(2021年7月27日)
昨日(7月26日)の毎日新聞8面に、青島顕記者の[NHK経営委の議事録]についての解説記事。「全面開示まで2年も」「第三者機関答申 一時ほご」の見出しが付けられている。「ほご」は、「反故(ないし反古)」のこと。NHK経営委は、NHKが自ら定めた情報公開制度における第三者機関からの全面開示答申を一時は反故にした。そのため、問題の議事録がようやく公開されるまで2年もかかったという内容。
https://mainichi.jp/articles/20210726/ddm/004/040/023000c
私の確信するところでは、経営委員会に議事録公開の決断をさせたものは、本年4月における「不開示の場合には提訴」を予め宣言しての市民100名余による文書開示請求であり、6月の文書開示請求訴訟の提起である。残念ながら、毎日記事はこの点についての言及がない。
とは言え、この毎日記事は、(NHKというよりは)経営委員会の隠蔽体質と情報公開制度への無理解を鋭く批判する内容になっている。この件の報道については当紙(毎日)が先鞭をつけてきたとの自負が前面に出て微笑ましいが、毎日の功績は誰もが認める立派なもの。
この記事を読んであらためて思う。行政文書の開示請求への拒絶が問題となるのは、文書の公開を不都合とする行政当局者の姿勢の故である。結局のところ、公開を不都合とする行政の実態があり、これを隠蔽しなければならないからなのだ。国民の目の届かないところで、国民に知られては困る行政が進められていることが根本の問題なのだ。
情報公開とは、国民の利益のために行政に不都合な情報の公開を強制する制度である。この制度の改善と活用は、行政の透明性を高め、歪んだ密室行政を是正するために不可欠である。
NHK(日本放送協会)は行政機関ではなく、「独立行政法人等情報公開法」の適用対象となる「独立行政法人等」にも該当しない。しかし、情報公開法に倣った情報公開制度を自ら作っている。その制度の趣旨は、情報公開法と変わるところはない。「視聴者・国民の目の届かないところで、視聴者・国民に知られては困るようなNHKの運営が行われないように、NHK経営委や執行部に不都合な情報の公開を強制する制度である。この制度の進展と活用は、NHK運営の透明性を高め、歪んだNHK運営を是正する」ことにつながる。
この点を、毎日記事は、NPO法人情報公開クリアリングハウス三木由希子理事長の次のコメントを引いて批判してしている。まったくそのとおりと思う。
「(行政であろうと、独法であろうと、またNHKであろうとも)公共性のある組織の情報公開のあり方を、経営委は理解できていなかった。それが問題の根本にある」
さらに、毎日記事が批判の対象としたのが、今月8日、経営委が問題の議事録を全面開示を前にホームページに発表した下記の見解。
「18年当時の経営委での非公表を前提としたやりとりが、経営委のあずかり知らぬところで、マスコミに報じられたことは大変遺憾。ガバナンスの基本である情報管理の徹底に向けて、更なる機密保持の強化を検討する」
ここでいう「マスコミ」が毎日を指すことは周知の事実。毎日が、黙っておられるはずはない。経営委の「ガバナンスの基本である情報管理の徹底に向けて、更なる機密保持の強化を検討する」は、本来漏れてはならない個人情報等についていうべきこと。公表すべきにもかかわらず隠蔽を批判された文書について、開き直っての「機密保持強化宣言」は、「文書隠蔽強化宣言」にほかならない。
この点について毎日記事は、次の三木由希子の批判のコメントを引用している。
「危険な考え方だ。知らされるべき公益性があれば報じるのが報道機関の役割だ。『機密保持の強化』は単なる隠蔽工作の強化にならざるを得ない」
NHK経営委員会は、追い詰められて渋々と、隠したかった議事録を公開した。しかし、その土壇場でのこの悪あがきである。はっきりしていることは、経営委員会は情報公開制度の趣旨をまったく理解していないことである。この会議の当時も、そして今にしてなお、である。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.7.27より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=17281
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion11146:210728〕