ギリギリのところで、事態は好転を始めた。

本日(5月14日)午後の朝日デジタルの記事。「検察OB有志も改正案に反対 元検事総長ら意見書提出へ」という。

これは、凄いことになった。与党は何が何でも明日15日(金)に委員会強行採決の方針と報じられていたが、まことにグッドタイミング。これでは強行採決などできるはずがない。

 政府の判断で検察幹部の定年を延長できるようにする検察庁法改正案について、松尾邦弘・元検事総長(77)ら検察OB有志が、改正に反対する意見書を15日に法務省に提出することがわかった。意見書は、田中角栄元首相が逮捕されたロッキード事件の捜査経験者を中心に十数人の連名になる見込み。同省に提出した後、都内で記者会見する。

 改正案では、検事総長や高検の検事長ら検察幹部が定年に達しても、政府の判断で職務を延長することができると規定。国会審議では、野党から「検察の中立性や独立性を損なう」との批判が出ているが、与党は週内の衆院通過をめざしている。

「意見書に名を連ねる十数人」が誰なのかは分からない。しかし、意見書の内容は、ほぼ見当がつく。検察の業務は国民の信頼がなければ成り立たない。政府に幹部人事を握られては、検察に対する国民の信頼が崩壊することにならざるを得ない。そのことを恐れての「改正案に反対」となるのだろう。

今朝の朝日には、検察OBの長老・堀田力さん「信頼に傷、総長も黒川検事長も「『辞職せよ』」の記事。ずいぶんと思い切った発言となっている。

「検察幹部を政府の裁量で定年延長させる真の狙いは、与党の政治家の不正を追及させないため以外に考えられません。東京高検の黒川弘務検事長の定年を延長した理由に、政府は『重大かつ複雑困難な事件の捜査・公判の対応』を挙げました。黒川君は優秀な検察官ですが、黒川君でなければ適切な指揮ができないような事件はありえません。
今回の法改正を許せば、検察の独立に対する国民の信頼は大きく揺らぎます。「政治におもねる組織だ」と見られると、捜査につながる情報が入らなくなったり、取り調べで被疑者との信頼関係を築きにくくなって真実の供述が得られなくなったり、現場に大きな影響が出るでしょう。」

とりわけ、「検察は…政治家がからむ疑惑を解明する重い責務を国民に対して担っています。与党と対立せざるを得ない関係なのです。」との一言が印象的である。これをゴリ押ししようという、アベ政権のやり口が異常なのだ。

なお、本日、改憲問題対策法律家6団体連絡会などが主催する「検察庁法改正案に抗議する!リレートーク集会」(オンライン)が開催された。Zoom(ズーム)での参加者は500人という規模の「集会」だった。やや勝手が違う雰囲気だったが、慣れていくことになるのだろうか。

身内の弁護士以外のゲストスピーカーは、以下の4名。

浜矩子さん   (経済学者 同志社大学大学院教授) 
白井聡さん   (政治学者 京都精華大学専任講師) 
前川喜平さん  (元文部科学事務次官)
藤本泰成さん  (安倍9条改憲NO!全国市民アクション・平和フォーラム共同代表)

なかで「元官僚から見た検察庁法改正案の問題点」と題した前川喜平さんのスピーチが素晴らしかった。アベ政権の人事を通じての府省支配の手法を語り、その組織支配の対象は警察に及び、いま検察を狙っている。今回の検察庁法改正は、その人事による政府組織支配の集大成だという位置づけ。

しかも、定年延長を手段とする人事支配の有効性は明らかで、現に文科省の次官人事でも実例があると生々しい報告だった。目の前の画面に拍手を送ったが届かない。これが、リアルの集会とは異なるところ。

さて、明日15日が山場だが焦りはない。 前川さんのスピーチのまとめは「いま、憲法が想定する権力の分立は、相当程度こわされている。こういう時こそ、主権者国民の出番となる。900万件のツィートはその表れだと思う」というものだった。

正論は確実に民意となっている。自民党の中にも、これでは国民から見離されるという危機感をもつ人が出てきている。公明党も、もう自民党にくっついてばかりもおられまい。検察OBも異例の反対意見書だ。歯車はよい方向に回りはじめた。まだまだ、日本の民主主義も捨てたものではない。
(2020年5月14日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.5.14より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=14900

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

〔opinion9751:200515〕