[鎌倉平和学習会]鎌倉市教育長との会見報告

[鎌倉平和学習会]鎌倉市・岩岡寛人教育長との会談報告(会談:2021年6月3日)

 

良き未来とは、今の子どもたちを大事に育むことでしか手に入らない。日本も批准している「子どもの権利条約」が謳うように、子どもは子どもとして権利の主体です。私たち「鎌倉平和学習会」はそう確信して、日々の活動を続けています。
一方GIGAスクール構想は、菅政権が注力する「デジタル庁」に連動した政策に思えてなりません。3月に成立した「デジタル改革関連法」はデジタル庁を支える一方、人権侵害を危惧されています。鎌倉市で学ぶ子どもにとって、良いこともあるでしょうが、私たちはさまざまな懸念も持っています。
そこで私たちは鎌倉市が直面する教育問題をテーマに、鎌倉市の岩岡寛人教育長*に会談を求めました。先立って質問を届けておき、6月3日に面談したものです。みなさんに以下のように報告します。

■GIGAスクール構想に対する教育長の考え
society5.0を実現する人材をつくるとか、経済発展のための教育という考えへの心配はよく聞くが、これらは経産省主導で構想された。GIGAスクールを実現する環境の整備は元々文科省が望んでいたこと。予算の問題でなかなか進まなかったが、コロナ禍になって政府の補正予算でWi-Fi、1人1台端末が一気に整備された。子どもに寄り添うこと、子どもが生きる将来社会にできるだけ対応できるようにしてあげることを大切に考えている。
■GIGAスクールサポーターの契約
各校に人を配置できるほどの予算はない。コールセンター方式を採り、問題があったときは電話すると学校に駆けつけるという体制。[鎌倉平和学習会〈注〉:これは一般校の場合。推進校の深沢小、腰越小、腰越中は民間企業の担当者を配置]
■個別最適化
オンライン学習プログラムの活用による個別最適化は、学習の躓きがあった場合、どこで躓いたか、躓いたところまで戻ってやり直しができるAIドリルを、小テストの代わりに使おうと考えている。小テストをAIドリルに置き換えれば先生の負担はその分少し減らせる。新学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」をAIドリルでできるとは考えていない。AIドリルの導入予算は鎌倉市持ち。iPadは国。6月中に契約し、使用は7月から。
■情報の扱い
子どもの名前、住所は市が把握。民間業者が持つ情報は匿名でということになる。民間業者に学習履歴を取得させない権利を主張する父兄がいたら、その子にはAIドリルは使えない。その場合、個別に相談してもらうことになると思う。端末から得られる情報は学習履歴のみ。
■少人数学級とGIGAスクールの関係
GIGAスクールだから少人数学級にしなければと思っている。対話的な学びは少人数学級でなければ難しい。Wi-Fi、端末の整備で、主体的・対話的で深い学びの環境が整ってきた。
■デジタル教科書の活用
積極的に児童生徒に使ってもらうつもりはないが、教師用は準備し、電子パネルに映す形で利用したい。対話的な学びは教師と子供が目を合わせていることが望ましく、それを妨げない形で利用したい。
■端末の持ち帰り
全学年でできるようにする。オンライン授業をするつもりはない。小テストのような宿題に使いたい。
■電磁波の子どもたちへの影響
総務省の基準に従う。[鎌倉平和学習会〈注〉:日本の電波防護指針=規制値は1000μW/cm2 (マイクロワット・パー・平方センチメートル)以下で世界で最もゆるいとされる。ロシア、ベルギー、ポーランド、ギリシャ、スイスは2.4μW/cm2。中国6.6μW/cm2、イタリア10μW/cm2。=出典:加藤やすこ,臨床環境医学,特集「電磁場の健康影響ー最近の動向」,2012年ほか]
■鎌倉スクールコラボファンドによる取り組み
やりたいことのある学校が手をあげ、教育委員会が仲立ちとなって地域の人よりもっと広い範囲で子どもたちの教育に力を借りたい。「専門性」を持った方に来てもらえば、当然謝礼が要る。今は玉縄中学が慶應とSDGsの問題に取り組んでいる。次に小坂小が利用する予定。今年中に全額使い切る必要はない。来年からもずっと続けていきたい。

【会談後記】
◇終わって、前川喜平さんがおっしゃっていた「いい奴なんですよ」を思い出しています。相手に好印象を与えることが出来ること自体、それまでの環境のおかげもあるのではないか?いつからか「自己責任論」が跋扈する日本社会にあって、教育だけは、どんな環境の子ども達にも平等に与えて欲しい。なるべく多くの子どもが、教育長同様に若い頃の夢の実現ができますように、と念じながら、水道局ビルを後にしました。(FK)
◇会談の目的は、GIGAスクール構想が、経済発展のための教育という考え方と、公教育の市場化という側面を孕んでいて、それが鎌倉でどのように展開されようとしているかを確かめることだった。また、昨年の教育長の着任の仕方はセンセーショナルで、どういう方なのだろうという興味も正直あった。実際にお会いして話してみると、教育長は穏やかで、用意した質問にひとつひとつ答え、一言で言ってとても「いい人」という印象だった。2日後、ある人の報告で、推進校のことを知り驚いた。GIGAスクールサポーター契約は、予算がないのでコールセンター方式だと聞いていたからだ。推進校の「サポーターは、ICTビジョンづくり、授業づくりを考えるファシリテーターで、民間企業の人材を採用する」そうだ。そうなると、小テストのかわりにAIドリルを導入するだけと思っていた受け止めのニュアンスも変わってくる。また、無線LANシステムは、クラウド上の一元的な管理で、システム上のタイマーによって全校で登校前にON、午後6時にOFFになるように設定されているという。学校や教室でON OFFできず、過敏症の子どもたちの対応はどうするのだろう?このように後から大事なことがわかり、子どもたちのために今後もGIGAスクールを注視していかなければならないと感じた。(AW)
*──岩岡寛人教育長の前身は文部科学省初等中等教育局幼児教育課専門官で、任期は2020年8月1日~2023年7月の3年間。鎌倉市が教育長に国家公務員を任用するのは初めて。
(鎌倉平和学習会kamapea55@gmail.com 2021年6月23日)