12/22の現代史研究会「戦後の日本政治史を日米関係を軸に考える」の印象記

当日はあいにくの雨模様にもかかわらず、100人を超える熱心な参加者がありました。特に、日ごろはあまりお見かけしない女性たちが10数人こられていたのは驚きでした。多分これは孫崎享さんの著書(『戦後史の正体』)に触発されて、これらの問題への関心が高まったためかもしれません。

研究会は明治大学の生方さんの司会で始まり、最初に加藤哲郎さん(一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授)が、「対米従属・自立を原子力から考える」という演題で、次に春名幹男さん(早稲田大学・名古屋大学客員教授)が「日米裏面史と陰謀史観」という演題で、それぞれ90分間報告されました(詳細な報告は別途に譲るとして、ここではごく簡単な印象のみ記します)。

加藤さんの報告内容は包括的で多岐にわたるものでしたが、印象に残った主要な論点は、

加藤哲郎さんの講演(画像が暗くてすいません)

1.政治史は外交史のみから語ることはできない。もっと広い視野からの問題を考える必  要がある。経済史や社会内部の様々な動向、政権内部の勢力図、諸外国との関係などが考慮されなければならない。その意味では、孫崎さんの本は「外務省外交官中心史観」になっているのではないだろうか

2.それゆえに、議論が「自主か対米追随か」という単純な図式主義に陥ってしまっているように思う

3.しかしそういう図式では片付けられない問題点が多々残っている。ニクソンの中国直接訪問外交や71年のニクソン・ショック(ドルと金の交換の停止)などを、この図式にあてはめることは無理なのではないか。また、日本国内の「下からの圧力」(戦後革新や護憲派など)は全く考慮されていないのではないだろうか

4.佐藤内閣が「自主派」という側(対米追随ではないという意味で積極的な評価を与えられている)で位置づけられているが、果たしてそれでよいのだろうか。佐藤内閣の時代に、「非核三原則」の裏側で、秘かに日、独間で核兵器製造の策動があったという点、などはどう考えるべきなのか、…等々

一方、春名さんの報告は、加藤さんの報告と重なる点も多く含みながら、しかもそれらを元ジャーナリスト(共同通信の記者や北米支局長として米国滞在12年の経験を生かして)の視点から語るもので、CIAの対日工作―沖縄返還をめぐる諸問題は明らかに「陰謀と呼べるもの」だったと思う、など―の実態をかなり詳細に語って頂いた。その際のキーワードとしてPlausible deniabilityという言葉が紹介された。戦後のCIAの対日工作が、グルー(元駐日大使)など通じて緒方竹虎、岸信介、賀屋興宣といった保守政治家たちにおよびエージェントとして利用していたこと、60年安保後の社会党の分裂による民社党の結成といった革新陣営の分断を画策したこと、また中曽根康弘はそもそもの「核保有論者」であることなど、こちらも具体例を出されながら大いに語っていただいた。

孫崎さんの本については、対米追随では整理できない点が多々あることや、吉田茂の評価についても違和感があること、といった印象が述べられた。

春名幹男さんの講演

5分の休憩をはさんで、お二人への質問がフロアーから出された。質問内容も、それに対するお二人の明確な回答も、共に大変興味深いものだったのですが、ここではそれらを一々取り上げることは控えさせていただきます。

春名さんは今月『米中冷戦と日本 -激化するインテリジェンス戦争の内幕-』(PHP研究所刊)という本を上梓されました。孫崎さんの本とは異なった角度から戦後に切り込んでいらっしゃるそうです。また加藤さんも近刊を予定されているそうです。また、参加者の方々からのご要望と、講師お二人の許可のもとに、研究会としてもこの日の報告や議論を何らかの形で文書化して残そうと考えていますので、細部にわたっての報告はそちらに譲りたいと思います。

最後に、多くの方から、「今日の研究会は面白かった」といわれたのが我々の喜びでした。

以上

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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