コロナロックダウンで、人々は自宅にこもり情報を求めた。テレビの報道が重要な情報源として高い評価をうけたという調査結果が最近次々に発表されている。スタッフ自体がコロナに感染する事例が出たことから、番組編成、演出手法も大きく変化した。
コロナの主要情報源になったテレビ
緊急事態宣言(4/7)から解除(5/25)に至る7週間、市民が自宅にこもって、情報をテレビに頼った、という調査が最近発表されている。
最新情報入手(73%)、概要理解(70%)、理解深める(61%)とテレビがニュース系ネットを20ポイント上回った(ビデオリサーチ5/13)。「テレビを毎日利用する」が7割に達し、速報性(71.9%)、わかりやすさ(62.4%)で情報系ネットや新聞などを圧倒した(民放連研究所調べ)。
ハネ上がったニュース視聴率
各地で外出自粛要請が出され、志村ケンさんの死亡(3/29)が重なり、多くの人々は自宅にこもり情報をテレビに求めた。その結果「報道ステーション」(テレ朝)、「情報7days」など民放報道系が20%を超えるようになった。緊急事態宣言が発令された日の「NHKニュース7」は26.8%を記録、市民の4人に1人がテレビに見入ったことは、テレビニュース黄金時代の再来である。
NHKより民放ニュース
NHKニュースの感染報道は貴重な情報ではあったが、政府批判はなかった。「特措法」でNHKを指定公共機関にしたことが影響したといえる。
人々は手軽にチャンネルを切り替えた。感染初期のもたつき、休校措置の突然の発表、PCR検査の不足などについて「モーニングショー」(テレビ朝日)、「報道1930」(BSTBS)、「サンデーモーニング」(TBS)等は視聴者に歓迎された。一部ワイドにセンセーショナルな表現もあったが、全体としてテレビは信頼された。(信頼度民放テレビ48.7%、ニュース系ネット22.4%、新聞19.1%、NHKは調査対象になっていない、ビデオリサーチ5/13日)。
アメリカ3大ネットワーク局も
この傾向は海外のテレビ報道でも見られた。昨年同期と比べて、ABCニュース48%増、NBCニュース37%増、CBSニュース24%増であった(ニューズウイー6/23)。普段この3局を反トランプとして批判的だった共和党系の市民も頼りにしたという。特に視聴率の高かったABCニュースのデービット・ミュアーのワールドニュース・トゥナイトは視聴者数1200万人を獲得、アンカーとしてニュース全盛時(1960年代~70年代)のウォルター・クロンカイト(CBS)にも匹敵する存在となった。
テレビが実践するソーシャルディスタンス
3月25日、東京都内の新規感染者がハネ上がり「感染爆発の危険」が指摘されたあと、報道系の番組では次々に自らソーシャルディスタンスの実践を始め、視聴者参加番組、芸人大量参加バラエティなど多くの番組にも広がった。
例えばTBS「サンデーモーニング」では、広いスタジオ、長いテーブルの端に司会の関口宏がぽつんと座り、ゲストの自宅からのリモート出演の立看板が林立した。各局のニュース番組で司会のアナと出演者の間隔が2メートル以上となり、中には透明なアクリル板の衝立で仕切られた番組も現れた。
バラエティでもタレントが大勢ひな壇に並ぶことはなくなった。ドラマはスタジオ収録もロケが出来なくなり、NHKの大河ドラマ「麒麟(麒麟)がくる」は6月7日放送(21回)のあと「戦国大河名場面集」の再編集でしのぐことになった。「麒麟・・・」再開は8月以降になる。
民放も過去の人気ドラマなどの再放送で穴埋めした。ところが「逃げるは恥だが役に立つ」
(TBS)、「Jin-仁」(TBS)、「ごくせん」(日テレ)などが10%を越える人気を博したことか
ら再放送番組の見直しが始まった。TBSは「半沢直樹」の再放送が22%を獲得、新版を企
画した。
広いセットにゲストのパネル映像が林立、サンデーモーニング5/31より
テレビスタッフもコロナ感染直撃受ける
コロナ感染はテレビ局自体も直撃した。毎日放送で制作担当役員の60歳男性の死亡が確認された(4/7)のに続き、テレビ朝日が「報道ステーション」富川悠太アナの感染と複数のスタッフの感染を明らかにした(4/12)。テレビ朝日では、その後打ち合わせはすべてテレビ会議に切り替え、出演者とスタッフは接触することなく放送にのぞんだ。
相方である徳永有美アナは、2週間の自宅待機の後、リモート出演で復帰、また富川アナもナマ放送に復帰した(6/4)。
新趣向リモートドラマ
リモート出演は時に映像の乱れ、音声の途切れなどトラブルが多発したが、放送を重ねることで画質、音声など質が向上した。そしてドラマをリモート画面のみで制作する、という新手法が生まれた。
NHKが「今だから新作ドラマを作ってみました」(NHK5/4,5/5,5/8)、「Living」(NHK5/30,6/6)で先鞭をつけた。「世界は3で出来ている」(フジテレビ6/11)、「宇宙同窓会」(日テレ系ネット6/6,7)、「ダブルブッキング」(日テレ6/28)などだ。いずれの作品もリモートで作ることを前提にしたシナリオをもとにしていて作品の質は高い。
例えばNHKの「今だから・・・・」の第一話は海外で挙式の思いがなわなかった遠距離夫婦とその友人らが、互いにパソコンの会議システムにつながりストーリーが展開、出演者は全員自宅にいて自撮り出演する。「世界は・・・」は一卵性三つ子の役を林遣都が一人3役で熱演した。いずれもライター達が新技法に力を入れた秀作だった。
新しい制作手法開発
緊急事態の解除後、6月に入ってテレビも徐々に従来の姿を取り戻しつつある。番組によって差はあるが、スタジオに出演者が少しずつ戻ってきたし、ドラマのロケも、スタジオ収録も感染を避けながら再開され始めた。リモート出演の簡便さに慣れ親しんで、すっかり定着したというべきだろう。リモートドラマという新ジャンルは、視聴者から好感を持って受け入れられた。
報道番組ではコロナ取材に困難は伴うのを乗り越え、取材、制作スタッフの感染を避けるノウハウも確立した感がある。新型コロナの政府の政策の批判しながら、刻々変化する状況をあらゆる角度からとらえ、視聴者に伝える番組も多くみられた。
テレビ公共CM激増
テレビ広告では自動車、電化商品など耐久消費財関連のCMが減り、イベント、映画、演劇、コンサートなどのCMも消えた。その穴埋めにACジャパンの公共CMが3月から5月にかけて大幅に増えた。「手を洗ってくれてありがとう、家にいてくれてありがとう。あなたのコロナ対策がみんなを救う」、「自分もかかりたくない」、「距離取ろう」、「手を洗うまで」など直接コロナ対策を訴える15秒CMだ。一日当たり100回放送されるという記録を作った。
一般商品のCMで目立ったのは、健康飲料「ポカリ」だった。汐谷夕希ら多数の中高生が自撮り画面でCMソングを歌いつなぐ。まさにコロナ禍の真っただ中でのCM表現だった。
新たな歩みを期待
2次感染の予測が絶えない中で8月を迎える。テレビは市民視聴者の新しい信頼を獲得しつつある。重要なメディアとして再生した今、リモートなどの新技術を手に、新たな歩みをどのように切り開くのか見守りたい。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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〔opinion9975:200729〕