めまぐるしい「政局」展開の最大のサプライズは、前原民進党代表の「民進党の(実質的な)解党、希望の党への合流」提案だ。9月28日民進党両院議員総会での前原代表の「われわれはどんな手段を使っても、安倍政権を止めなければいけない」という迫力ある発言が、事前の予想に反して、異論なしの了承となったとみる。
民進党内の「リベラル派」は、小池氏が旗揚げした形の「希望の党」にすんなり参加できるとは考えていないだろう。また、たとえ参加したとしても、早晩政治路線の相違で袂を分かつことになると考えざるをえないだろう。そうであっても、あまりに急な話、「それはそのとき」と考えるほかなかったのであろう。
前原民進党代表の突然の「希望の党への合流」提案の背景は何か?
伝えられるところでは、前原民進党代表・小池知事・小沢一郎自由党代表の三者協議が9月下旬にもたれた。また、前原氏と小池氏が事前に連合の神津里季生会長に会ったことも伝えられている。
小沢一郎氏が「オリーブの樹」、つまり議会の多数派獲得のための党派を超えた連合を持論としていることは、知られている。
9月28日の前原提案了承を受けて、民進党の衆議院議員・出馬予定者は、次のようなステップを踏むことになる。
(1) 民進党から離党する。ただし、前原代表は民進党に残って、無所属で立候補する。
(2) 希望の党に参加申請する。
ここから先が不透明である。希望の党に参加申請したものが全員受け入れられるのか。小池氏は、「民進党が希望の党に合流するのではない」と言い、「安保法制に賛成しないという方は、申し込みをしてこないと思う」とも語る。
一足先に民進党を離脱して小池新党に参加した細野豪氏は、「野田・菅両元首相の新党参加は認められないだろう」と語っている。
前原氏は、「民進党の全員が希望の党に参加できるように努める。小池氏との調整は自分にに任せてほしい」とのべて9月28日の議員総会を乗り切った。
マスコミは、これからの選挙戦を「安倍 対 小池」の対決構図と見ているが、その前に「希望の党」の主導権をめぐる「小池 対 前原」の綱引きがある。
民進党には80数名の現職議員があり、とくに地方の議員にはそれなりの「地盤」がある。これに対して小池氏の戦力としては、都議会選挙で圧勝したとき生まれた「都民ファースト」はあっても、国政党組織としては、自民党・民進党等から離脱した十数名の国会議員しかない。「こころ」の中山恭子氏や大阪府・松井知事、愛知県・大村知事らをかき集めても、民進党が全員合流してきたら、とうてい太刀打ちできまい。小池氏としては「希望の党」の当選者の数を1人でも増やしたいが、民進党議員の参加は抑えたい、というジレンマにある。
安倍首相は、カケ・モリ隠しと野党の弱体化[とくに前原民進党のスタート時点でのつまずき]をみて、「解散権の乱用」批判をものともせず、解散に打って出た。
小池氏は国政参加の準備を若狭氏・細野氏に任せていたが、突然の解散に不意を突かれて、前原民進党との連携に走るほかなかった。またそのためには、若狭・細野に任せておくわけにはいかず、「リセットして」、自ら「希望の党」の党首につくほかなかった。
小池・前原民進党の予期せぬ提携を見て、安倍首相は自らの解散戦略が裏目に出たと、臍(ほぞ)をかんでいるとも言われる。
小池氏にとっても、自ら希望の党の代表になることは、政局の力学に押されての決断であったに違いない。都知事の職務を放り出しての国政進出は、政治家としての信用を大きく損なう。自ら衆議院選挙に立候補するかどうかには、確答を避けているが、こうなっては総選挙の見通しがたとえ政権交代に届かないものであっても、いまさら都知事職専念には戻れまい。
民進党の「リベラル派」にとって小池氏の突きつける「安保法制・憲法改正」の踏み絵は、もとより認めることはできない代物だ。だが、リベラル派のほとんどは、とりあえず、希望の党への参加申請をするだろう。
リベラル派を排除したい小池氏と全員参加させたい前原氏――そのせめぎ合いがどうなるか。小池氏は、安保法制と改憲を踏み絵に選別すると公言しているが、そうもできない。小池氏にしても、希望の党の当選者の数を1人でも増やしたいからだ。
しかし「札付きの」リベラルを排除することは充分あり得る。もしそういう事態になれば、
リベラル派は、自らの結集を図らねばならない。いや、それこそが望ましい。
民進党の最大の弱点は、安全保障をめぐる政策の不一致だった。北朝鮮の脅威を煽ることによって米軍・自衛隊の連携強化と防衛費増大を図るマッチ・ポンプ式の軍拡・国家主義路線にたいして、民進党は沈黙するしかなかった。解散と「希望の党」を奇貨として、リベラル派の結集が図られることを期待したい。
「オリーブの樹」が成功して、安倍政治の息の根を止めることに期待したい。憲法を無視し、国会の熟議を無視する「安倍政治」を終わらせることは、保守・リベラルを越えた多くの国民の要求だ。
と同時に日本版「オリーブの樹」=「希望の党」は、所詮、政策の合意なき連合であるからして、安倍退陣でその役割を終わるとみなければなるまい。脱原発は共通の政策としてあるが、社会政策の合意はなく、外交・安全保障政策では正反対のベクトルだ。
世界は、アメリカの「正義」を振りかざしたイラク戦争・中東武力介入の失敗を高価な教訓として、「正義の戦争」システムからの撤退に向けて動き出している。安倍の国家主義は、こうした世界史の流れに逆行する。
世界が日本に求めるものは、アメリカを補完する(またはアメリカに代わる)「正義の番人」ではなく、「唯一の被爆国」の国民体験に根ざした全国民的な「平和主義」政策の推進である。
(2017年9月29日)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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