GDP(国内総生産)物語

韓国通信NO778

わが国の付加価値(生産)合計を意味するGDPが振るわない。
長らく続いた世界第二位の席を2010年に中国に奪われ、2013年にはドイツに抜かれ、明日にでもインドに抜かれようとしている。
マラソンに例えるならトップグルーブから脱落、振り返るとインドネシア、ブラジル、韓国も後ろに迫っている。だがGDPの比較で、一喜一憂するほど馬鹿げた話はない。GDPと「豊かさ」についてあらためて考えた。

<実感のない豊かさ>
私のサラリーマン時代は高度経済成長期から終焉期にあたる。豊かさを追い求めても、住宅ローンと生活費、特に教育費の支払いに追われ、「企業戦士」の生活は世界第二の経済繁栄とは無縁な世界だった。
長時間労働の割には低賃金、豊かさが実感できない生活。親からは「ぜいたくな奴」と言われもしたが、確かに、戦争のない平和な時代ではあった。
バブル経済が崩壊して間もない頃、勤めていたハローワークに夥しい数の求職者たちが押し寄せるのを見て、経済大国のメッキがはげ落ちるのを実感した。
以来、労働者の貧困が消費の低迷を生み、不況をさらに深刻化させる悪循環となって今日まで続く。GDP幻想に捕らわれた政治家、財界は「働き方改革」「仕事の効率化」「A1の活用」などともっともらしいことを言うが、小手先の処方箋から出口は見えない。経済至上主義は貧困を生んだばかりか、自然環境破壊、関係がないように見えるが、出生率の低下、自殺、不登校、家庭崩壊など、歪んだ社会現象とも無縁ではない。
企業が儲かれば国が繫栄し、国民も豊かになると疑わなかった。挙句に到達した日本の現実は、世界貧困率ワースト10位、出生率212位、男女格差率118位、非正規雇用者数世界2位、軍事費総額9位、社会保障費21位、教育費128位(いずれも対GDP比)、幸福度ランキング55位をあげれば十分だろう。これがGDPを追求してきたわが国の成績表である。
弱者切り捨ての生活保護の給付切り下げに象徴されるように、政府は大企業を富ませるばかりで、一般庶民を無視し続けてきた。もはやGDP幻想に惑わされず、豊かに暮らせる社会を求めて立ち上がるほかない。「絶望の隣に希望がある」(アンパンマン)。

<自民党政治の闇>
世界第4位の日本の成績表が恥ずかしい。国民を幸福にしなかった自民党には政権を担う資格はない。国民は眼中になく、政権の維持と自己保身のために企業献金にしがみつく議員ばかり。自民党総裁選の茶番劇を見せられては腹が立つばかりだ。

<旧統一教会の新たな衝撃>
日本で解決済みと思われてきた旧統一教会問題について前回号で少し触れた。
9月23日、韓鶴子(ハン・ハクチャ) 総裁(写真)が政治資金法違反、請託禁止法違反、業務上横領、証拠隠滅教唆の疑いで逮捕された。今後の捜査次第では日本への波及は必至と思われる。
尹錫悦(ユン・ソギョル)前大統領の与党「国民の力」に提供した多額の収賄(裏金)と請託が明らかになった。

教会トップの逮捕によって、日本の信者に動揺が広がるのは当然だが、注目すべきは旧統一教会の資金の使い方であり、韓国ではどのように政界工作が行われたのか、日本ではどうだったのか。
日本国憲法21条は信教の自由を保障する一方で、宗教団体が国から特権を受け、政治上の権力を行使することを禁止している。また国、機関は宗教的活動ができず、いわゆる「政教分離」を求めている。靖国神社公式参拝で問題となった宗教と政治の問題が旧統一教会との間で生じなかったかという問題がある。

安倍元首相が信者二世によって射殺された事件(2022/7)で、にわかに安倍氏自身と自民党と旧統一教会の関係に注目が集まった。自民党国会議員379名の内、180名が政策協定、選挙協力、パーティ券購入、祝辞・メッセージ送付という関係を公表。いわば持ちつ持たれつの関係を認めたが、党として今後は「関係を断つ」と表明し、公式的には旧統一教会問題は解決済みとなった(2023/9)。だが、祖父の岸信介首相から始まり、孫の安倍晋三に引き継がれた旧統一教会との関係はその程度のものだったのか。
韓国では金建希(キム・ゴニ)前大統領夫人への高額なプレゼント、有力与党議員への裏金供与が明らかになったが、わが国では「縁を切った」と宣言し、実態はいまだ不明なままである。韓国では政権交代によって旧統一教会と政権との関係にメスが入った。日本の検察と報道の力にそれを期待するのは無理だろうか。

益子朝露館だより-
韓国の写真家、鄭周河氏の写真展が開幕(9月20日)した。殺処分を免れ、ひたすら生き続ける120頭の牛。作家は開幕当日の挨拶で、生かされている牛の姿から不条理な牛の苦悩を感じ取ってほしいと訴えた。

イスラエルのガザ攻撃が他人事とは思えず、わが国にも迫る戦争の重苦しい雰囲気のなか、初めて同時通訳に挑戦して写真展の今日的意義を伝えた。
展示作品は20点。益子在住の二名の反原発陶芸家の作品も協賛展示中。
記憶の陶板陶芸美術館「朝露館」で10月3日まで公開。
終了後は福島県白河の原発災害情報館で10月9日~20日まで開催予定。
(2025.9.30)