《私の三大課題に各紙はどう応えるか》
1 台湾海峡は米中戦争の震源地になるのか
2 戦後民主主義はついにファシズムに屈するのか
3 新資本主義は本当に可能であるのか
これは2022年に日本が直面している三大課題である。
三つは私(半澤)の恣意的な選定だが、読者にも大きな異論はなかろうと思う。今年の新聞各紙読み比べは、「オピニオン欄(主に社説)」が、この三大課題にどう応えてくれるかの検証を意図している。
この問題に精力的かつ具体的に答えたのは読売社説である。長文だが大筋は次の通りだ。
現在、世界には「金融資本主義」の歪みと「中国の軍事大国化」という、国際秩序と国家の安全を動揺させる二大要因がある。これが読売の基本認識である。
経済については、実体経済をカネが動かすようになった。市場原理の浸透から、中間層の没落、経済格差・分断の拡大が起こった。こういう社会の不安定化を、OECDも指摘している。岸田政権の「新しい資本主義」提案は一つの回答である。それは「投機から投資へ」と経済政策を転換する。企業内に蓄積された内部留保をその原資とする。それはシュンペーターのいう「イノべーション(新結合)」であり、成長と分配の好循環を通じて雇用創造にもつながる。分厚い中間層が復活する。
軍事的緊張に関しては、習近平の大国化路線が、香港一国二制度の放棄、尖閣や台湾海峡への圧力に表れている。安倍政権は「自由で開かれたインド太平洋」政策などで対抗しているが、情勢はなかなか複雑である。日本は対峙の「最前線」に位置することになった。
《具体策は強硬姿勢と融和姿勢の同時発動》
読売社説の処方箋は、国内に難題を抱えた中国と対中依存度の高い日本経済という環境の下で、日本は強硬姿勢と融和姿勢の両面を同時に実行すべしというのである。具体的には、自主防衛力の強化、日米同盟の深化、言うべきを言うべき時にいう外交、同盟関係を米国以外にも増やすことだとする。融和姿勢とは「戦略的互恵関係」の実現と読める。
国内政治も緊急課題が多い。夏の参院選に与党が負ければ「決められない政治」が再現する。岸田内閣は具体的な目標を提示して活路を見いだせと社説は結ばれる。
社説の裏面が安倍元首相へのインタビュー(1回目)である。興味深いのは、そこでの安倍発言がほぼ一字一句、社説と同一であることである。ただし本稿は、批判を極力禁欲して社説紹介に限りたい。批判、意見は別稿に譲ることにしたい。
産経社説は「年のはじめに」と題して論説委員長乾正人の署名がある。「タイトル」といえる文字は「さらば『おめでたい憲法』よ」となっている。軍事緊張に発して憲法改正までを論じている。結語部分を原文のまま掲げる。■から■
■世界は、米国を中心とした「民主主義国家」と中露を主軸とした「強権国家」が対峙する新たな冷戦時代に突入した。(略)もしもの事態が起きた場合、台湾在留邦人や尖閣諸島を抱える先島諸島住民の避難をどうするのか一つとっても何の準備もできていない。憲法や現行法が有事法制の邪魔をしているのであれば、改めるのが政治家の使命である。国権の最高機関である国会は、今年こそ真剣に憲法改正を論議せねばならない。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」国民の安全を図ろうという「おめでたい」憲法は、もういらない。■
《朝日・毎日・東京は引いた一般論》
朝日・毎日・東京の社説は、事例紹介など細かいところで違いはあるが、総じていえば、前述の三大課題に対して直接回答をせず、一歩下がって「新しい時代の考え方」への注目を誘なう提案であると読んだ。
毎日は、民主主義から権威主義へと転換する傾向が世界的に進んでいることを述べてから、「日本の状況はどうか」と自問し安倍・菅政権下で「異論を排除する動きが強まり、国民の分断が深まった」と断ずる。政府への信頼度がコロナ前後で下落していることを挙げ、沖縄県民投票で辺野古埋め立て反対が7割もあったのに、政府が「辺野古が唯一の解決策」に固執していることを例示する。そして、「民主主義の危機」を語る岸田文雄首相の責任は重いと書く。対応策については、フランス、スペインなどの市民参加による政治への反映を挙げているだけで物足りない。結語部分の「夏には参院選がある。人々が声を上げ、政治がその多様な意見を吸い上げる。市民と政治をつなぐ民主主義の力が試されている」という文章はまことに正論過ぎて迫力がない。
朝日は、デジタル企業によるビッグデータへの独占支配の危険と個人の権利を論じている。個人情報保護が遅れている日本では注目すべき論点である。「何より個人の尊重に軸足を置き、力ある者らの抑制と均衡を探っていかねばならない」という結語には平板だが注目しておきたい。
東京は「持続可能な開発目標」の分かり難さを論じて、「ざっくり『ほどほどのススメ』ぐらいに理解しておいても、あながち見当違いではないかもしれません」と結んでいる。
《日経の資本主義論は再認識を求めている》
以上5紙に対して日経社説は「資本主義を鍛え直す年にしよう」というタイトルで堂々たる資本主義論を展開している。私は従来、「日経損得史観」とか「相場新聞の成り上がり」と日経を揶揄してきたが、歴史観を加えた危機感や再生論は新しい日経らしさを表現しており、私は再評価の必要を感じ始めている。勿論、違和感・批判はあるが、禁欲説を再度発して今年の「全国紙オピニオン読み比べ」の筆を擱く。(2022/1/2)
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