9条改憲阻止の会 メール通信 20200315 <特集>新感染症対策からはじまるファシズム

3月14日午後6時半からアカデミー文京において新感染症口実の非常時体

制を問う緊急討論集会と題して、緊急事態条項を含む新インフルエンザ特別措

置法の検討を軸に、新コロナウィルスの現状とその対策と政府による対応につ

いて批判を加えました。メール通信の特集として、この緊急討論会で配布され

た資料を紹介していきます。

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新型コロナウイルスはどう落ち着くのか?       加藤 茂孝

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加藤 茂孝さんのプロフィール

1942年生まれ、三重県出身。東京大学理学部卒業、理学博士。国立感染症

研究所室長、米国疾病対策センター(CDC)客員研究員、理化学研究所チー

ムリーダーを歴任。専門はウイルス学、特に風疹ウイルス、麻疹・風疹ワクチ

ン。妊娠中の胎児の風疹感染を風疹ウイルス遺伝子で検査する方法を開発。主

要著書:『人類と感染症の歴史』(2013年・丸善出版)『続・人類と感染症の

歴史』(2018年・丸善出版)

 

2019年12月に中国湖北省武漢から始まった新型コロナウイルス感染症は、

2020年2月10日段階で、感染者が4万人を超え、911人の死亡者が出ており、まだ

終息の気配が見えない。

2002年に発生し、2003年に世界に拡散し世界経済にも大きな影響を与えた

SARSに比べても感染者数、死亡者数は多くなった。

早い段階でウイルスが分離され、それはコロナウイルスであり遺伝子配列か

らSARSウイルスに近く、コウモリ由来であろうと推測された。臨床像以外にウ

イルス遺伝子を検出するPCRで確定診断が行われている。2003年に比べて技術的

進歩は画期的である。

コロナウイルスというのは、電子顕微鏡で見たウイルスの形が、太陽のコロ

ナに似ているから付いた名前である。

今後の感染拡大の帰結が分からないので決定的なことは言えないが、いくつ

か分かっていることがある。

(1)ヒト・コロナウイルスの中での位置付け。

人に感染するコロナウイルスとしては7番目の発見であり、その内1-4番は通

常の風邪症状を示すウイルスに過ぎない。その後、SARSとMERSが見つかり病原

性の高いヒト・コロナウイルスがあることが分かった。今回の新型は、病原性

で言えば、両者の中間であろうと思われ、極めて楽観的に推測すれば、来年以

降は通常の風邪コロナウイルスの5番目として落ち着くかもしれない。河北省

以外の中国内での死亡率は、今のところ0.2%と低いのがその一つの根拠である。

(2)なぜ、武漢市では死亡率が高いのか?

これは初期対応の失敗が一つの原因と思われる。感染症対策は、偏に「早期発

見・早期対処」に尽きる。12月時点で、通常の肺炎とは違うので、要注意とい

う指摘をした医師の発言を、市・省・国家のいずれかが経済的な損失などをお

それて抑えた事が被害を拡大させた。SARSの場合と同じことが起きた。しかも、

人口の増大や、人の移動の規模がわずか17年で各段に大きくなっている。

(3)第二の原因は、大量の患者が一度に発生した時の医療インフラが追い付

かなかった事。非流行時にこそ医療インフラの整備、医療従事者の訓練、備品

の補充システムなどの確立をしておかないと、流行時では時間的に間に合わな

い。初期に正確な情報発信をして早期に対処しておけば、患者の殺到をもっと

緩やかにできたはずであり、患者への適切な医療措置ができ、救命率も上がっ

たと思われる。患者の殺到ピークをなだらかにする対策こそが重要になってく

る。

(4)死亡者の特徴。

多くは、高齢者で且つ基礎疾患(糖尿病、高血圧、肝臓疾患、腎臓疾患など)

のある人である。加齢と基礎疾患は、免疫力を低下させる大きな原因である。

免疫力低下者が感染症で死亡しやすいのは、インフルエンザなど他の感染症で

も同じである。インフルエンザは、推計では0.1%程度が死亡する。つまり

1000万人の患者が出ると1万人の死亡者が出ている。実際にそのほとんどは、

免疫低下した高齢者である。まだ予断を許さないが、新型コロナウイルスは通

常のインフルエンザによる健康被害よりも低い可能性がある。

(5)武漢隔離の効果。

中国政府は武漢を隔離した。WHOがSARS発生の場合に不急の人の渡航自粛勧告で

抑えた教訓に則っている。これはSARSのみならず、ペスト流行以来の感染症に

対する古典的で基本的な対策である。ただ、隔離実施が、遅かったのではない

かという疑問が残る。隔離実施前に半数が武漢を後にしているという報道があ

るからである。

(6)人類と感染症。

新型コロナウイルスが一段落した後も、人類の生存が続く限り新興感染症は出

てくる。人類と動物とは人類の発生以来共存しているが、資源開発、人口の増

加、航空機の発達、経済活動の増加など動物居住地域と人との接触機会がます

ます高まり、新興感染症出現の可能性は消えない。つまり、「常に備えよ」で

ある。人類のリスクマネイジメントとして、温暖化防止、核兵器根絶と同じよ

うに、感染症対策は極めて重要である。その意味からも、新型コロナウイルス

へ賢く、冷静に対応しなくてはならない。

(7)不安感情の最小化。

人間の行動の基盤は、理性ではなく感情であり、その中でも不安感情に動かさ

れやすく、そのコントロールは大変難しい。感染症対策も、過去の歴史に学び、

知識を積み上げてうまく備えて対応し、不安感情を減らす以外に成功し得ない。

そのためには正確で信頼すべき情報を発信し続けて行くことが基本であり大切

である。情報不足こそが人々の不安を掻き立てるからである。

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次回以降掲載予定

・今はどんな段階なのか?新型コロナウイルスについて(加藤 茂孝)

・コロナ危機に便乗、改革に布石

安倍政権の新型インフルエンザ特別措置法「改正」(酒井 雅已)

・新型コロナウイルス・その現状と対策(大賀 英二)

・新コロナウィルス対策口実の非常時体制を許さない (原 秀介)

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〔opinion9546:200316〕