1月27日は「ホロコーストの日」だった(2)反省と責任のとり方

 2008年8月、初めてドイツを訪ねた折、観光客でにぎわうブランデンブルグ門のすぐ近くに、灰色のさまざまな大きさの四角いコンクリートブロックが幾千と続き、中は迷路のようになっている記念碑に出会った。これが、「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」であったのである。その広さと言い、モニュメントとしての着想と言い、それらに圧倒された。東西ドイツが統一する前の1988年からこの記念碑建設計画が始まったというが、追悼するのはユダヤ人だけなのか、そのモニュメントのデザインなど、いろいろな問題が噴出したが1999年、ユダヤ人に限定しての追悼碑に決まり、2005年5月に完成、公開の運びとなったという。さらに、驚いたのが、この追悼碑に隣接したところに国会議事堂があったのである。日本でいえば国会議事堂前と皇居のお堀の間の公園や尾崎記念公園辺りにあたるところだろう。また、ベルリンの繁華街、デパートKaDeWe近くのカイザー・ウィルヘルム教会の尖塔が焼け残りまま、戦跡として残されていた。その後の旅行では、ベルリンのドイツ歴史博物館、ドイツ抵抗博物館、焚書記念碑、グリューネヴァルト17番線ホーム、ライプチヒの歴史博物館、ルンデ・エッケ記念博物館、ミュンヘンのユダヤ歴史博物館、ドレスデンのフラウエン教会、ハンブルグの歴史博物館、ニコライ教会戦跡・追悼碑などの見学によって、近現代の歴史に重点を置いた戦跡、資料、展示物や映像に目を見張った。とくにナチスのユダヤ人迫害の歴史と検証・反省・継承に努力していることを肌で感じることができた。

 また、私たちが訪ねたドイツ以外のワルシャワ、ウィーン、オスロ、ベルゲンなどの都市に限っても、歴史博物館やユダヤ人犠牲者追悼碑などによる戦争の惨禍と反省を継承し、戦跡を守ろうとする意識が定着していることがわかるのであった。

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ベルリン「ホロコーストの碑」前方のドームの屋根が国会議事堂(2008年9月25日)

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国会議事堂の敷地に接した場所にある「国家社会主義の下で殺害されたシンチ・ロマの記念碑」前の池の周りの敷石には犠牲者の名前が彫られている。2012年10月に建てられたばかりだった(2014年10月25日)

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ベルリン郊外グリューネヴァルト駅17番線ホーム。貨物専用のホームであったが、ナチスにより連行されたユダヤ人がこのホームから各地の収容所に送られた。上は、ホームの端に並ぶ鉄の銘板の一枚、1942年1月25日、1014人のユダヤ人がベルリンからリガに送られたことを示している。これらの銘板がどこまでも続く。私たちが訪ねた日は、数日前に行われた記念式典の名残の献花があちこちに見られた。(2014年10月25日)

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ワルシャワゲットー記念碑から歴史博物館をのぞむ(2018年5月13日)

昨年末には、「元ナチス女性秘書に有罪判決 97歳、執行猶予」のニュースに驚かされた。ニュース(jijicom 2022年12月22日)によれば、
 判決は20日、ドイツ北部のイツェホーの法廷で、ナチス・ドイツの収容所で秘書だった97歳の女性に執行猶予付き禁錮2年の判決を言い渡した。女性は、ナチス占領下のポーランドにあったシュツットホーフ強制収容所で1943~45年、勤務していた。「ユダヤ人、ポーランド人、そしてソ連人」(検察)ら6万5000人が犠牲になったと推定され、うち1万人以上の死について共犯と見なされた。 法廷で被告は「起きたことすべてに謝罪する」と述べた。ただ、昨年9月の開廷時には老人ホームから逃亡し、近くのハンブルクで逮捕されという経緯もあったらしい。

 ナチスへの断罪は今も続いている。日本における、朝鮮、中国はじめアジア諸国で犯した日本の戦争責任はどうなってしまったのか。昭和天皇は延命し、平成の天皇は、激戦地で追悼するが、誰を追悼しているのか。日本の戦後政治は、さまざまな分野の「戦犯」をやすやすと復帰させた。慰安婦、徴用工問題で、いまだに責任を取ろうとしない。慰安婦の少女像ですら、まともに展示できないというありさまである。細々と守り続けてきた戦跡を残す手立てを考えない国、自国民に対しては、被爆者への補償は極力抑制し、空襲被害者へ補償はいまだ皆無なのである。国内外の遺骨収集は進まず、遺骨の混じる土が沖縄の新基地造成に使われようとしている。挙句の果ての防衛力増強なのである。
 日本人は、忘却、過去を水に流すことが得意なのか、抵抗や抗議する人々を支えることもしない人々のなんと多いことか、情けない・・・。

初出:「内野光子のブログ」2023.1.30より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2023/01/post-52e3fe.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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