今からちょうど50年前の日本は、20世紀最高の政治的高揚の中にありました。いわゆる60年安保闘争です。5月19日深夜、岸信介首相と自民党は、国会に警察官を導入して社会党議員を排除し、改訂安保条約を単独強行採決、以後国会は、連日「安保反対!」「民主主義を守れ!」のデモで包囲されました。5月26日の国会17万人デモから6月4日は全国560万人ゼネスト、地方の八百屋さん、魚屋さんも店を閉めました。6月15日の樺美智子さんが亡くなる全学連の国会突入・警察との衝突、6月19日深夜、33万人が国会包囲する中での新安保条約自然成立、7月15日の岸内閣総辞職、7月19日池田内閣成立まで、「政治の季節」のただ中にありました。1960年5月の岸内閣支持率は12%、それでも岸首相は、デモの最中でも後楽園球場には人がいっぱい入っているからと「声なき声」は支持していると強弁しましたが、それならと「声なき声の会」という市民運動も誕生、結局「裸の王様」になり、辞任に追い込まれました。条約成立後の岸首相辞任理由は、6月19日に沖縄まできていたアイゼンハワー米国大統領の来日を断念せざるをえなかったことでした。今日の日米同盟、米軍基地存続、核兵器持ち込み密約、「アメリカの核の傘」「抑止力」依存への分岐点でした。
5月28日、民主党鳩山首相は、普天間基地返還の移設先に沖縄県「辺野古」を明記した日米共同声明を発表し、そのまま政府対処方針を閣議決定しました。「最低でも県外」「県外・国外」と公言してきた自らの公約への、明らかな違反です。それも5月末までに移転先現地、連立与党、アメリカの3者の合意を作ると繰り返してきたものの、結局日米合意優先で、沖縄民意の無視・裏切りに追い込まれ、連立合意からは福島社民党党首の大臣罷免、連立離脱を招き、結論は14年かけて自民党が作ってきた政権交代前の辺野古沖埋め立て案に戻るというのです。「政治主導」の迷走・空転、国民・沖縄県民への公約違反、日米地位協定そのまま、米軍への「思いやり」予算継続の最悪の愚策です。その裏プロセスはいろいろと報じられていますが、第1に鳩山首相の無定見と不勉強、第2にリーダーシップの欠如と内閣官房の機能不全、第3に民主党全体の国家戦略の欠如が、明らかになりました。60年安保の時のような政府批判の直接行動は少ないように見えますが、それは違います。50年前は、民意表出の回路が労働組合・全学連等の組織であり、国会デモと請願署名など陣地戦でした。テレビもようやく白黒が普及している段階、世論調査も直接戸別訪問・面接アンケート委式で滅多に行われませんでした。
いまや、20世紀の陣地戦・組織戦から、21世紀の情報戦・言説戦への時代です。5月末に各社の世論調査結果が一斉に出ました。沖縄県民11万人大会、徳之島1万5千人住民大会、首相の2度の沖縄訪問を踏まえた、「声なき声」の集積です。5月末内閣支持率は共同19%、時事19%、朝日17%、読売19%、毎日20%、日経22%、サンケイ19%と、全社ほぼ20%以下の政権末期症状です。不支持も6-7割で、昨年政権交代直後が高支持率スタートだっただけに、自民党政権末期の安倍・福田・麻生内閣以上のあからさまな支持急落で、国民の失望と不満が満ちあふれています。政党支持でも、民主党は支持率急落で自民党に追い越されたデータが多く、いわゆる無党派層は完全民主党離れ。参院選での投票先でも民主党忌諱が進み、2人区共倒れはもちろん、小沢幹事長のめざす過半数獲得は夢のまた夢、民主党内でも鳩山総裁への批判が吹き出し、今週中にも辞任がありうる政局。ただしマスコミが報じるのは、選挙と国会対策向けの数合わせ政局。民主党内で「国外」を模索する「沖縄等米軍基地問題議員懇談会」の存在や主張は、ほとんど報じられません。たとえ衆院絶対過半数をバックに鳩山総理が居座っても、参院選敗北、9月党大会での更迭、内閣総辞職は必至でしょう。また菅副総理、岡田外相らにトップをすげ替えても、普天間移設問題の辺野古強制が残り、日米合意の抜本的見直しを提起できなければ、民主党政権の浮上はないでしょう。
沖縄を代表する新聞『琉球新報』の5月24日社説「辺野古移設表明/実現性ゼロの愚策撤回を 撤去で対米交渉やり直せ」は、鳩山首相の「三つの軽さ」を指摘しています。曰く、「言葉の軽さ」「信念の軽さ」「認識の軽さ」。これが沖縄県民の本土政府評価、鳩山民主党内閣の通信簿であることを示す注目すべき結果は、毎日新聞と琉球新報が合同で5月末に行った沖縄県の世論調査。「辺野古」反対84%、賛成わずか6%、昨年63%だった鳩山内閣支持率も沖縄では8%の一桁まで落ち込み、不支持は78%に及び、日米合意優先で先送りされた「沖縄県民の合意」は、到底ありえません。そればかりか、この8か月の「反面教師」で、沖縄の政治意識は大きく変わりました。政党支持率はなんと社民・自民・民主の順、大きな地殻変動が起こっています。これで、7月参院選、9月名護市議選、11月沖縄県知事選を迎えます。沖縄では、
海兵隊の沖縄駐留は「必要」との回答が15%にとどまり、「必要ない」が71・2%。米軍駐留根拠となっている日米安保条約については「維持すべきだ」との回答が7%と昨年調査の半分以下にまで減少した。一方で日米安保条約を「平和友好条約に改めるべきだ」との回答が55%と過半数を占めた。「破棄すべき」が14%、「米国を含む多国間安保条約に改めるべきだ」も10%あり、沖縄の基地負担に基づく現行の安保体制への不満が強い。辺野古移設に「反対」と答えた人に理由を尋ねたところ、国外移設が36%に上り「沖縄以外の国内」に移設すべきだとの回答(16%)を大きく上回った。辺野古以外の県内に移設すべきとの意見は4%だった。在日米軍専用施設の約74%が沖縄に集中する現状については、整理縮小(50%)と撤去(41%)の意見が全体の9割を占めた。鳩山内閣の不支持率は78%と8割に迫り、昨年調査の16%から様変わりした。仲井真弘多知事の支持率は57%、不支持は29%。政党支持率は社民党が10・2%で首位となり、昨年調査から倍増。辺野古移設に反対し、閣僚から罷免された福島瑞穂党首への支持などが表れたとみられる。2位は自民で9・8%。民主は8・6%で昨年調査の29%から大きく減らした。
これが7月参院選の争点になり、国政全体に及べば……。いま、私たちは、「2010年安保」のただ中にあるのです。