9条は「風前の灯」、今こそ護憲の大運動を ――読者の皆さんに新年のごあいさつ

明けましておめでとうございます。
当ブログ「リベラル21」がジャーナリスト仲間らを同人としてスタートしたのは、2007年3月でした。ですから、当ブログはきょうで8回目の正月を迎えました。
当ブログは、記事を毎日更新しております(原則として日曜日は休載)。スタート当時はブログという情報伝達手段に不慣れなうえに記事の確保にも苦労し、果たしていつまで続けられるかと同人一同とても不安でした。ですが、まもなく創刊満8年を迎えます。これも読者の皆さんが支えて下さったからです。厚く御礼申し上げます。

ところで、私たち同人がこのブログを始めるにあたって掲げたのは「護憲・軍縮・共生」の3文字でした。私たちが目指すべき道は、こうした3つの理念に集約されると考えたからです。日本国憲法を護り、活かす。軍備の撤廃あるいは縮小を目指す。果てしなき競争を続けるよりも互いに助け合い、共に生きる。と同時に、自然を破壊するよりも自然と調和して生きよう――というわけです。ブログに掲載する原稿も、できるだけこうした理念を推進するのにふさわしいものを、と心がけてきました。

それから、まもなく8年。当ブログが実現を目指す3つの理念のうち「護憲」をめぐる状況は大きく変わりました。
ブログがスタートした時の内閣は、第1次安倍晋三内閣でした。この内閣は「戦後レジームからの脱却」を掲げ、日本国憲法改定を公然と唱えました、そして、改定への地ならし作業ともいえる施策を次々と進めました。教育基本法の改正、防衛庁の防衛省への昇格、日本国憲法の改正手続きに関する法律(国民投票法)の制定などです。

しかし、2007年7月の参院選挙で与党(自民・公明)が大敗し、野党の民主党が参院で第一党になりました。これを受けて、雑誌『世界』10号は「否定された『安倍改憲路線』――逆転参院選とその後」という特集を組んだほどでした。
第1次安倍内閣は他の要因もあって同年8月に退陣。その後は同じく自公両党を与党とする福田康夫内閣、麻生太郎内閣、民主党政権の鳩山由紀夫内閣、菅直人内閣、野田佳彦内閣と続きますが、いずれも「憲法改定」を政治目標として前面に出すことはありませんでしたから、改憲問題が政治上の最大問題として浮上することはありませんでした。
ただ、この間、注目すべき動きがありました。民主党政権下の2012年4月、自民党が日本国憲法改正案を発表したことです。その中で、同党は「国防軍」の保持を明記しました。

でも、第2次安倍内閣の登場(2012年12月26日)によって様相は一変します。安倍首相はまたもや「改憲」を公然と唱え、それに向けての地ならし作業を着々と進めてきました。まず、国民の「知る権利」を脅かすのでは、との批判を押し切って特定秘密保護法を成立させました。日米間の軍事的協力体制を強化するためには防衛機密の漏洩を防ぐ必要があり、そのための法律ではないかと指摘する声が今なお絶えません。
次いで、首相が持ち出してきたのは憲法第96条の改定でした。これは、憲法改定の手続きを定めた規定で、「憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」とあります。ここにある「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で」という規定を緩和したいというのです。つまり、改正に必要な壁の高さを引き下げて、衆参両院の議員が改正の発議をしやすくしようというわけです。これは、国民各層から「姑息なやり方」「立憲主義をないがしろにするもの」との批判を浴び、この問題はいつのまにか立ち消えとなりました。

それに代わって安倍政権から打ち出されてきたのが「憲法解釈によって集団的自衛権の行使を容認する。それも閣議決定で」という方針でした。
これまでは、日本国憲法第9条は集団的自衛権の行使を認めていない、とされてきました。だから、自衛隊は海外で外国の軍隊と一緒に戦うことはできない、と言われてきました。しかし、閣議決定で集団的自衛権の解釈を変え、日本もこれを行使できるようにする、というわけです。「これでは、まるで実質的改憲ではないか。そんなめちゃくちゃなことを許してはならない」との声が高まりましたが、安倍政権は昨年7月の閣議で集団的自衛権行使を容認しました。もっとも、閣議決定だけでは集団的自衛権の行使はできないので、次はこの閣議決定を具体化するための安保法制の整備が予定されています。
12月29日付の朝日新聞は、安倍政権が、新年の通常国会に、自衛隊による米軍など他国軍への後方支援を常に可能にする新法(恒久法)を提出する検討に入った、と伝えています。

暮れの総選挙では、自公が「大勝」しました。選挙演説では改憲や集団的自衛権についてはほとんど話さなかった安倍首相ですが、「大勝」が明らかになった12月14日夜、憲法改定に向けた議論を推進すると表明。第3次安倍内閣を発足させた同月24日夜の記者会見でも、経済政策「アベノミクス」、集団的自衛権の行使容認にともなう安保法制の整備、原発再稼働などを推進することを強調し、憲法改定についても「歴史的なチャレンジと言ってよい。どういう条文から国民投票を行うのか、またその必要性等について、国民的な理解を深める努力をしたい」と意欲を示しました。

総選挙で基盤を固めた安倍政権は、向こう4年間続くことが予想されます。その間に、安倍首相は念願の明文改憲を成し遂げたいと目論んでいるでしょう。当面のターゲットは2016年7月の参院選挙のはずです。参院では、与党はまだ三分の二まで届いていない。ここで三分の二を超えることができれば、衆参両院で改定の発議が可能になります。安倍政権はおそらく、一気に国民投票実施へ向かうのではないか。
こうみてくると、先の総選挙の結果、日本国憲法の改定が極めて現実味を帯びてきた、と言えます。

今年は、アジア太平洋戦争敗戦の1945年から70年になります。明治維新(1868年)から1945年までの77年間、日本は台湾出兵、日清戦争、日露戦争、第1次世界大戦、シベリア出兵、満州事変、日中戦争、ノモンハン事件、アジア太平洋戦争……と、戦争ばかりしていました。そうした事実を知ると、この70年間、よくぞ平和が続いてきたものだと思い知らされます。これには、9条の規定をもつ日本国憲法の存在が大きく影響していた、日本国憲法が世界と日本で果たしてきた役割は極めて大きい、とみていいでしょう。

しかるに、すでに述べましたように、その日本国憲法の改定が、極めて現実味を帯びてきました。ということは、日本国憲法は今や、まさに危機的な状況下にあり、いわば「風前の灯」なのです。ならば、日本国憲法をこれからも「日本の灯台」としたいと願う人々には、これから先予想される国民投票に向けた護憲の大運動が求められるというものでしょう。決戦場は国民投票ですから、それまでに、国民の過半数を護憲側に引きつけることができるかどうか、が勝負の分かれ目になります。

まだ絶望するには及びません。読売新聞社の全国世論調査(2014年2月22~23日、面接方式)によれば、憲法を「改正する方がよい」と思う人は42%、「改正しない方がよいと思う人」は41%だったという。憲法をめぐる国民世論は拮抗しているとみていいでしょう。護憲派が勝つ可能性は十分あります。
おそらく、改憲派はメディアも動員して総力戦を展開するに違いありません。したがって、護憲派に求められるのも総力戦で、集会、講演会、学習会、映画会、出版活動などあらゆる手段を講じて護憲を訴えてゆくことが求められます。
当ブログも引き続き護憲の論陣を張ってゆきます。

とくに若い人たちをどちらが引きつけるかが勝負の帰趨を決めるのでは、と思われます。毎日新聞社と埼玉大学社会調査研究センターによる世論調査「日本の世論2014」(2014年10月15日~12月初旬)によると、「憲法を読んだことがない」人は、全体では7割、20代は86%に達した。若い層への働きかけが急がれるというものです。

それに、護憲派に求められるのは大同団結です。分裂は運動を弱める。戦後70年の社会運動の歴史が示す教訓です。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2858:150101〕