日本生活協同組合連合会(山下俊史会長、組合員・2200万人)は、3月上旬までに環太平洋経済連携協定(TPP)に関する討議資料を作成し、傘下の生協組合員に提示する。菅内閣がTPP参加の検討を積極的に進める方針を打ち出したことから、組合員にTPPについて学習してもらおうというのが狙いだ。ただ、同生協連は、TPPについての議論を組織するものの、組織としては日本のTPP参加そのものについては賛否を明確にしない方針だ。
日本生協連は1月13、14の両日、東京のグランドプリンスホテル赤坂で2011年全国政策討論集会を開いた。これは、全国の生協のその年の活動方針を決めるために全国の生協の役員、幹部職員を集めて毎年1月に開いている催しで、今年は全国から約350人が集まった。初日は全体会、2日目は分散会を開いた。
全体会では、日本生協連提案の「全国生協の2010年度まとめと2011年度方針」、同生協連2020年ビジョン策定検討委員会が作成した「日本の生協の2020年ビジョン」第一次案に対する発言や各地の生協の活動や経営状況に関する報告などがあったが、TPPに関する発言が目立った。
TPPとは、2006年にニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4カ国で発足した自由貿易協定。工業製品や農産品、金融サービスなど、加盟国間で取引される全品目について関税を原則的に100%撤廃することを目指す。その後、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの5カ国が参加を表明。カナダも参加の可能性を検討しており、太平洋地域の貿易・経済の新たな枠組みとなる可能性が強まっている。
全体会であったTPPに関する発言は、いずれも「日本がこれに参加することには反対」という内容で、「参加すべきだ」という発言はなかった。
おおさかパルコープからの参加者は「TPP参加には反対だ。日本がこれに参加すると、農林水産業は壊滅的になり、350万人が失業して、地域社会の崩壊につながる。自然、風土、環境も維持できなくなる。外国産の農産物がどっと入ってくるので、食品の安全も損なわれる。公共事業へも外国企業が参入してくるから、日本の労働者は賃下げ、失業に直面するだろう。TPPは、市場原理を掲げるアメリカの企業や日本の経団連など一部の大企業が国境のない市場をつくり出すのが狙いだ。国民生活を破壊するTPPに対し、日本最大の消費者団体である生協は反対の声を上げるべきだ」と発言した。
パルシステム神奈川ゆめコープからの参加者は「TPPに参加すると、農業ばかりでなく、工業、金融、サービスの面でも関税が撤廃される。国民生活は大混乱するのではないか。果たして、貿易自由化と農業再生は両立できるのか。果たして、国民のコンセンサスは得られるのか。農業は、国民に食料を提供するばかりでなく、日本の国土、治水、環境を守っている。日本人の命と暮らしを守っているのだ。JAはTPP参加に反対して1000万署名を始めるという。生協も反対の立場で運動を発展させよう」と述べた。
コープあいづ(福島県)からの参加者は「菅内閣はTPP参加と消費税増税を掲げているが、どちらも組合員の暮らしにとって重要な問題だ。国内農業のインフラが整備されないままTPP参加で関税がゼロになれば、国内農業はやってゆけないだろう。マスコミはTPP参加を煽っており、それが世間の風潮になりはしないかと憂える。消費税増税となると、低価格商品を供給しようと努力中の生協の店舗は打撃を受ける」と話した。
さらに、いばらきコープからの参加者は「茨城県は農産物生産で全国2位の農業県。TPP参加に参加すると、主要農産物の大幅な生産縮小は避けられない」と、TTP参加問題が県民に及ぼす深刻さを訴えた。
これに対し、全体会討論のまとめをした矢野和博・専務理事は「TPP参加問題に日本生協連として明確な態度を示せと言われるが、まず、論点を整理することが先決、というのがわれわれの立場。すなわち、まず、国民的な議論を、というのがわれわれの立場だ」「一方的に『参加反対』と言うのはどうか。この問題では、生産者の立場からの意見もあれば、消費者の立場からの意見もある。農家でも兼業と専業の農家では意見が違う。財界は賛成だが、連合も『参加やむなし』という態度だ。このように見方が分かれているので、日本生協連としては、いろいろな視点から議論したい」と述べた。
分散会終了後の14日午後、会長・専務による記者会見があったが、その席上、TPP問題に関する質問に芳賀唯史・専務理事は「日本生協連として、TPP参加に賛成、反対をいうつもりはない。極端な意見も出ているので、まず、冷静な議論をしようという立場だ。なによりも、これだけTPP問題が国民の関心を呼んでいるのに、客観的なデータがない。そこで、近々、論点整理のための討議資料をつくり、組合員に提示したい。3月上旬ごろまでには間に合わせたい」と答えた。
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