●『被ばく列島』(小出裕章・西尾正道著:角川ONEテーマ新書)
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033163383&Action_id=121&Sza_id=C0
1.原発の立地周辺地域でも、がんが多発している 北海道泊村のデータ
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
また世界的には原発事故が起こらなくても原発立地周辺の子どもの健康被害は報告されています。実際に北海道の泊原発なんかの周辺地域では、がんの患者数がダントツに多い。道内平均の1.4倍程度です。岩内町と積丹町は近隣町ですが、これらの原発周辺地域でも年齢補正をしてもがん死亡率が増えています…。この集計は北海道庁管轄の北海道健康づくり財団(理事長は北海道医師会会長)によるものです。事故が起こらなくても水の形で存在してβ線を出すトリチウム(三重水素:H3)が関係しているのだと、私は思います。この問題は本当に難しく、放射化したものが水の組成になっていますから、体の中に入ったら分離できないし、測定できないでしょう。福島事故後に続いている海洋汚染水にも大量のトリチウムが含まれています。
私の友人である獨協医科大学放射線医学講座の名取春彦医師は、DNA合成期の細胞のDNAにトリチウムが取り込まれていることを画像で証明しています。
(中略)実際にカナダの重水を用いる原子炉(CANDU炉)のトリチウム排出と、その結果の周辺地域に住む子どもたちの健康被害(ダウン症、新生児死亡率、小児白血病)の増加が報告されています。
(中略)関西電力は美浜、高浜、大飯の3原子力発電所から2010年度(2010年4月~2011年3月)の1年間で13.4兆ベクレルのトリチウムを、液体の形だけで(若狭湾に)放出しています。
生命現象に重要な役割を果たしているすべての化合物の中には水素原子がありますから、その放射化した水素が影響はないとはいえません。分かっていないだけの話です。ですからまったく無根拠にトリチウムは影響がないという政府の言い訳は説得力がありません。原発を稼働させるだけで、事故が起こらなくても、トリチウムは大量に海に放出されますので、原発稼働そのものが健康被害の原因となりえるのです。
2.根拠となる被ばく実測データがない
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この間、甲状腺がんが問題になりましたけど、甲状腺の被ばく線量だって根拠となる実測したデータが全然ない。科学の基本的姿勢は現実のデータを把握することから始めなければなりませんが、こうした基本的な姿勢がなさ過ぎます。科学者としては失格です。それは事実を隠す姿勢にもつながりますし、具体的なデータがなければ国や東京電力にとっては訴訟されても有利です。事故直後に当時の国立がん研究センターの嘉山孝正理事長が大量に準備したガラスバッジ…は、政府レベルで配布を止められました。しかし今になって、帰還を促すために住民にガラスバッジを配りだしました。
(中略)また何よりも、福島県内で空間線量率の高いところに住む人たちの生涯にわたる被ばく線量を測定して、長い年月をかけてどういう健康被害が出るかという実測値との相関をきちんと分析する対応が一番大事なことだと思います。もちろん小児の甲状腺がんの検査だけではなく、職業被ばくに準じた地域に住まわしているわけですから法治国家であるならば住民全員に対して、法律に従って放射線に対する教育訓練や健康診断をするべきです。
3.セシウム・ホットパーティクルに注目せよ
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しかし、つい最近になって、気象研究所の人が汚染をずっと調べて、試料を少しずつ分画していったら、セシウムは分散しているわけじゃなくて、塊で存在していることを見つけた。溶けていなくて、粒子になって、他の金属なんかと多分、混合して合体して、粒子として存在している。そうすると溶けないんです。
それはセシウムが放射性微粒子として存在しているということ、いわゆるセシウム・ホットパーティクルですね。
事故後に生じた鼻血もこうした大気中に浮遊した塵と結合したセシウム・ホットパーティクルを吸い込み、湿潤した鼻腔粘膜に付着したため局所的に被ばくしたことによるものだと説明がつきます。2013年8月末の『ネイチャー』電子版に筑波の気象研究所で事故後の大気中の浮遊塵を捕集した研究で、放出されたセシウムを高濃度に含む不溶性の球状微粒子について足立光司氏が報告しています[図表20]。ICRPは低線量被ぱくの影響をブラックボックス化していますが、これが体内に影響するわけですから、かなり考え方を変えるべきだと思いますし、低線量被ばくによる諸症状の説明もつきます。
4.瓦礫を燃やした結果
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こういう低線量のところに住むことは、単純に空気中の問題だけではない。例えば瓦磯を北九州市が行って、燃やした。2013年1月15日の九州各県(佐賀県・福岡県・長崎県・熊本県)の空間線量率グラフを見ると、見事に福岡県だけが、瓦磁を燃やしているので高くなっています…。周辺の他の3つの県は、0.05マイクロシーベルト/時ぐらいで平坦に推移しているのに、福岡県だけが高い。
2-1.ガラスバッジの罠
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
放射線が当たったバッジの中にある特殊なガラス素材は紫外線窒素レーザーを当てると発光する(ラジオフォトルミネッセンス現象)ので、その蛍光量を測定し、被ばく線量を測ります。しかしこのガラスバッジは放射線の方向性に絡んできますし、背後からの放射線は体を通過してからガラスバッジに当たりまずから減弱して測定されます。また外部被ばくの線量は、1センチメートルの深さの線量で代替えするので、空間線量率からの計算と比べると低い値となり、被ばく推定値の約60%となります。
事故直後のように線量が高い場合は、ガラスバッジはそれなりに被ばく線量の評価手段として使用できます。しかし3年も経過した今では、実際に被ばくした線量の4分のl程度しか出ないし、さらに線量が低い地域では感光限界(100マイクロシーベルト)の問題もあり、20分のl以下となるともいわれています。低く出た測定値を振りかざして為政者は帰還政策の1つとして利用しようとしているのです。ガラスバッジで低い測定値を根拠に帰還を促す罠には気をつけてもらいたいと思います。
実際にいろんな職種がガラスバッジを使っていますが、最も被ばくしている診療放射線技師でも平均0.8ミりシーベルトで、医師は0.31ミリシーベルトです。またこうした職業被ばくをモニタリングしている人たちは、放射線防護の教育訓練や健康診断が義務づけられています。そういう点では、ガラスバッジを配って、少ないからといって、帰還させようとしていますが、これ自体も大変大きな問題です。ガラスバッジを持っている人は、職業被ばくの範疇として考えて、放射線についての教育訓練と最低限年1回の健康診断をするのが筋です。
2-2.除染についても物申したい
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
また除染に関しては無駄なことをしています。政府は除染の目的は50%といっているが半減期約2年のセシウム134の時間的な減弱が40%、10%が除染作業で、トータル50%という、そんな馬鹿げた計算をしているわけです。安心安全プロジェクトの吉田邦博さんの実測データでは、家の外壁と室内の内壁を比較すると、壁の遮蔽率は12%程度ですし、除染前と除染後の比較では低減率は25%です。しかしこの低減率の20%は半減期2年のセシウム134の自然減弱によるものです。
(中略)また、つねに政府や行政のやっていることは、後出しジャンケンです。だから人間では体表面汚染が6000CPM(カウント・パー・ミニッツ)以上は除染が必要とされていますが、SPEEDIのデータ公開を止めた県知事は、2011年3月13日には1.3万CPMまでOKとし、さらに翌14日には基準を10万CPMにまで引き上げました。とんでもない数値です。
また政府は年間1ミリシーベルトを、これは無理だと思ったら、20ミリシーベルトに上げる。作業員は緊急時100ミリシーベルトだったのが、急逮250ミリシーベルトまで上げる。・・・・・
2-3.放射線の概念とその単位
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
放射線に関する単位と概念のまとめを図表27に示しますが、人体の影響を考える場合の実効線量シーベルト(Sv)は、吸収線量(Gy)× 放射線荷重係数×組織荷重係数、となります。なお、1Sv=1、000mSv=1,000,000μSvです。人体への影響は単にSvの単位を用いて考えています。しかし、実際の影響は、時間的因子(急性か慢性か)、被ばくした範囲(全身か局所か)、被ばく形態(外部被ばくか内部被ばくか)によりその影響は異なります。
ところで、医療法や放射線障害防止法では放射線発生装置を設置している病院などの放射線管理区域は、3カ月で1.3ミリシーベルト以上、管理区域の境界から出していけないと決まっています。放射線管理区域では労働基準法で18歳未満の就業は禁止され、また医療法では飲食が禁止されていますが、今は妊婦も子どもも住まわして、飲み食いもさせているという状態です。労働基準法違反や医療法違反をしている異常な事態です。
また調べていて分かったことは、ICRPが年間1ミリシーベルトを一般公衆の基準にしているのですが、日本にはこうした基準はなく、原子力規制の法律において原発敷地外には年間1ミリシーベルト以上出してはいけないという法律があるだけです。
(中略)セシウム137のエネルギーは662キロエレクトロンボルト(KeV)です。(人間の体内の水の水素と酸素の結合エネルギーに比べて:田中一郎が補記)約10万倍高いエネルギーです。なぜこんなに違うエネルギーの問題を考えないのか。海洋汚染の問題でトリチウムは分離できず大量に海に流出していますが、最近になって政府はトリチウムのエネルギーは低いので人体への影響は少ないと弁明していますが、冗談ではない。
トリチウムの平均エネルギーは、5・7KeVぐらいですから、体内の電気信号の約1、000倍です。原発稼働により、トリチウムは事故が起こらなくても大量に海に出されていますから、周辺地域の人たちの健康被害はトリチウムが関与していると私は考えているくらいです。
(中略)それから30~40年前は中性子線による放射線治療の研究がなされました。それは、同じエルギーでも普通のX線やγ線、β線より1.7倍くらいの殺細胞効果がある。同じ放射線の量でも1.7倍くらい細胞に障害性を持つということで中性子線が注目されました。しかし深部に到達することが難しかったので中性子線治療は止められ、今やられているのは、陽子線とか炭素イオン線を使った粒子線治療です。
(陽子線とか炭素イオン線などの粒子線治療装置は:田中一郎が補記)X線やγ線、F線に比べて、1.1~3倍程度の強い効果があるとされています。それは線エネルギー付与(LET=リニアエネルギートランスファー)という言葉で説明されますが、同じエネルギー量の放射線でもどんな放射線の種類かによって軌道内の電離密度の違いがあり、細胞障害性が違います。炭素イオン線などは高LET放射線で、通常の診断用に使用するX線は低LETの線質です。核反応生成物は最も高いLETの線質です。従って、より影響が強いのです。
2-4.海洋汚染は、なぜ深刻か
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しかし現在のような放射能汚染水の流出が発表される前のものですから、今はもっと深刻だと思います。海洋汚染の情報をキャッチしている情報大国の米国は2013年の7月に、緯国は9月に日本の海産物の輸入を規制しました。韓国が規制した時に新聞は大きく取り上げましたが、実は米国が7月にいち早く規制し、9月にはさらに規制を拡大しています。報道されませんが、本年(2014年)5月23日現在、63カ国において放射性物質による汚染に関わる輸入規制が行われています。
(中略)(放射性ストロンチウムが:田中一郎が補記)神経細胞間の神経伝達物質の組成成分の1つであるカルシウムと置換し、本来の神経伝達物質としての機能を果たせなくなる。そういうことで何が起こるかというと、自閉症スペクトラムの症状に似た発達障害を生じるという可能性です。ストロンチウムも発がんだけでなく発達障害に関与している可能性も考える必要があります。
(中略)核分裂は基本的には、質量数約130~140のセシウムやヨウ素と質量数約90前後のストロンチウムなどにほぼ等分に分裂して自然界に出されますので、ストロンチウムは大量に海に行っています。測定していないだけの話です。またストロンチウムは骨に取り込まれますから、白血病などの骨髄疾患の発症をもたらします。そのためセシウム以上に純β核種のストロンチウムのほうが実際には深刻だと思っています。
(中略)セシウムは体内ではカリウムと類似した動態ですので、カリウムとチェンジすることによって、心筋の伝導障害を起こし、ポックリ死の原因となります。年をとってから冠動脈の血管障害で心筋梗塞を起こすのとは違って、不整脈や心伝導系の障害を起こします。カリウムは多くても少なくても心拍の異常をきたします。米国では死刑執行にカリウムを点滴し心臓を止めています。
3-1.ただの民間機関にすぎないICRP
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
事故前、原子力発電の安全神話をばら撒いてきましたが、事故後は、安全神話が崩壊初したので、新たに安心神話を作り出しています。その根拠を与えているのがICRPです。1928年に設立された「国際X線およびラジウム防護委員会」は放射線の医学利用を考慮して作られましたが、50年に名称を変えてICRPとなり、その目的は人体への健康被害を最低限にするということよりも原子力政策をすすめることにシフトしました。
ICRPは、第一委員会が外部被ばく委員会、第二委員会が内部被ばく委員会でしたが、52年に内部被ばく委員会の審議を打ち切ってしまいました。そこから報告書が出たら原子力政策を進められない事態となり、困るからです。内部被ばくを隠蔽する歴史は52年から始まっているのです。
(中略)また、このICRPは目的に沿って物語を作り、報告書や勧告を出します。「闘値なしの直線仮説」が国際的なコンセンサスとなっていても、日本政府は100ミリシーベルト以下では放射線の健康被害は因果関係を証明できるほどの影響は見られないと主張しているのが、その典型です。多くの医学論文で、100ミリシーベルト以下でも健康被害は報告されていますが、ICRPは調査もせず、反論もしません。研究機関ではなく、ただの会議を開催して報告書を出す委員会だからです。
(中略)また、御用学者はたくさんの研究費という名目で資金援助を受け、それで飯を食っています。メディアも最大のスポンサーは電力会社、だから、きちんと真実を伝えない。こうした構造が国際的に出来上がっており、まさに原発利権に群がる国際原子力マフィアとなっているのです…。また、原発事故後の各種委員会や有識者会議の構成メンバーは基本的には御用学者といわれる人たちで占められています。
(中略)そうした専門家とか有識者という人たちは、現場感覚があるかというと、ありません。現場で放射線を扱っているわけではなく、自分が被ばくする環境下で仕事をしているわけでもありません。ただICRPの報告書に詳しいというだけなのです。日本を代表して原子力ムラから旅費も支給されて国際会議に出席しICRPの内容を大学などで講義し、それが給料になり、それで食っている人たちです。ICRPの報告書の内容に詳しいだけの机上の人が、いわゆる専門家とか有識者と称しているから国民目線を失い、ピントが狂い、政府の意向に合わせた報告を作ることになります。
3-2.確率的影響と確定的影響
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
50から2003年まで、50余年、広島・長崎の被ばく者約12万人をフォローした追跡調査によれば、30歳で1シーベルト浴びたら、70歳の時に肺がんや胃がんなどの固形がんで死亡するリスクは、被ばくしていない人に比べて42%増加し、被ばく時の年齢が20歳だったら、リスクは54%に増えるという報告が2012年にABCC(放影研)から出ています。
前出のICRP103勧告(2007年)では過剰発がんは、1シーベルトにつき5.5%としていますが、時間が経たなければ分かりません。人聞がある程度は放射線に順応するかもしれませんが、実際にはもっと高い被害確率の可能性があります。
また健康被害に関して、教科書的には確率的影響と確定的影響に分けて考えられていますが、これはあくまでも理解しやすいようにした便宜的なものです。すべての人に生じるような大量の被ぱくの場合は閾値があり、確定的影響とされ、4~5シーベルトでは腸管死や骨髄死が起こるとされています。しかし、これは発症したり死亡したりする閾値であり、それ以下でも確実にには影響を与えているのです。そのため急性期の症状で死ななくても長期間の経過の中でいろいろなトラブルが生じる可能性があります。
(中略)白内障は闘値があるかどうかは医学的には明確には分かっておらず、閾値はないか、あったとしても1グレイ程度ではないかと考えられているが、確定的影響とも確率的影響とも判断できないのです。
3-3.放射線防護の現状
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
放射線を取り扱う従事者を守る法律として、「原子炉等規制法」「放射線障害防止法」「労働安全衛生法」など、さまざまにあります。例えば、3カ月に1.3ミリシーベルトを超えて被ばくしてしまうような場所は、放射線管理区域に指定して、放射線量や空気中の濃度の測定・監視をしなければいけません。そしてその場に立ち入る労働者を「放射線業務従事者」に指定し、個人の被ばく管理もしなければいけません。その上で、5年間で100ミリシーベルト、1年にすれば20ミリシーベルト以上の被ばくをしてはならないと決められています。
そして、放射線管理区域の中でも、労働者が容易に触れることができる壁などの表面は、1平方メートル当たり40万ベクレル以上の放射性物質で汚れていてはいけないという規定もあります。そして、管理区域から外に出る時には1平方メートル当たり4万ベクレルを超えて放射性物質で汚染されているものは持ち出しを禁止されます。そのため、放射線管理区域の出口ドアの前には汚染の検査装置が置いてあって、そこで測定した結果、1平方メートル当たり4万ベクレルを超えて私の実験着や手が汚れていれば、ドアが開かない仕組みになっています。
3-4.核の無害化技術は実現性なし
(以下、一部引用)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ウランという元素をもってきて、それを核分裂させれば、セシウムという元素ができる、ストロンチウムという元素ができる、ヨウ素もできる、量の多寡を問わなければ、金だって銀だって白金だってできていて、錬金術はできることがすでに分かっているわけです。それであるなら、作ってしまったセシウム137、あるいはストロンチウム90に錬金術を施して、別のものに変えてしまえばいいじゃないかということは容易に分かります。
3-5.最後にこの本の最後のところ、P189とP191に「日本の発電設備の量と実績」という表が出ています。ちょっと、その一部を書き出してみましょう。
● 2010年 福島第1原発事故前
電源設備量万KW 設備利用率%
電力会社 水力 4385 19.3
火力 13507 46.7
原子力 4896 67.2
その他 60 49.4
合計
自家発電 5384 50.6
総合計 28232 46.7
● 2012年 福島第1原発事故後
電源設備量万KW 設備利用率%
電力会社 水力 4465 17.2
火力 13980 60.0
原子力 4615 3.9
その他 62 51.5
合計
自家発電 5611 55.3
総合計 28733 43.4
この数字は、日本の電力供給に関して、次のようなことを示していると言えます。
(1)福島第1原発事故前は、図体がでかくて融通のきかない原発を優先して稼働させ、それを火力が調整していた。ところが福島第1原発事故後は、全ての原発が止まり、火力が主力の発電手段として前面に出てきた。火力は、福島第1原発事故後においても、マスコミがヒステリックに「電力が足りない」「電気が足りない」と騒ぐほど稼働率は高くなく、余裕含みである。
(2)自家発電が大きなウェイトを占めており、かつ福島第1原発事故後は増大傾向である。この自家発電を重要な電源と位置づければ、更に日本の電力の供給体制は余裕が出てくる。現状は、理不尽にも、地域独占の既存大手電力会社の経営と利益が優先され、こうした自家発電が広く社会的なインフラとして多くのユーザーに使われるための「仕組み」ができていない(例えば配電網整備:妨害されている)。電力の自由化が極度に遅れている。
(3)にもかかわらず、真夏に「電力危機」などと言って騒いでいるのはなぜか。それは、いわゆる「ピーク電力」の調整=夏のほんの一時的な電力利用ピーク時を平準化する仕組み・努力・政策が決定的に欠けていて、むしろ、そのピークを放置して「電力危機」を演出して、世論をあおっている様子がうかがえることだ。ねらいはもちろん原発再稼働にある。「電力危機」を煽る最大の馬鹿ものは新聞・雑誌・TVなどのマスコミである。
(4)自然再生可能エネルギーへの取り組み努力がなおざりにされている。こんな状態で、先般、九州電力他5社の地域独占大手電力会社は、法律で義務化されている自然再生可能エネルギーの買い入れを拒否し始めた。
(5)電力業界と、それにまとわりつく利権集団こそが、日本最大の「抵抗勢力」である。これを崩壊させることができるのは、みなさま一人一人、つまり有権者・国民・市民です。みなさまの清き一票を自民・民主・及びその補完勢力以外へ、そして、みなさまの浄財を、大手電力以外の電気へ。
原発を廃棄することは、単純に原発を止めることではなく、原発レジームという日本の今のありようを変えることです。誰かがやってくれることはありません。みなさまが「変わる」しかないのです。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5036:141031〕