FM放送で「香害110番」について話しました   シリーズ「香害」 第2回

著者: 岡田幹治 おかだもとはる : ジャーナリスト
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9月13日の朝、FM放送「J-WAVE」の「STEP ONE」という番組に出演し、「香害110番」について話してきました。
東京都港区の「六本木ヒルズタワー」33階にあるスタジオに出向き、ナビゲーターのサッシャさんとアシスタントの寺岡歩美さんの問いに私が答えるという約10分間の番組です。
頭の回転が鈍く、口のよく回らない私は、お二人のようにテンポよく話すことはできません。たどたどしく「香害」問題の基本を説明してきました。
シリーズ「香害」の第2回は、そのやりとりを紹介します。放送されたそのままではなく、一部を省略したり補ったりして私の考えを理解しやすくしてあります。

◆「香害」とはどんなものか
サッシャ 気になるニュースの裏側から光を当てる「BEHIND THE SCENE」。今朝は、香水や柔軟剤、シャンプーなど、人工的な香りによって健康被害や不快な思いを感じる「香害(香りの害)」にフォーカスします。
寺岡 日本消費者連盟は、人工の香料が原因で体調を崩す人が増えていることから、7月と8月の2日間、相談窓口「香害110」を開設したところ、200件を超える相談が寄せられたそうです。
サッシャ 実際にどんな相談が寄せられたのか? どんな対処法があるのか? 香害問題に詳しいジャーナリストで、『香害 そのニオイから身を守るには』という著書も出版されています、岡田幹治(おかだ・もとはる)さんに、お越しいただきました。岡田さん、おはようございます。
岡田 おはようございます。
サッシャ まずは「香害」とはどんなものか教えてください。
岡田 文字通り、香りによる害のことです。最近、あらゆる商品に香りがつけられるようになった結果、その香りで不快になる人や、その商品から放散される香料などの化学物質を吸い込んで健康を害する人が急増しています。
ニオイに対する感受性は個人差が大きいのですが、敏感な人は香料などの化学物質をごく微量でも体内に取り込むと、頭痛をはじめとする多様な症状に悩まされます。
頭がぼんやりして何も考えられなくなり、声や言葉も出にくくなります。吐き気・のどの腫れ・発熱などの症状が出る人もいます。
これが悪化すると、「化学物質過敏症」という病気になります。
サッシャ ちょっとアレルギーと似ていますね。
岡田 重なるところが多いです。
寺岡 ちゃんと病名がついているのですか。
岡田 8年前の2009年に「化学物質過敏症」として病名登録されました。

◆強くて長持ちするようになった香り
サッシャ 「香害」という言葉は以前からあったのですか?
岡田 比較的最近の言葉です。5年前に大手洗剤メーカーが一斉に「香りつき柔軟仕上げ剤」を発売し、「香りブーム」になったころから、各地の消費生活センターに被害を訴える相談や苦情が急増しました。
そのころから一部の人たちが「これは『香害』と呼ぶべきではないか」と言っていましたが、私が昨年6月、『週刊金曜日』という週刊誌に「ひろがる『香害』」という特集記事を書いてから、世の中に広がり出したと思います。
サッシャ じゃー、岡田さんが広めた?
岡田 うーん。広めるのに一役かったとはいえます。
サッシャ 日本はもともと無臭で、香りは海外の方が強い。海外の人には香りに対する耐性が強いというような、体質的なものがあるのでしょうか。
岡田 それもあるかもしれませんが、かつての香水と最近の柔軟剤とは香りの質と量がまるで違うことが大きいと思います。技術の発達によって香りがより強く、より長持ちするようになったうえ、使用量がケタ違いに増えています。
サッシャ より人工的になった?
岡田 そうです。そして、非常に多くの人が使うようになった。
サッシャ ヨーロッパで育ったせいもあり、ぼくはどちらかというと強い香りが好きなのですが、それが他人に迷惑をかけているとは知りませんでした。

◆隣人の柔軟剤による被害
サッシャ ところで、日本消費者連盟が7月と8月に行なった「香害110番」では、どんな相談が寄せられたのですか?
岡田 最も多かったのは、近隣の洗濯物の柔軟剤による被害だったそうです。たとえば「マンションで隣に住む人が干す洗濯物の柔軟剤で苦しんでいる。管理人を通してやめてもらうよう頼んだが、らちがあかない」という訴えです。
また「他人の柔軟剤の香りで息ができなくなり、吐き気もある。耳鼻科に行ったが治療できないと言われ、精神科に行きなさいと言われた」と訴えた人もありました。
共通するのは3点です。一つ目が、頭痛をはじめとする健康被害が続き、普通の生活が困難になったこと。二つ目が、ニオイに神経質な特殊な人物だと周囲から見られ、苦しさが理解されず、孤立しがちであること。そして三つ目が、決して個人の問題ではなく、だれでも被害を受ける可能性のある、一種の「公害問題」だと広く知らせてほしいということです。
サッシャ 確かに化学物質に敏感でない人には想像がつきません。ぼくも洗濯物を干したとき、ニオイが隣にまで行くとは知りませんでした。
岡田 同じ家に住んでいる家族にさえ理解されないことも少なくありません。被害者たちが訴えるのは「好き嫌いの問題ではない。健康が損なわれることをわかってほしい」ということです。
寺岡 過敏症のご本人も病気だとわからず自分だけで悩み、精神的に孤立してしまうかもしれませんね。
サッシャ 「気にし過ぎだよ」とか言われて。
岡田 中には、体調が悪くなったのに柔軟剤などを使い続けている人もいます。原因が何かわかっていないのです。

◆公共の場では香料の自粛を
サッシャ 実際に香害で悩まされている方は、どうすれば良いのでしょうか。
寺岡 何科を受診するとか。
岡田 生活が困難になるほど重症の方は、専門のクリニックを受診してください。専門のクリニックは国内にはわずかしかありませんが、「化学物質過敏症支援センター」という支援組織や各地の患者会に相談すると、教えてくれます。
そこで化学物質過敏症と診断されれば、治療が始まります。治療といっても薬や手術では治りません。体内に取り込んだ化学物質を排出し、新たに化学物質を取り込まないようにして症状を少しずつ改善していくのです。
ところが、いまの時代、「化学物質を取り込まない」を実行するのは容易なことではありません。生活をすっかり変える必要があるからです。ですから、普通の生活ができる程度にまで回復する人は多くはありません(注1)。
サッシャ 一方で、ぼくなんかもそうですが、香りを楽しんでいる人もいます。香りがリラックス効果をもたらし、それで元気になる人もいます。この問題にどう向き合っていけばいいのでしょうか。
岡田 香害はタバコの害に似た面があります。喫煙者にリラックス効果をもたらすタバコはかつて、ごく普通の生活習慣であり、文化でもありました。しかし、健康への影響が明らかになり、禁煙する個人が増え、社会では「分煙」から「受動喫煙の防止」へと進んいます。
香りについても、個人で楽しむのは自由ですが、少数とはいえ被害を受ける人がいる以上、だれもが出入りできる場所での利用は自粛する、とくに濃厚な香りは自粛するようにしたいものです。
カナダやアメリカでは、無香料や香料自粛を求める自治体・職場・病院・学校などが少しずつ増えています。
サッシャ アメリカはむしろ柔軟剤などの香りの強い国なのに?
岡田 それだけ被害を受ける人も多いということなのでしょう。
サッシャ 香害はどこまで影響が及ぶか目に見えないものです。それだけにわれわれも、想像力を広げていくしかない。そしてニオイで苦しむ人たちが遠慮なく、そのことを言える社会にしたいと思います。岡田さん、今日はどうもありがとうございました。
岡田 ありがとうございました(注2)。

◆「香害110番」のその後
「香害110番」は日本消費者連盟(日消連)洗剤部会の3人の女性が中心になって企画・実行したものです。その結果、番組でお話ししたような相談が寄せられました。
これを受けて日消連、化学物質過敏症支援センター、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議など8団体は、政府や業界に働きかけていくことを決め、まず消費者庁・国民生活センターに要望書を提出し、8月28日に懇談会を開きました。
要望は▽国民生活センターが「香害110番」を開設して実態を把握する、▽「香害」で苦しむ人がいることを周知徹底し、使用者に自粛を求める啓発をする、▽柔軟剤などを家庭用品品質表示法の対象品目に指定する――など5項目です。
懇談会に出席した官庁側の担当者8人はほぼ全員が柔軟剤を使用しており、「香害」について何も知りませんでした。要望への対応は消極的で、団体側は文書での回答を求めましたが、9月4日に電話で次のような回答があっただけでした。
「専用窓口は設けないが、実態の把握は検討する」「啓発については考えないでもない」「対象品目指定は、業界などの意見を聞き、必要と判断すれば、(法律をともに所管している)経済産業省と協議する」
8団体は「香害」被害をなくすため、さらに運動を続けることにしています。

注1 まだ軽症の人は、化学物質を放散させる日用品(柔軟剤・合成洗剤、シャンプー、制汗剤、消臭スプレーなど)や家具などを身の回りからなくすとともに、隣人などに「使用をやめてほしい」ときちんとお願いすることを勧める。近隣の十分な理解が得られず、引っ越した人もいる。
注2 生放送を聴いたある患者からは「香りにマイナスのイメージを持っていないナビゲーターが、うまく誘導し、自分の考える方向へもっていった印象を受けた」との感想が寄せられた。

(J-WAVE提供)

◆岡田の10月の講演予定
▽香害~そのニオイが体を蝕む
  10月9日(月・祝)午後1時30分~4時
  連合会館501会議室(東京都千代田区神田駿河台3-2-11)
  問い合わせ:日本消費者連盟(03-5155-4765)
▽香害~そのニオイから身を守るには
10月15日(日)午前10時30分~12時30分
多摩きた生活クラブ生協・デポー国分寺2階集会室(国分寺市西恋が窪3-16-14)
問い合わせ:生活クラブ生協・小平センター(042-451-8834)
▽香害~そのニオイから身を守るには
  10月28日(土)午後2時~4時
  あんさんぶる荻窪4階第2教室(東京都杉並区荻窪5-15-13)
  問い合わせ:消費者グループ連絡会・田中(080-3256-8299)

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