1月24日世界資本主義フォーラム 私のマルクス経済学改造論 その3

基軸通貨時代の「恐慌論」から無基軸通貨時代の「世界金融危機論」へ

私のマルクス経済学改造論 その3

                                            矢沢国光

[これは 1月24日(土)世界資本主義フォーラムでの報告の予稿です]

 

1  経済学の目的は「資本の運動法則」をあきらかにすることであるが、マルクス経済学(マルクス→宇野派)はそれを「恐慌論」というかたちで提出した。

「恐慌論」は、イギリスを世界の商業基地、国際金融の要、世界の工場とする19世紀中葉の世界資本主義の景気循環の経済力学をあきらかにした。

この経済力学の中心動力となるのは、実体経済(産業の資本蓄積・生産・販売)と貨幣経済(信用・決済)の相互作用である。その相互作用とは、実体経済と貨幣経済の統合体としての「資本」の価値増殖過程の発展(好況)、頓挫(恐慌)、再編(不況)をもたらす貨幣(金融)と実体の相互作用であるが、「恐慌論」は、その相互作用を、生産過程における「価値」と貨幣に表現される「価値」とを「価値」という共通項(価値論)で結びつけることによってあきらかにしようとした。これは、マルクス経済学の恐慌論の優位性といえる。

2  19世紀初頭から1960年代までの世界資本主義は、二度の世界大戦による中断期を除いて、中心国の国民通貨(英ポンド、ついで米ドル)が世界通貨(基軸通貨)の役割をはたしており、それぞれの国民通貨は、基軸通貨に対する地方通貨――基軸通貨に対しておおむね安定的な為替相場でリンクする――であった。

それぞれの国民経済は、この時期、こうした国民通貨の安定性を前提として、実体経済と貨幣経済の相互作用としての経済力学によって運動していた。

 

3 ところが、1971年ニクソンショックから始まるブレトンウッズ通貨体制(金・ドル本位制)の解体、変動相場制への移行は、世界経済・国民経済の経済力学の枠組みを根底的に変えてしまった。基軸通貨がなくなり、各国の国民通貨の為替相場が、外部経済によって絶えず変動にさらされる国民通貨不安定の時代――無基軸通貨時代――に突入したのだ。

 

4 古典的「恐慌論」の時代、つまり基軸通貨の存在する時代にあっては、外国つまり国民経済の外部との関係は、経常収支の赤字・黒字が通貨価値(為替相場)の変動・準備金の流出入を通して国内金融の緩慢をもたらし、これが実体経済に影響した。こうしたかたちで、貨幣経済と実体経済が連動した。

ところが、無基軸通貨時代にあっては、貨幣経済と実体経済の連動が消失し[または、大きくかたちを変え]、こうした古典的「恐慌論」では、世界資本主義をとらえきれなくなった。2008年金融危機が、古典的「恐慌論」の試練の場となった。

 

5  2008年世界金融危機は、1980年代以降の貨幣経済の大きな変動――変動相場への移行と乱高下、国際投機資本の巨大化、英米金融業の国際投資機関化、金融派生商品の横行――によって準備された。何より大きな変化は、貨幣経済と実体経済の乖離――金融の独り歩き――である。こうした様相は「カジノ資本主義」、「バブルをくりかえす資本主義」などと言われ、世界資本主義の様相が1980年代を境に大きく変わったという直観的認識をもたらしている。

 

6 経済学に求められているのは、この直観的認識に理論的根拠を与えることである。ケインズ派もマネタリストも――そして現実を見ようとしない「マルクス経済学」も――これに失敗しているとき、「2008年金融危機を予測した経済学」として再評価されているのがハイマン・ミンスキーである。ミンスキーはケインズ「一般理論」を独自の観点から発展させ、投機による資産価値の拡大に依存した「借金による投資の拡張」――つまり、バブル――の破綻がもたらす金融危機の危険性に警鐘を鳴らしたが、無視され続けた(1996年死去)。ミンスキーの経済学は、国民経済の理論であり、世界経済の金融危機を扱ったものではない。しかし、その金融危機論は、今日の国際金融危機にこそ、あてはまる。

また、世界経済の金融危機そのものを追い続けてきた経済学者に、チャールズ・キンドルバーガーがいる。キンドルバーガーは、1980年代のメキシコ通貨危機、1990年の日本バブル破綻、1997年アジア通貨危機を、国際資本の投機的移動によって引き起こされた金融危機ととらえている。

7 無基軸通貨時代の経済力学は、ミンスキーの金融危機論とキンドルバーガーの国際金融危機論をマルクス経済学の方法――価値論[資本についての理論]による貨幣経済と実体経済の統合――によって高めた「世界金融危機論」として構築することができるのではないか。

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 124()世界資本主義フォーラム

■日時 2015年1月24日(土) 14時-17時

■会場 立正大学大崎校舎 5号館52A教室

品川区大崎4‐2‐16 (JR五反田駅・大崎駅から徒歩7分)

会場案内 http://www.ris.ac.jp/access/index.html

■入場無料

■内容

(1)報告①

青山 「21世紀の貨幣論」について

※フェリックス マーティン (著), 21世紀の貨幣論  東洋経済新報社2014/9/26発行

(2)報告②

  矢沢国光 基軸通貨時代の「恐慌論」から無基軸通貨時代の「世界金融危機論」へ         ――私のマルクス経済学改造論 その3

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔study631:150119〕