上下両院選挙で既成政党への批判・不満を吸収し、両院で第一党に躍進した。ベルルスコーニの時代は、途中、中道左派(オリーブの樹)による政権交代を挟みながらも、ギリシア危機に端を発するイタリアの経済不安による辞任(2011年)まで20年近くに及んだ。
ベルルスコーニの首相辞任と前後して、イタリア政界の台風の目となったのがコメディアンのベッペ・グリッロが率いる新党「五つ星運動」である(2009年結成)。既成政党との協力を一切拒否すること(反汚職)、五つの価値(経済成長、水資源、持続可能な交通インフラ、環境保全、インターネット社会)の擁護、欧州統合反対、公的債務のデフォルトなどを掲げている。排外主義者ではない。2013年の上下両院選挙では中道左派対中道右派の二元的対決構造を突き崩して第二党に躍進した。2016年の地方選ではローマ市とトリノ市の市長を獲っている。こうしてイタリアにおける第三局型ポピュリズムは、明らかにポスト・ベルルスコーニの時代、すなわち第二幕に移行したと言えるだろう。彼らは一体、右なのか、左なのか?
今回の研究会は、ベルルスコーニ政治と五つ星運動に焦点を当てることで、イタリアにおける第三局型ポピュリズムの成り立ちと行方について考察する。それと併せて質疑応答では2017年の世界の政治を席巻しそうな勢いの、その他の国々の第三局型ポピュリズムの今後についても議論したい。