これほど情熱的な国民とは、と驚くほど全土の主要都市を埋め尽くす人、人、人である。22日午前中から、ヤンゴン、マンダレー、パテイン、タウンジー、トウングー、モーラミャイン、ダウェイ・・・、SNSとドローンというIT手段のおかげで、リアルタイムで全国数百万人の動きを目の当たりにすることができる。この日、クローニーの一員のはずの最大スーパー・チェイン「シテイ・マート」やタイ卸売センター「マクロ」は休業、ラインタヤ工業団地をはじめ、国内のほぼすべての企業が操業や営業を停止。これまでのところ破壊なしに非暴力的に市民革命は進行しつつある。88年の動乱からの進化は明らかだ。それだけに国軍の残忍さがいっそう際立って見える。過去ロヒンギャ殺戮を疑われる、悪名高き第33軽歩兵師団がマンダレーに投入されているという。本来戦場での戦闘が任務のはずの重武装の狙撃手(スナイパー)が投入され、無辜(むこ)の市民を狙い撃ちにするのである。
AFP ヤンゴンのカルチェ・ラタン(学生街)であるレーダン交差点―1988年この近辺で学生たちと治安警察・国軍との死闘が演じられ、多くの若者たちが命を落とした。勝利の暁には、彼らの鎮魂と顕彰の碑をぜひ建てるべきであろう。
嵐のような抗議運動を支えているひとつは、2015年の国家教育法制定反対闘争を先頭で闘い、残虐な弾圧で敗れ去ったかに見えた学生組合のかつての指導者たちである。そのひとり、「新社会のための民主党(DPNS)」議長を務めるエイティンダーマウン氏は、先日「ラインタヤの工場地帯から女工さんたちを引き連れてデモ行進。これがSNSで賞賛され、瞬く間に拡散」と、「ミャンマー・ナウ」で紹介されている。それによれば、「これと闘うのも私たち次第です。 私たちは、軍が行うすべてのことに耐えるといういままでの政治的考え方に終止符を打たなければなりません。今こそ、国民の真の力で新しい政治的アプローチを形成するときです」と、既成のアイコン(偶像)政治とは一線を画す自分のある政治家であることがわかる。
レーダン交差点にてエイティンダーマウン氏。新しいタイプの女性政治家であろう。 本人FB
いま喜ばしいことに、市民革命に不可欠の政治指導部の結成が伝えられた。数日前までは、市民の抗議行動をA leaderless revolution「指導者なき革命」とメディアは、呼んでいたのだ。イラワジ紙によれば、 「政党、労働組合、学生自治会、農民組合、宗教団体、女性団体、僧侶、医師、弁護士、作家団体など、さまざまな分野の25の組織が参加するゼネラル・ストライキ委員会が土曜日に結成され、2008年憲法の廃止と民主的連邦国家a federal democratic unionの建設に向けて活動する」 (太字筆者)というのである。そしてNLDではない、新社会民主党(DPNS)の議長で委員会メンバーでもあるアウンモーゾー氏は、「私たちは挫折するわけにはいかない。 この時点で撤退したら、軍事政権は弾圧を強化するでしょう。だからこそ組織間で団結し、ストを強化させることが重要だと思う」と語った由。
また画期的なことに、過去全国停戦協定(NCA)に署名した10の民族武装グループが、国軍との和平交渉を中止し、反クーデタ・市民的不服従(CDM)の国民運動を支持し、これと連帯すべく努力するとする趣旨の声明を発表している。イギリス植民地主義者と軍部独裁者による「分断統治」の長い歴史は、この国の人々の意識に深い傷跡を残している。イスラム嫌いをはじめとして、宗教的、人種的、民族的、地域的な分断や差別意識は根深く、国民的な連帯・団結を妨げ、圧制に対する抵抗を弱めてきた。多数派民族である仏教徒ビルマ族が、ロヒンギャ迫害では国軍との利害の一致をみて、国軍への反発と警戒を緩めたことがクーデタにつながった側面があるのではないか。NLDが多数派仏教徒ビルマ族の政党としての党派性を強めてきたことも、少数民族との和解と協同を妨げてきた要因である。
しかし今回のゼネラル・ストライキを通じて、ストライキ委員会が恒常的に市民革命を統括する安定した指導部となり、かつその他のマイノリティともども少数民族諸組織とが共闘できれば、NLD政権に立ちふさがっていた大きな壁を乗り越えることができるであろう。
ミャンマー人の民主化運動を一貫して支持するドイツの新聞Tageszeitungすら、ミャンマー人は連帯意識が弱く、「悪名高い派閥闘争と相互不信によって、多くの善意のあるドイツ人をいかに疎んじてしまったか」としている。それもこれも自ら望んだわけではない圧政のトラウマであることを理解し、連帯の意義を倦まずたゆまず解くしかないのである。
彼女たちの母親は、街頭行動に出ることを止めなかったという。1990年代の終わり、ヤンゴンの若い女性は午後7時までに家に戻るものだと教えられていた。
最後にひとつ気になること。デモ隊は主要西側諸国の大使館に「ミャンマーのクーデタに反対し、積極的に介入せよ」と迫っている。その一方、中国に対してはミャンマーの軍事政権への肩入れをやめろと要求している。これはある意味でダブル・スタンダードであるし、自国の主権にかかわる政治過程に安易に外国の、しかも軍隊の介入を求めるのはまちがっているであろう。2008年のサイクロン災害のとき、アメリカの第七艦隊がアンダマン海に入域したというニュースに、ある国連機関のミャンマー人職員が期待にどよめいたという話を中の人から聞いたことがある。国際社会に連帯と支援を求めることはまちがってはいないものの、度が過ぎれば大国依存の罠にはまりかねないことに注意すべきであろう。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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