野田政権は就任以来、TPP(環太平洋経済連携協定)参加に向けしゃにむに突き進んでいる。とりあえず11月12、13日にホノルルで開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議で米国の要請に沿って現在9カ国で進んでいるTPP交渉に日本も参加することを表明する方針だ。これに対し、与党民主党内でも促進派と慎重派に分かれ、党内抗争が繰り広げられる事態が続いている。一方,TPP参加反対の運動も徐々に広がり、農業団体、医師会などの行動がメディアに現れるようになった。10月31日には、農民や市民で構成する「TPPに反対する人々の運動」が都内でTPP交渉参加反対を掲げてシンポジウムを開催、「TPP反対の大きな流れをつくりだす」との宣言を発するなど、草の根の運動も盛り上がりを見せ始めた。(大野和興)
「TPPに反対する人々の運動」には、平日夜、小さな市民運動が呼びかけた集まりにも関わらず五〇〇人の人々が参加した。北海道、山形、福島、新潟、大阪など遠くから駆けつけた人も目立った。集会が掲げたタイトルは「やっぱりTPPでは生き等れないー震災復興に乗じたTPPにNO!」というもの。同集会の特徴は、TPPによる打撃は新聞やテレビがいうような農業に限定された小さなものではなく、労働者、中小企業、医療や福祉、食や生活の全など人々の生活と仕事全体にかかわるものであることを強くアピールしたことだ。
集会は「第一部では山下惣一さん(佐賀・百姓・作家)、鴨桃代さん(全国ユニオン代表)、色平哲朗さん(長野・佐久総合病院医師)の三人が、農民、労働者、医療制度などそれぞれの側面からTPPがもつ問題点、危険性を語った。また、会場から食の安全がいかに壊されるかについて日本消費者連盟共同代表の山浦康明さんが具体的事例をまじえながら報告した。
山下さんは百姓が耕すことの意味を問いながら、いかに市場での競争やコスト論議と百姓仕事が無縁であるかを述べ、TPPが掲げる徹底した市場原理はその営みを壊してしまい、農地は耕すものが所有し利用することを定めた農地法が非関税障壁として崩されてしまうだろうと強調した。
鴨さんは、いま労働者が置かれている雇用の不安定化と労働条件の悪化の上に、TPPが重なったらどうなるかを話した。第一次産業の崩壊と労働力の移動の自由化は労働市場を直撃、いっそうの雇用不安の増大と労働条件の悪化を招くことは明らかだと話す。
色平さんは、TPPはこれまで日本社会の安定に役立っていた社会システムを壊すが、なかでも国民の健康を守ってきた公的保険制度は米国の医療.製薬資本の日本進出のじゃまになるので切り捨てられると指摘した。「世界中でうらやましがられている国民皆保険制度は最後を迎え、お金のある人しか十分な医療を受けられなくなる」。
山浦さんはBSE(牛海綿状脳症)を防ぐためにとられきた米国産牛肉の輸入規制(月齢二〇ヶ月以下しか輸入しない)が緩和されそうな事態を例に引きながら、TPPによる食の安全の規制緩和は始まっていると指摘した。
第二部は、脱原発・反TPPで論陣を張っている慶応大学教授の金子勝さんの報告だった。金子さんはTPP交渉の経過や米国の政治状況を分析しながら、政府や大メディアが流す情報の嘘を具体的に指摘。脱原発の経済の構築と重ね合わせながらTPPを跳ね返す社会経済を作る具体的な民衆の側からのプログラム作りを呼びかけた。
最後に参加者一同で、「世界の九九%の人たちとつながろう」と呼びかける宣言を発して幕を閉じた。「TPPに反対する人々の運動」はAPECホノルル会議に代表団を派遣し、ニュージーランドやオーストラリア、アメリカのTPPに反対する市民組織と一緒に反対の集会やなどを持つことにしている。
日刊ベリタ(2011年11月01日)より、著者の許可を得て転載
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